おばちゃん介護道/山口恵以子著(大和出版)
食堂のおばちゃんをやりながら遅咲きで作家デビューを果たした作家が、同時に老齢の母親を介護しながら格闘する毎日の様子をつづったもの。著者は独身だったこともあり、母と二人暮らしをしながら脚本のプロットライターとして働いていた。見合いは何度もしていたようだが(なんと43回らしい)、結婚には至らず、父は死に、母も高齢化していく。何とか脚本家としてデビューしたかったがチャンスは廻らず、非正規の職を転々としていた。その後、なんとかそれなりに安定した食堂の厨房の働き口を見つけることができた。二足の草鞋を履きながら、母の介護も行い、そうしてやっとチャンスが巡ってきて、今度は作家として小説を書くことになる。何とか仕事をもらえるようになり、作家の仕事で一本立ちできるようになると、いよいよ母の介護度もどんどん上がっていくのだった。
つらくない日々ではないのだろうが、これが悲壮なだけの介護記録なのではない。母と娘の強い絆もあり(まずこれが基本だ)、近くに住む兄を交えて(結局彼も倒れてしまう)、一所懸命毎日を生きているという感じだ。そうして好きな酒は飲んではいるし、おいしいものは食べにも行く。仕事や猫の話なども交えて、話は横にも縦にも飛んでいく。そういう面白さもあるが、いわゆるサクセスストーリーを読んでいる趣もあり、さらに介護の実際や、そういう人間の心理もよくわかることだろう。なんというか、読み物として十分に面白いだけでなく、とにかく自然に有用な話が聞けるような感じである。説教めいた話は皆無だけど、何か人生の教訓を得たような、不思議な感慨を覚えるのではなかろうか。
僕にも母がいて同居生活をしているが、介護の方はもっぱら妻任せである。自分の母親ながら下のお世話などもしたことが無いし、本当に何もできない。そういう何もしていない僕が、何かとても参考になりながら感心してしまうエピソードがたくさんあって、とにかく引き込まれて読んでしまった。また、僕は特に作家などを目指しているわけではないが、こうして文章を書くことだけは好きである。基本は備忘録なんだけど、何かものを書くということの意味のようなものが伝わってくるのである。やっぱりプロの作家は凄いなあ、という思いと、作家でもないのになんだか書くことのやる気がふつふつと湧いてくるのだ。そういう意味でも素晴らしい本で、何かについて頑張って努力しているすべての人の応援歌になるのではなかろうか。また、何か一人で鬱屈しているような人にも妙薬になりそうな予感がする。想像以上に良著であると思うのだが、どうだろうか。