カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

近道は避けるべきか   Short cut

2012-08-16 | 映画

Short cut/三谷幸喜監督

 長回しでおそらくノーカットで全編を撮影している異色ドラマ。舞台劇をロケで撮ったということになるだろうか。移動して回っているので、ドキュメンタリー・タッチとも言えそうだが、実際のセリフ回しは舞台のそれという感じの喋りまくりなので、演劇を見ている感覚の方が強いかもしれない。よくまあ科白を全部覚えたものだなあ、などと感心してしまう訳だが、舞台では無いので一度きりというのが、何となくもったいないような気がしないでは無かった。
 倦怠期の夫婦というかほとんど離婚の危機にある夫婦が、葬式だか法事だかの帰り車がエンコして仕方なく山道の近道から帰ろうということになって、道々さまざまな喧嘩をやりながら歩く姿を延々と撮影しているという感じ。まあ、そうではあるが次々にいろいろなことが起こって飽きさせないばかりか、さまざまな笑いを楽しめるという仕掛けである。主演の二人の演技がさすがだなということと、あえてこのような手法をとったという緊張感が伝わってきて、それなりに長い作品だけれどそんなに飽きることなく観ることが出来るのではなかろうか。個人的には中井貴一の三枚目ぶりが板についている感じがして、この設定の面白さで役者人生が伸びたのではなかろうかという気がした。
 喧嘩そのものは外野から観る分には楽しいのだけど、それなりに身につまされる内容も使われている。僕自身はこんなような喧嘩をした覚えは無いはずなんだけど、こんなことは起こりうる事のようにも思えて、なんともくすぐったいような感覚も覚えた。少なくともこんなことにならないようにしなければ、とても身がもちそうにない。
 特に今更ながらに自分の妻の意外な面や知らなかった物事に新鮮さを覚えるというような場面が多かったように見えたが、長年連れ添って知らない事なんて無いように思えていたものがまだまだ発見があるというのは、実はあんがい普通のことじゃないか、などと思ったりした。女の方がそのように思うことは稀だろうけど、男の方がそのように思うことは普通だということだ。それだけ本性を見せないということも言えるし、このドラマのように、実は少しばかり興味を失ってしまって知らなかったということもあるだろう。もちろんそのことを指して女は怒ってしまうのだけど、そのようなすれ違いが致命的になってしまうことも、決して稀なことでは無いのだろう。そういうところがやはり身につまされて、やはり笑える訳だ。
 都会の人間と田舎の人間の対比においては、何となく違和感のあるものも無いでは無かったけれど、おおむねそのような差異があることが、生活の彩りになりうるということだ。みんな違ってみんないいわけである。しかしながら結局は、本当にこの道が近道だったかはかなり疑問で、遠回りだったからこそ発見できることもあるのではあるまいか。見終わってお互いにお疲れ様、という気分になるような、そういうドラマでありました。
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