因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

岸田今日子さん

2006-12-23 | 舞台番外編
 12月17日、脳腫瘍による呼吸不全により死去。享年76歳。
 アニメの「ムーミン」の声を聞いたのが岸田今日子との出会いであった。「女の人が動物の男の子の役をするんだ」と不思議に思ったことを覚えている。
 印象に残っている舞台は、太田省吾『午後の光』、岩松了『赤い階段の家』、同じく『隠れる女』。坂手洋二『ブラインド・タッチ』。新劇の大御所的威圧感がなく、どんな作品でも無理なくふんわりと溶け込んで、雰囲気を作ることのできる女優さんだったと思う。
 実を言うと、わたしは十数年前フジテレビで深夜に放送されていたバラエティ番組『そっとテロリスト』の女主人役が大好きだった。森の奥にある古い洋館に若い女性たち(たぶん一般人)が訪ねていくと、岸田今日子演じる「奥様」が十二単やチロリアン風などとんでもない衣装に身を包んで階段を降りてくる。金田明夫の執事に世話をさせながら、奥様と女性たちがいろいろなビデオをみる。お笑い系下ネタ中心で、深夜でなければちょっと放送できない内容がほとんどであった。みたものがおもしろければ花瓶にバラを、つまらなければドクダミを投げ込むという趣向である。新劇系の女優で、これができる人は他に考えにくい。11月に亡くなった仲谷昇が『カノッサの屈辱』に出演していたことも思い出す。
 演劇集団円は新劇の老舗というより、自由で軽やかな遊び心を持つ演劇人の集まりという雰囲気があって、その中心にいるのが岸田今日子であった。さらに女優業だけでなく、円こどもステージや新作戯曲の上演、若手演出家の起用など、プロデューサーとしての手腕に稀有なものがあった。いい意味で、女優としての業を感じさせない人だったとも思う。訃報に際し、別役実が「劇の中で独立した風景を作れる俳優」と朝日新聞の記事で語っているのを読んで、岸田今日子の作ったさまざまな風景を思い出した。

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