カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

やって来た男の料理に皆がしびれる   世界で一番しあわせな食堂

2024-08-16 | 映画

世界で一番しあわせな食堂/ミカ・カウリスマキ監督

 フィンランドの田舎町に、上海から男と男の子がやって来る。彼らは恩人だという人を探してはるばるやって来たのだが、その名前を知る人は誰もいない。そのままその町唯一だろう食堂で働くことになるが、男は上海でも有名なレストランのシェフだったようで、その料理はたちまち人々を魅了するようになる。何しろたいそう旨いようなのだ。
 観光客も必ずこの食堂に寄るようになり、店はどんどん繁盛していく。結局息子も学校に行くようになっていき、友達もできた。しかしながら恩人は相変わらず見つからず、男は息子には、ひどく気難しかったりするのだった。
 まあ、恩人のミステリはあるにせよ、坦々と北欧の田舎の自然と人々の交流が描かれていく。その土地の文化の良さと、中国人という異星人がなじみながらも、困惑しながら街に溶け込んでいく。彼の武器である料理は、さらにこの田舎町を豊かに彩るのである。
 基本的にたいした事件は起きないが、中国の男が街に溶け込み、食堂の女性と親しくなっていくのだけれど、彼のビザには期限があるということなのだ。彼はそのまま帰らなければならないのだろうか……。それが一番の大きな事件かもしれない。
 中国人の男は、いちおう上海から来たことになっているが、話しているのは上海語ではなく普通語である。親子の会話なので、それは不自然だろう。フィンランドの言葉は彼には難しいらしく、最後まで正確に発音さえできない。だから彼らの会話は英語である。
 監督さんはアジアに対して憧憬を抱いている様子で、だから上海の料理に人々が魅了されていく様自体を、ジワリと描きたくなったのかもしれない。人々には嗜好があるので、皆が中華に目覚めるとは思えないのだが、単純にソーセージとポテトくらいしかない食生活には、うんざりさせられていたということなのだろうか。
 北欧の白夜があって、ずっと夕方のような映像も続く。そうして二人は親密になっていく。季節は夏のようで、雪の風景は観られない。そういう季節になると、おそらくまた違った厳しい自然があるはずである。
 基本的にはそのようなファンタジー世界を、堪能する映画なのであろう。明確なドラマチックな物語では無いのだが、いわゆるハマる人には響くものがあるのだろう。フィンランドも中国も、ある意味ではてんこ盛りなのだった。まあ、ちょっとユルすぎる感じも無いでは無いが……。
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