風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「一瞬でいい」

2012-03-22 | 読書




名前を知ってはいたが、
初めて手に取ってみた女性作家。
かつて少女向け青春小説を書いていた、
あるいは若い女性に人気の作家というだけで敬遠していた。

正直言って
プロローグを読んだだけで、もう止めようと思った。
もちろんそれまで抱いていたこの作家の印象も手伝ってのこと。
2人の女性が、それぞれ料理を作ったりワインを持ってきたりして
軽井沢の別荘で待ち合わせる・・・というシチュエーションだけで
中年の男としてはちょっと辟易するシーンだったから。
しかし気を取り直して第1章を読み始めたら
ぐんぐん物語の中に惹き込まれる自分がいた。
(プロローグが無くてもストーリーには全く影響はないと思う。
 却ってその方がすっきりとしたストーリーになると思うのだが)

まぁ、いわばジェットコースターのような物語。
登場人物達は運命や過去へのこだわりに翻弄されながら
それでもなぜかうまくいくご都合主義の人生を送る。
という意味では少女マンガのストーリーのようでもある。
けれどもそういう人生を重ねたあとの彼らの言葉は
今50歳を越えた自分の心の内にも響いてきた。
「そうそう」と得心しながら。

 過去は決して色褪せない。
 むしろ年齢を重ねることにつれて、
 焦点が合わされるように鮮明さを増す。

 「稀世は、若い頃と今と、何がいちばん違うと思う?」
 「俺は思うんだ。若い頃はとにかく答えが欲しかった。
  答えがない生き方なんて不安でできなかった」
 「(今は)答えなんてないってわかったよ。
  もっと言えば、答えなんか求めるから不安になるんだ。
  ただ、生きればいい。生きられるうちは、それだけでいい」

 自分の若さを何の疑いもなく受け入れていたあの頃。
 しかし、どこかで窮屈さも感じていた。
 (中略)
 その息苦しさに、早く大人になりたい、と何度思ったことだろう。
 (中略)
 けれども、なってみてわかる。
 未来に向かって真っ直ぐ伸びていると思っていた時間は、
 うねったり捩れたりしながら人生をぐるぐる回っている。
 そして今、18歳の自分のすぐ隣に、50歳の自分がいる。

それにしても、やはり女性作家。
どうして女性達は「男」に「過大な強さ」と
そしてそれと裏腹な「儚さ」を求めるのだろう。
英治のような、真っ直ぐで強い少年などそうはいない。
また創介のような強さと能力を持った男も。
少なくとも自分は無理だ。
少し憧れたりもするけれど、それはたぶん
世の女性達にそれを暗に求められるからじゃないかな。

「一瞬でいい」唯川恵:著 新潮文庫
コメント
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