風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

使役表現

2024-06-05 | 文化
戦前や戦時中の、特に軍人や政治家たちの言葉を聞くたびに
殊更耳に残る言葉(というか表現)がある。
「●●せしめる(せしむる)」だ。
例えば
「敵に殲滅的打撃を与えて潰走せしめる」
「同法の趣旨及び内容を周知徹底せしめる」
要は「させる(さする)」という意味だが、
この表現についてちょっと考えてみた。

「せしむる」は動詞「す」と使役動詞「しむ」の組み合わせだが
本来なら終止形である「せしむ」となるところ
上記例文はなぜか連体形の「せしむる」になっている。
(そのあとに「事」などの名詞が来る場合は連体形でOK)
本当なら係り結びとして
「敵に殲滅的打撃を与えて潰走せしめる」とか
「同法の趣旨及び内容をなむ周知徹底せしめる」
となるべきところ、文語体を無理に口語として発する際
勢い余って連体形になったのではないかと思われる。
なお、これは「させる(さする)」も同じで
本来であれば係り結びにしなければならないルールだ。
そうでなければ「さす」になるべき言葉。

ところで、最近誤用が目立つ使役表現に「さ入れ言葉」がある。
「行かせる」「払わせる」「歩かせる」などだ。
「させる(さする)」は確かに使役表現で、
「受け(e)させる」「来(o)させる」みたいに
母音が「a」以外の場合は「させる(さする)」でいいのだが、
この「さ」の前の母音が「a」の場合は「さ」が抜ける。
(「行かせる」「払わせる」「歩かせる」みたいに)
現代においてはこの乱れがとても気になる。
かつて「スマップスマップ」というテレビ番組があったが
その中で、今から料理を作るという場面で
「作らせていただきます」と言っていたことを覚えている。
とても耳障りだった。

とはいえ言葉は生き物。
現代口語において「さす」などという人はいないだろう。
「させる」という言葉が終止形化してしまっているのだと思う。
もちろん最低限の文法は理解して欲しいが
時代によって表現方法が変わってくるのはある意味自然の摂理。
あまり目くじらを立てることではないのかもしれない。
言葉は世につれ。
「せしむ」を使う人がいなくなってしまったように。
コメント
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