殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

お迎え

2008年10月17日 22時51分43秒 | 不倫…戦いの記録
アパートの住所は、市内のはずれでした。

行ったことのない地域だったので

明るいうちにすませたかったのですが、両親に止められました。

人目の少ない夜にしろ…ということです。

お前が行け…と言いたいのをぐっと我慢。


そこへ電話がありました。

初老の古株社員、Kさんです。

「若の所へ行くんでしょう」

昼間、義姉が会社で楽しそうに話していたそうです。


若…というと立派そうに聞こえますが、          

みんな「ワ」のところを限りなく「バ」に近づけて呼んでいる

単なるニックネームです。


「わしも行きます」

       「え…なんで…」

「なんででもです」

       「でも、ご迷惑が…」

「これでクビになったら、そこまでの会社です」

とにかく夜になったら集合することになりました。


「男ってのは、女房に迎えに来られて、ほいほい帰れるもんじゃないんですよ。

 社員が迎えに来たとなれば、女の前で格好がつきます。

 今日がダメでも、一回建て前を作っといてやれば

 目が覚めた時に会社のためと理由がつけやすい。

 女にも、自分にもね。

 花道を用意して、それとわからせずに歩かせるのが

 うまいやりかたってもんでさ」


           なるほど…


「誰だって無茶がしたくなる時期があります。 

 親父と姉貴にダブルでギュウギュウやられたんじゃあ

 逃げ出したくもなりますよ」


       家では私がギュウギュウやってました…


「親父に人前で、犬ころみたいに怒鳴られて、恥かかされて

 あれじゃ他人も馬鹿にするし、本人だっておかしくもなりますよ」   


            おかしいのか…   


「しかし、生活力がない

 あの根性無しじゃあ、ヒモも無理

 結局帰ってくるしかないんだから、傷の浅いうちに連れ戻さないと」

      「私がいなくなれば、すぐ帰ると思います…」   

「なに言ってるんですか。

 子供さんたちをどうします。

 玉突きじゃあるまいし

 新しいのを見つけるたんびに取り替えたいんなら  

 ちょんまげの時代まで戻れってんだ。

 わしも腹くくっとるんだから、若奥さんも腹くくってもらわにゃ」


M子のカローラが見えました。

Kさんは、その前をふさぐように車を停めました。

ひとつでも逃走手段を減らすためだそうです。

「興奮して事故になったらおおごとだから」

どこまでも用意周到です。


ぬかるんだ真っ暗な路地を懐中電灯の光をたよりに進むと

窓から灯りがもれる小さな平屋が見えてきました。

アパートというより、小屋のたたずまい…

画鋲で貼った紙の表札が、ひらひらと風に揺れています。


Kさんがベニヤのドアをノックしました。

誰もいません。

「若の車もなかったし、どこかに出ているんだろう」

今来た道を戻ると、大きい道路に出たところで

夫の車が入ってきました。


しばらく中から出て来ませんでしたが

あきらめたのでしょう、ゆっくりとドアが開きました。

「何か用か!」

精一杯の虚勢を張る夫。


「若、迎えに来ました。帰りましょう」

Kさんがあやすように言いました。

「今は…帰れん」

「…帰りましょうや」

「いやだ」


「帰らないと言ってるでしょ!」

キンキンした声と共に、M子らしき人物が出て来ました。

「う…ひでぇ…」

小さくうめくKさん。

街頭に照らされた小柄な女性は、夫の腕にしがみつきました。


「おまえの顔なんか、見たくもない!

 この次は家庭裁判所で会おうぜ!」

不敵な笑みを浮かべた夫は、ぎゅっとM子の肩を抱き寄せました。

うっとりと見つめ合う二人…。

夫の愛人ということで、ことさら憎々しい思いが

私の視覚を歪ませたのかもしれませんが

その姿は、動物園の飼育係と霊長類のようでした。


見た目はともかく、相手は頭のいい女性です。

家庭裁判所…普通、何度か口にすると、家裁と省略します。

教えてもらい、初めて使用した雰囲気満々。

要するに、知恵をつけられたわけです。

さすが教師です。

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4 コメント

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Unknown (しおや)
2022-10-07 19:37:28
皆さんのようにまた初めから読んでるところです!

Kさんは?Kさんは今どうしてらっしゃるのですか?素敵すぎる
なにこの地獄に仏、観音様のようなお方!
こんな素晴らしいKさんや担任の先生に助けられていたのですね。
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Unknown (みりこん〜しおやさんへ)
2022-10-08 07:05:14
過去記事の再読、ありがとうございます。

Kさんには、男性の心理について色々教えてもらいました。
この数年後…夫の相手が未亡人に変わり
私が夫の実家を出てしばらく経った頃…
他の社員数名と一緒に会社を労基に訴えて退職しました。
争点は待遇に関することでしたが、会社では番頭格として
恋に溺れる夫の代わりをずっとやっていたので
それまでのことが積み重なっていたと思います。

その後は土木会社で10年ぐらい働いていましたが
60才の時、奥さんが旅行中に事故で突然亡くなりました。
喪失感が大きかったのと、たいした賠償金が入ったのとで
当時は60才定年が普通だったこともあって退職し
以後は時々アルバイトに出ながら隣町で老人をやっていて
中年になった息子さんと暮らしています。

助けられていたのか、私が勝手にすがって迷惑をかけていたのか
今となっては申し訳ない限りです。
担任の先生は海外青年協力隊をきっかけに南米に行っちゃいました。
心の支えになってくれた人たちには、いつも感謝しています。
返信する
Unknown (しおや)
2022-10-10 05:50:41
その後を教えてくださってありがとうございます。Kさんお元気なのですね。

「それも今では懐かしい感情になりました。(中略)あらぬ想像をして人を憎み洗剤をかけられたゴキブリのように悶え苦しむ自分のほうが本当は醜いのではないかと思うのです。余計なことを考えない分、案外彼等の魂のほうがクリアなのかもしれません。」

ここまで読んだだけでも、たくさん考えさせられる言葉があります。

あと、次の記事のタイトルを読んで「どういう意味?」と思っているところ、最初に目に飛び込んでくるイラストがおかしすぎます!
恐怖の一夜、ボンネット、けもの道、霊子ちゃん
コーヒーをぶふおぉwwと吹き出すしかないです!
&みりこんさん二十代の頃ツインテールだったのですか?www
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Unknown (みりこん〜しおやさんへ)
2022-10-10 20:35:10
Kさん、ここ何年も会ってないですけど、多分元気ですよ。

イラスト、楽しんでいただけて幸いです。
ものすごく下手で、自分で見ても恥ずかしくて笑えますけど
絵が描けるってのがひたすら楽しくてね。

二十代の頃?ツインテールじゃないです。
女子というのがひと目でわかるのと、愛人メンバーズと
見分けがつきやすいように、あえてあの髪型にしましたが
実際はかなりのショートヘアか、少し長めのオカッパでした。
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