「今思うと、可愛かったんだけど」
野口先生が話し始めた。
「最初の化石は、鮫の歯のだったの。穴が開いていて、そこに組紐を通して、ベルトにぶらさげ、芸大の授業のときなど、学生に見せびらかしたわけ」
鮫の歯の化石といっても、歯の形はほとんどわからなくて、三分の一くらい残っている、黒っぽい化石だった。大きさは10センチあるかないか位だった。
「嬉しかったね。自分でも化石がもてるって」
学生たちは、半分興味を示し、あとの半分はまったく見向きもしなかったという。
なんでも池袋東武百貨店の屋上にでる廊下で、小さな化石の店を見つけて、そこから手に入ったものだったらしい。
「例の凝り性が芽生ええてね。足繁く通うようになったのよ」
先生の収集癖は、いわゆるマニアとは違う質のものがある。しかし、興味を持つと非常に集中して通い続ける傾向にある。
化石や鉱物は、当時、ごく一部のマニアックな人々の間で、人気がある程度だった。
1年、2年、と過ぎるうちに、ご自宅の机の上には、石が増えていった。しかし、まだまだ、ボチボチという感じであった。1970年代後半の時期である。
ご自宅の石が増えるにつれて、東武の化石・鉱物コーナーも広がって、品物が豊富になっていった。この出会いが、後の「東京国際ミネラルフェア」開催に繋がっていく。
東武以外では、有楽町の駅のそばで、一年に1・2回だったか、堀秀道先生の「鉱物科学研究所」の即売会なども、ひっそりと開かれてはいた。
この鉱物・化石・隕石・砂、というような「もの」との出会いが、野口体操の総仕上げには、大きな比重をひめていたと今思っている。
「宇宙という言葉を使うのは、とても抵抗があったのよね。それに対して自然という言葉には、始から抵抗はなかったの。地球という言葉にもなかった。でも、身近に石を置いて見て、それまでの地球という言葉では済まされないエネルギーを感じるようになってね」
地球生命体としての人間存在への認識は、先生の中でより深まっていたに違いない。
「確信したのよね。生命体より以前に、物質が存在し、その物質から生きものが生まれ生命が誕生したってこと。精神はものすごく大事。だけど、僕は、このからだを主体に考えていきたいの。心や精神や意識の働きは、地球物質の一つの機能だってことなのよ。物質至上主義でもなんでもない。ただ、自然の理法というか自然の原理というか、そこをしっかり見ていきたいわけね。人間を見るのも、人間だけが特別にすばらしい存在だって始から決めないでね」
原初生命体としての人間が、地球生命体としての人間・宇宙生命体としての人間になっていくには、それからあまり時間はかからなかった。
野口先生が話し始めた。
「最初の化石は、鮫の歯のだったの。穴が開いていて、そこに組紐を通して、ベルトにぶらさげ、芸大の授業のときなど、学生に見せびらかしたわけ」
鮫の歯の化石といっても、歯の形はほとんどわからなくて、三分の一くらい残っている、黒っぽい化石だった。大きさは10センチあるかないか位だった。
「嬉しかったね。自分でも化石がもてるって」
学生たちは、半分興味を示し、あとの半分はまったく見向きもしなかったという。
なんでも池袋東武百貨店の屋上にでる廊下で、小さな化石の店を見つけて、そこから手に入ったものだったらしい。
「例の凝り性が芽生ええてね。足繁く通うようになったのよ」
先生の収集癖は、いわゆるマニアとは違う質のものがある。しかし、興味を持つと非常に集中して通い続ける傾向にある。
化石や鉱物は、当時、ごく一部のマニアックな人々の間で、人気がある程度だった。
1年、2年、と過ぎるうちに、ご自宅の机の上には、石が増えていった。しかし、まだまだ、ボチボチという感じであった。1970年代後半の時期である。
ご自宅の石が増えるにつれて、東武の化石・鉱物コーナーも広がって、品物が豊富になっていった。この出会いが、後の「東京国際ミネラルフェア」開催に繋がっていく。
東武以外では、有楽町の駅のそばで、一年に1・2回だったか、堀秀道先生の「鉱物科学研究所」の即売会なども、ひっそりと開かれてはいた。
この鉱物・化石・隕石・砂、というような「もの」との出会いが、野口体操の総仕上げには、大きな比重をひめていたと今思っている。
「宇宙という言葉を使うのは、とても抵抗があったのよね。それに対して自然という言葉には、始から抵抗はなかったの。地球という言葉にもなかった。でも、身近に石を置いて見て、それまでの地球という言葉では済まされないエネルギーを感じるようになってね」
地球生命体としての人間存在への認識は、先生の中でより深まっていたに違いない。
「確信したのよね。生命体より以前に、物質が存在し、その物質から生きものが生まれ生命が誕生したってこと。精神はものすごく大事。だけど、僕は、このからだを主体に考えていきたいの。心や精神や意識の働きは、地球物質の一つの機能だってことなのよ。物質至上主義でもなんでもない。ただ、自然の理法というか自然の原理というか、そこをしっかり見ていきたいわけね。人間を見るのも、人間だけが特別にすばらしい存在だって始から決めないでね」
原初生命体としての人間が、地球生命体としての人間・宇宙生命体としての人間になっていくには、それからあまり時間はかからなかった。