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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

オフィスコットーネプロデュース『加担者』

2022-08-30 | 舞台
*フリードリヒ・デュレンマット作 増本浩子翻訳 稲葉賀恵演出(1,2,3)プロデューサー 綿貫凛 公式サイトはこちら 下北沢/駅前劇場 9月5日まで
 ようやくデュレンマット作品観劇デヴューの今夜、昨年9月上演の『物理学者たち』(ワタナベエンターテインメント Drivers Theater)、今年4月上演の『貴婦人の来訪』(新国立劇場)のいずれも見逃したことが悔やまれて悔やまれて。

 大学の生物学者だったドク(小須田康人)は民間企業に引き抜かれ、高額報酬を得て人生を謳歌していたが、経済危機によって失業。妻子にも去られた。タクシー運転手として糊口をしのいでいたところ、マフィアのボス(外山誠二)に拾われ、薬品の知識を活かして訳ありの死体を溶解する仕事を始めた。古いビルの地下5階がドクの職場であり、住処である。世間から隔離されたかのような日々、偶然会ったアン(月船さらら)と愛し合うようになる。そこへ別れた息子のビル(三津谷亮)が現れて、父親にある依頼をする。

 登場人物全員が音もなく横一列にあっという間に並んでいる開幕の鮮やかな手並み、主たる人物それぞれが客席に向かって自分の経歴や考えを語りかけたり(独白とは違う)、死者として登場し、自分がこれからどうなるかを饒舌に語るジャック(大原康裕)など、陰惨な内容であるのに客席には控えめな笑いが起こる。休憩無しの2時間15分、演劇的趣向に富んだ濃厚な物語を味わった。

 ドクを演じる小須田康人が素晴らしい。落ちぶれて汚い仕事に手を染め、隠遁者のように暮らす前半から、アンと出会って心に明りが灯りはじめた後半の変化、急展開する終盤から痛ましい幕切れまで目が離せない。これまで観てきた第三舞台の印象が清々しいまでに変容し、新鮮だ。いつの間にかまことに恰幅のよい紳士となった山本亨は、不正を取り締まる警官でありながら、影で糸を引くコップ役を台詞の間合いや声の高低、ちょっとしたしぐさまで楽しみながら演じているようであった。出演舞台をいくつか観る機会があった外山誠二は、滋味に溢れ、深い知恵を持つ賢人から、自分の老いに怯えながら金も女も諦められず足掻き続ける今回のボスまでまことに多種多彩。観るたびに演技に艶が感じられる。月船さららのアンは、ドクに希望を与える存在だ。暗闇のなかの仄かな灯りであり、干からびた地面に降る雨である。しかし彼女自身も金や色や毒を浴びており、無垢なまま生きることができない矛盾や悲しみを抱いている。観客に正解を提示しない役どころであり、月船さららにはこれまで(1,2,3)に増して今後新たな魅力と謎が得られる予感が。

 サスペンス劇でもあるので、詳細は記せない。というか自分の言葉が追いつかない。悔しいのだが、それが嬉しくもある一夜となった。
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