隠蔽、史実の修正浮き彫りに/関東大震災から95年、企画展開催
“描かれた朝鮮人虐殺と社会的弱者たち”
今年9月1日に関東大震災から95周年をむかえることと関連し、企画展示「関東大震災95年・描かれた朝鮮人虐殺と社会的弱者たち」が、4日から東京・新宿の高麗博物館で開催されている。(~12月2日)
日本が国家責任を果たすどころか、いまだ正確な犠牲者数すら解明されず、何の賠償も公的な慰霊も行われぬまま、95年の歳月が過ぎた関東大震災時の朝鮮人虐殺。
今回の展示は、15年前に一度同博物館で行われた展示内容に、新たな資料や「当時犠牲となった社会的弱者たち」といった視点を追加する形で行われたもの。会場には、絵画やパネル、巻物、本などが全6章からなるテーマごとに展示された。
震災後、司法省が発表した数(233人)をはるかに上回る6661人の被害者に言及した「独立新聞」(1923年12月5日付)など、犠牲者数の相違を表すパネルなどが展示された第1章「関東大震災と在日朝鮮人」や、加害の側からは語られない震災当時の朝鮮人虐殺の現場を描いた絵画を展示した第2章「描かれた朝鮮人虐殺」。なかでも第2章では、血や炎を表す赤色と、焼け焦げた人や町を表す黒色を基調とした当時の子どもたちの絵が、国家が隠し切れない虐殺の現場を直に描いている。
また、震災当時の新聞報道に着目した第5章「新聞報道・公文書にみる朝鮮人虐殺」では、当時「朝鮮人が暴動を起こした」などといったデマの流布に、現在の日本における主要メディアたちもまた大きく影響を及ぼしていたことが如実に表れた。
その一方で注目すべきは、震災後、子どもたちの間で流行った遊戯などについて展示されたパネル。展示によれば、当時東京市が市内の学校児童を対象に行った調査で、震災時「恐ろしかったこと」について児童960人中184人が、「流言(鮮人・海嘯)」、110人が「鮮人」と答えており、合わせると294人、児童の3人に1人が「作られた」朝鮮人像に恐怖心を抱いていたことになる。
実際に、子どもたちのあいだで民族的な偏見や差別を助長するような「鮮人ごっこ」「夜警ごっこ」などが、当時流行った遊びの上位に入るなど、流言に駆り立てられた社会を投影する遊びが、子どもたちの差別もまた助長したことがこれらの展示から伺える。
高麗博物館理事で今展示のプロジェクトチームメンバーである村上啓子さんは、昨年関東大震災追悼行事に都知事が追悼文を送らないなど、加害の歴史を見つめない流れがあるなか、「95周年をむかえる節目の今年、関連展示をやるべきだという声があがった」ことが開催を後押ししたと話す。
村上さんは「展示された絵をよく観てもらえればわかるが、一般人が虐殺に加担しそれを主導するような犯罪を犯してしまう、そんな社会的風潮があったのが当時の状況」だとする一方で、「いまネット上のヘイト書き込みの深刻さをみれば、本質はまったくかわっていない」と苦言を呈す。その上で「権力が虐殺を後押ししたにも関わらず、その真実に迫るような展示が、いま各地の展示施設で困難な状況になっている」としながら「関東大震災時の虐殺は過去のできごとではない。今まさにあなたの隣でおきるかもしれない、そういう現在につながる問題だということを、展示を通じ感じ取ってほしい」と訴えた。
同じくプロジェクトチームメンバーで運営委員の渡辺正恵さんは、「どんなにひどいことが起きたか、史実は隠してはならない」と今回の展示に込めた思いを語った。
過去、兵庫・宝塚で暮らしていた時に阪神淡路大震災を経験したという渡辺さん。そのとき、「現地の在日朝鮮人の方々が、またデマが流れ殺されるかもしれないという恐怖感を持っていることを知り、衝撃をおぼえた」と、過去の虐殺が現在に生きる在日朝鮮人にも、恐怖経験として共有されている事実に愕然としたと話した。
また昨今、歴史教科書の中から関東大震災をはじめ加害の歴史に触れまいとする動きが強まっていることと関連し、「いま日本社会では世代ごとに持っている情報がまったく異なり、歴史についてもちゃんと教育の場で後世に伝わらない。その結果現れた典型的な例が、現在横行するヘイト」だと指摘する。
渡辺さんは、「相手を直接知った上で話している人がどれだけいるか。その意味で今回の展示が歴史を直視する場になってほしい」と思いを語った。(韓賢珠)
2018年高麗博物館企画展示「関東大震災95年・描かれた朝鮮人虐殺と社会的弱者」
日時:7月4日(水)~12月2日(日)12時~17時 *休館日:月・火曜日
場所:高麗博物館(東京都新宿区大久保1-12-1 第2韓国広場ビル7階)地下鉄大江戸線・副都心線東新宿駅A1出口 徒歩4分/JR新大久保駅 徒歩10分
入館料:一般400円・中高生200円
問い合わせ:03-5272-3510