風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

春の散歩~賢治さんの足跡を訪ねて~ vol.1

2012-03-06 | 散歩






花巻市郊外、市街地の西側に隣接する丘は
かつて西公園と呼ばれた市民の行楽地だった。
天神さんと呼ばれる大きなお社が建ち
春は花見、夏は夕涼み、秋は遠い山々の紅葉を眺めた。
昭和44年頃までこの丘の下を走っていた
花巻電鉄にも「西公園」という駅があるほど
東公園(現鳥谷崎神社境内)と並んで市民の憩いの場だった。
ちなみにワタシも幼い頃、
ここにあった西公園保育園にお世話になった。
今はかつての西公園の半分は個人宅としてフェンスで囲われ、
天神さんも小さなお社に建て替えられ
いつしか近隣の人たちのみに知られる場所として
ひっそり人影もない。

ここが宮沢賢治さんの「銀河鉄道の夜」の舞台だと
ワタシが密かに考えているのはいくつかの理由による。
まずなんといっても、
賢治さんが花巻農学校の教員時、通勤路の脇であること。
眺めの良いなじみの場所だったに違いない。
そして、「銀河鉄道の夜」では、主人公のジョバンニは
病気の母親のための牛乳を買いに牛乳屋に行き、
「もう少ししたらおいで」と言われて近くの丘に寝転んだ。
その時に見た夢が「銀河鉄道の夜」の幻想なのだが、
ワタシが小さかった頃まで丘のすぐそばに牛乳屋があった。
昔の牛乳屋で、ちゃんと牛を飼い乳を搾る店だった。
賢治さんが亡くなった昭和6年生まれのお袋に聞いたら、
彼女が小さい頃には既にあったという。
また、目覚めたジョバンニは丘の上から街を眺め
「ケンタウロス祭」の提灯や灯りを見ている。
写真の通り、
この丘の上からは当時の繁華街である鍛冶町が見える。
条件は揃っている。

この丘が「銀河鉄道の夜」の舞台であると確信したのは
以前、夕方ここを訪れた時のこと。
写真の遠くに見える豊沢川に架かる鉄橋を
灯りのついた東北本線の電車が走っていくのが見えた。
「あぁ、あれが銀河鉄道だ」とその時はっきりわかった。

もちろんここだけではないだろう。
想像力豊かな賢治さんのこと。
当時の岩手軽便鉄道(今の釜石線)の陸橋や
鳥谷崎神社がある城跡から街を眺めた風景なども
創作の中に込めたことは想像に難くない。
でもね。
いろいろ見て歩いて、一番しっくり来るのがここ。
観光客どころか、
今の市民にもあまり知られていないところだけどね。
忘れられた 場所。
コメント
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