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しあわせの書/泡坂妻夫著(新潮文庫)
読後感はまさしく驚愕。こんなことをやってのけようとする人間がいるということに、大変な敬意を表する次第だ。もちろんこの著者に対してである。
トリックが凄いというのもあるが、ネタばれになるので書けない。日本語を読めるしあわせさえ感じられるお話かもしれない。ヨギ・ガンジーという人は外国人らしいが、これならお弟子さんがつくはずである。とぼけていてちっとも凄そうじゃないのだけれど、結果的には凄い事をやり遂げるのはこの人しかいないという気分にもなった。また、この本を買って所有しているという事自体も、たいへんに有りがたい気持ちになるのである。
未読の人にはトリックは決して明かしてはならない、ということなので、当然読んだ者同士のしあわせということになる。それでもルールを破るような人がいるだろうことも良く分かる。自分がこのトリックをどうしても使いたくなるからだ。しかしながらやっぱり、この感動は読んだという後の方が大きい事は間違いあるまい。読んですぐにまた読み返してしまうに違いないからだ。いや、本当だ、ということを確かめた後に、きっと深いため息を漏らすに違いないのである。そうして多くの人に是非これは読んで確かめて欲しいと思うに違いないのである。
最後にそのような楽しみも待っているが、読み進む事自体も大変に楽しい体験になるだろう。文体に独特のユーモアがあって、実はたいしたトリックなんて無いのじゃないかという不安になることはあるかもしれないが、そういうことも恐らく忘れてしまうくらい、お話し自体も面白い。いろいろと伏線も張ってあるし、途中に小さなトリックの謎解きも隠れている。むしろ最後まで読めないような人というのは、よっぽど風変わりな人に違いない。さらに読後の驚愕の事実を放棄してしまうのだから、ある意味で不幸な人だ。
改めて「しあわせの書」というこの題名にも可笑しさを感じさせられる。しかしながら本当に僕はしあわせな気分になったのだから、どんな宗教的な布教の冊子にも劣らない、偉大な布教書なのかもしれないとも思う。実は泡妻の別の作品も気になってしまうからである。そういう意味では安易に手に取ることは危険かもしれない。そういう自分を試してみたいなら、迷わず本屋に行くべしということなのである。