因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

『野鴨』ゲネプロ

2007-10-31 | 舞台番外編
 庭劇団ペニノのタニノクロウが、初めて外部で演出する舞台『野鴨』のゲネプロを拝見する機会を与えられた。イプセンが100年以上も前に発表した作品に挑むのは、石田えり、手塚とおる、高汐巴、保村大和、津嘉山正種、藤井びん、マメ山田、石橋正次、鎌田沙由美…いったいどんな舞台になるのかまったく予想がつかず。北千住駅構内で出口に迷い、やっと抜け出して10階の稽古場に向かう。

 あいだに15分の休憩をはさんで、上演時間は3時間近い。しかし長さを感じさせず、気がつけば疲れも空腹も忘れていた。イプセンをしっかり見たのはデヴィッド・ルヴォー演出のtpt公演『ヘッダ・ガブラー』や『エリーダ 海の夫人』あたりからだ。その後演劇集団円の『幽霊』、『小さなエイヨルフ』などもみた。戯曲も多少頑張って読んではみたものの、登場人物の心情を、実際の舞台や戯曲に書かれた台詞から確かな手応えを得るには至っていない。以来ほとんど10数年ぶりのイプセン体験なのだった。

 今回の公演は上演台本もタニノによるものである(どの翻訳をベースにしたかは不明。おそらく公演パンフレットには記載があるはず)。自分の手元にある原千代海訳と比べると、登場人物も主だったものに限っているし、台詞の表現も現代の日常会話風にしてある。これをどうみるかは、その人のこれまでのイプセン歴、イプセン観によって異なるだろう。自分には吉と出た。まるで夜の深い森のなかに迷い込んだような舞台装置、繊細で微妙な照明や音響のなかで、登場人物の表情が変化する一瞬の様子に息を呑み、台詞の一言ひとことが耳に吸い込まれていく。だんだん自分はどこにいるのかわからなくなってきた。その感覚は不安でもあり、一種の快楽でもある。単に小さな空間で上演されているからではないだろう。目の前で起こっていることが遠い昔の外国人のお話ではなく、今でも充分にありうると実感が得られたからである。

 劇場空間や俳優など、書きたいことは溢れるようにあるのだが、上演前に書くのは憚られる。古典ではあるものの、物語の筋さえもこの記事で明かすことにためらいがある。どこをどこまで記すか非常に悩ましいのだが、それもまた楽しいと思える貴重な体験であった。公演は11月1日から30日まで。
 

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