カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

昼も夜もパリの素晴らしさ   ミッドナイト・イン・パリ

2015-11-12 | 映画

ミッドナイト・イン・パリ/ウディ・アレン監督

 主人公は今は映画の脚本家だが、作家として自立しようとしている。金持ちの女と付き合っており、彼女の親と一緒にパリに旅行に訪れている設定。男は、現代のパリはもちろんだが、古き良き時代のパリに憧れている。そういう中、夜道を迷いながら歩いているとタイムスリップして、まさに先の大戦前の狂騒の時代のパリの街に迷い込んでしまう。そこでフィッツジェラルドとゼルダ、ヘミングウェイなどのアメリカ人、そしてその時代に活躍したピカソやゴーギャンなどの画家とも交友するという夢のようなお話。さらにピカソの恋人だったアドリアナに恋してしまう。昼の現代のパリと、夜の昔のパリという二重生活をしながら、男は恋と作家としての創作意欲とに燃え、どんどん混乱していくのだが…。
 タイムスリップするのでSF映画ともいえるが、実際にはもっとゆるい現代的なファンタジーのような感じ。いや、実際にはもっと現実的で、その当時、文字通り世界的に文化の中心地だったパリという街での、芸術の最先端で遊びまわる文化人たちの中に入って、酒を飲み歌い踊る毎日を送ることに、興奮しない現代作家などいないだろう。さらに昼間の間は確かに深く愛していた婚約者の恋人とも、もともと趣味が合わないところがあったのだが、パリとの付き合いにおいても、このずれはどんどん深まっていく。そのこととは裏腹に、夜の過去のアリアドネと過ごす時間に夢中になり、自分の軸足が過去にとどまるかに見えたのだが…。
 基本的にはコメディで、主人公を演じるオーエン・ウィルソンが、二枚目でありながらまさに、ウディ・アレンの話し方そっくりの滑稽な男を見事に演じている。これだけでも結構楽しいのだが、皮肉に満ちて実際にひねくれている男が、憧れのパリの街に染まっていく中で、どんどんまともになっていく感じもなかなか面白い。もともと現代のアメリカ人の方が狂っていたのだということも言えるのかもしれない。恋に狂うあまりに昼間の世界では逸脱した行動を見せながら、夜のパリで正気を戻し、昼間の狂った世界と決別する方がまともになるのである。見事な逆転で、地味だからなんとなくなんだが、どんでん返し映画の見本のようなスリルである。ラストの余韻もなかなかなのである。ウディ・アレンの映画だから、当たり前だが派手なハリウッド的な大傑作とは言い難いわけだが、しかしまさにウディ・アレンにしては、豪華絢爛の狂騒時代を含め、実に見事なそれなりに甘いところも見せる、見事な傑作映画になっているのではないか。何しろ初めから終わりまで楽しいし、スリルや冒険も楽しめる。そうして妙に小さいこだわりや偏見もふんだんにあって、やっぱり変だよこのインテリは(もちろん監督、ウディ・アレンのこと)、というようなオタク的な満足感も味わえる。
 まったくお得で楽しいひと時。でもひねているので以前からのファンも一緒に楽しめる。普通はあんまり大衆性の無い作風から、ちゃんと娯楽が撮れるいい監督さんになったものだと感心してしまったのだった。まあ、いらんお世話だろうけれど。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする