消された女/イ・チョルハ監督
まさに韓国映画らしい暴力描写の映像てんこ盛りである。そうしてこれが実話をもとにしているとされ、ほんとかよ、と思うはずである。ちょっとあり得ないでしょ、というお話なのである。
都会のど真ん中で道を歩いていたら、突然男たちに車に引きずり込まれ、そのまま監禁・薬漬けにされてしまう。何が何だか分からないが、そこは精神科の病院であった。彼女は父親殺しの容疑者にされ、そのまま精神病を疑われ入院させられた、ということになったようなのだ。一方でテレビ局のデレクターは、(自分のミスもあるのだが)仕事を干され、起死回生のネタとして、この監禁事件をめぐる精神病院の闇を、暴こうとするのだったが……。
女の父親は日本の警視総監のような偉い人で、実はこの精神病院の院長とも関係の深い人物だった。その目的は、臓器売買との絡みがあるらしく、権力構造の中で、闇のルートが形成されているという事であるようだ。警察権力と、閉鎖的な精神病棟にあって、マスコミの取材であっても容易に切り込むことが困難だったのである。しかし犯罪病院側には当然問題があって……。
まあ、ちょっとあり得ないホラー設定であるにもかかわらず、容赦なく暴力が繰り返される状況であるのは間違いない。実際は精神に何の問題も無いのだから、隙を見て逃走を企てようとするが、敵の組織も頑強なのである。しかし、看護師の中には、この状況に疑問を持つものもいないではない。外からはマスコミが嗅ぎつけてもいる。焦った院長は、さらに狂暴化していくのである。
困った状況なのだが、そういうものを楽しむ映画でもある。正直に言うと、あまり出来栄えは良くないのだが、時間的にもサクッと観ることができるので、怖がりながら暇つぶしにどうぞ、といったところだろう。いったいなんでこんな映画を観始めてしまったのか、頭を抱えるような状況に陥りながら、結局は観てしまえたのも、そのようなまとまりの良さであろう。いくら不条理な状態におかれたとしても、暴れてみたところで解決はしない。教訓を得たというならば、そういう事なのかもしれない。