因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ティーファクトリー T Crossroad短編戯曲祭≪花鳥風月≫夏 Aプロ+Eプロ

2022-08-24 | 舞台
*公式サイトはこちら (2021年冬上演の「2020年の世界」観劇の記録→1,2,3昨夜に続く観劇の記録。演出はすべて川村毅 雑遊 28日まで
☆Aプロ いしざわみな作『ある愛の夢』
 作者のいしざわみなついては主宰を務める劇団日々刻刻のサイトに詳しい。高校生のときから始めた戯曲創作を一度休み、2016年の劇団の旗揚げとともに12年ぶりに再開したとのこと。今回は同戯曲祭「春」に続いて第三場と第四場が上演される。ここでも「春」の見逃しを悔やむことに。

 一組の夫婦が別れの日を迎えている。部屋を出る妻の木野ミミ(石村みか)に、夫の学(佐藤満)が朝食を用意する。コーヒーといっしょに出て来たのが、かつて一緒に訪れたニューヨークで食べたものと同じパン(名前聞き取れず)で、そこから二人の思い出話が始まる。

 小さなテーブルと椅子、段ボール箱などが雑多に置かれた舞台での夫婦二人芝居だが、90年代の結婚式の場面、2001年のアメリカの同時多発テロ事件後のニューヨークなど、時空間が行き来する。劇作家の筆づかいは台詞を丁寧に積み重ねていく誠実なものだ。「春」に続く石村みかと佐藤満の息も合って、憎み合っての別れではないと思わせるが、「春」公演のパンフレットには、失職してからだを壊しても酒浸りの夫、ようやく別れを決意した妻等々とあらすじが記されており、つまりこれが第一場と第二場なのだが、今夜の「夏」の穏やかな雰囲気とは相当に異なるらしい。春から夏のあいだ、この夫婦に何があったのか、秋に向かうまでにどんなことが起こるのかと身を乗り出したところで残念、幕切れとなった。

 いしざわの作品は、本企画の第1回公演「2020年の世界」のDプロより『汝の薪を運べ』(当ブログ記事)が最初の出会いである。文学座の俳優・伊藤安那による「伊藤安那きかくちゃんねる」vol.2『私の帰る処』(五戸真理枝演出)ともにYoutubeで視聴することができる(劇団サイトより)。描かれているのは姉妹、夫婦、親子といった小さな交わりだ。どこの家庭にもありそうな設定と見せて、物語は意外な方向に進んでゆき、人々の心象もさまざまな色合いを見せる。

☆Eプロ サカイリユリカ作『ひと火と』
 サカイは「戯曲を書く者や、劇作に興味を持つ者たちが集まり、互いの活動をサポートし合う」、劇作家だけの団体「戯曲本舗」の主宰をつとめる(ひきだ愛音共同主宰)。ある日起こったひとつの火事が燃え広がるにつれて人々の心を掻き乱し、狂わせていく様相と、その姿を冷静に見つめる掃除屋の男の眼差しを対比させつつ、おそらく日本のあちこちで起こっている火の見えない火事、すなわち人が心の内に抱えている危ういものを炙り出してゆく。掃除屋の神保良介は薄汚れた作業着で、時おり悪態をつきながらも淡々と仕事をする。一方、人々(植田真介、大井川皐月、江端英久、蓮見のりこ、小山雄)は赤とグリーンの2色使いの奇妙な衣装をまとい、リアルな市民というより、人間の心のさまざまな記憶、悲しみや怒りが擬人化した存在のようだ。

 今回のプログラムのなかには、「ブラッシュアップミーティング」が行われる作品もある。戯曲が、俳優、観客との関係性のなかで変化していくものであり、それをより確かに味わいたい、依然収束の出口の見えない状況にあってなお「書こうではありませんか」という川村毅の言葉(公演チラシ掲載)に、客席から応えられるものでありたいと願うのである。
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