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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

studio salt リモート演劇#0『駆込み訴え』

2020-05-10 | 舞台番外編

*太宰治作 椎名泉水脚色・演出 公式サイトはこちら 5月10日(日)21時~ 同劇団関連ブログ記事はこちら
 コロナ禍にあって、予定していた3本の公演全てが中止せざるを得ず、稽古場として使用していた神奈川県内の施設も夏いっぱい閉館という閉塞的状況のなか、劇団員がZoomアプリで稽古を行い、「リモート演劇#0」と銘打ったライヴ配信が行われた。『駆込み訴え』は、2006年「横濱リーディングコレクション#1 太宰治を読む!」において上演された演目だ。キリストの弟子のユダが主を裏切り、密告する一人語りの短編を、椎名泉水は、4人のユダを登場させる斬新な演出で舞台化した。あれから14年が過ぎた今でも舞台の記憶は鮮明だ(当ブログ記事)。

 先日、「12人の優しい日本人をリモートで読む会」が話題になったこともあり、今後もさまざまな試みがあると思われる。想像もしていなかった事態となり、しかも出口が非常に見えにくく、不安と焦燥に駆られる今、演劇の作り手の方々の熱意と実行力には頭が下がる。

 もちろん劇場での上演と同じではない。といって、舞台中継の録画放送とも違い、舞台と観客は少なくとも時間を共有している。しかしその生の感覚は、リモート演劇の鑑賞が増えてくるにつれて希薄になり、手応えの不確かなものに変容する可能性も考えられる。

 『駆込み訴え』の場合、リーディング上演の際は俳優が動作として「台本を読む」形を取ることによって、作品と演じ手の距離が生まれ、複雑な劇世界が構築された。今回のリモート演劇では画面が4分割され、4人のユダの存在がより明確になったが、俳優は台本を読まず、全員がこちらを正面から見据えて熱く言葉を発するため、作品との距離が消失し、いわば「全身ユダ状態」の4人が画面から強烈に迫ってくることになった。迫力、臨場感と受け止めるいささかきついものがあり、画面との距離の取り方、角度の作り方については工夫の余地があるだろう。

 今後テクニカル面での精度が上がり、リモート演劇というものがひとつのジャンルとして成立し、通常の上演とはちがう劇世界を構築する可能性もある。それを期待しつつも、受け手としても、この事態が長期化することを念頭に、リモート演劇に対する攻略法を意識する必要を思わされた。

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