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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

鈍端のEEE

2016-12-09 | 呼吸器外科

私は日本で一番早くに馬の喉のlaser手術を始めた。

EE(喉頭蓋エントラップメント)の切開もやってきたし、

他の馬病院で処置のしようがない、と言われた披裂喉頭蓋ヒダの切除もやってきた。

Tiebackにあわせての声帯切除もlaserでやってきた。

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EEでは、Tim Greet先生の講演を聴いてからEEカッターでやるように戻した。

Greet先生は、Laserでやるより火傷のリスクが無いEEカッターをファーストチョイスとして勧めておられた。

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今回、Ducharme先生は、EEの症例でLaserで喉頭蓋下粘膜を切開するときに、必ず器具で持ち上げておいて切開するよう注意しておられた。

そして、EEカッターで切るより幅広く切開できることをLaserの利点としてあげておられた。

その鈍端の器具を何と呼んでおられたか・・・・・?

Epiglottic Entrapment Elevator ならEEEでどうだろう。

Ducharme先生が使っておられるのは、先が2本になっている。

その2本の間で切開すると、Laserが喉頭蓋に当たるかもしれないのでいけない。

切開は、棒の上で行う。

棒は金属なので、Laserで熱を持ってしまう。

だから、棒にはシリコンをかぶせておく。

先端部は横に切開し、そこから縦に切開する、すこし幅広く。

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さっそく作ってみました。

EEE !!

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今日は、午前も午後も競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。

昼、乳牛の第4胃左方変位。

 


ポニーの膝蓋骨上方固定の内側膝蓋靭帯切断手術

2016-12-07 | その他外科

12歳のポニーが膝蓋骨上方固定、いわゆる膝の脱臼を起こすようになり、だんだんひどくなってきた、とのこと。

ポニーは単純な膝蓋骨上方固定だけでなく、膝蓋骨が外へはずれる脱臼などもあるようなので気をつけて診察しなければならない。

で、やってきた姿を見て・・・・・

おまえ、ほんとに馬か?;笑

歩様を診ると、たしかに後ろにのばしたまま膝を曲げられなくなることがあるし、歩いている最中も引っ掛かり気味。

後肢の蹄も蹄尖が磨り減ってしまう、とのこと。

素直に内側膝蓋靭帯を切ることにした。

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内側膝蓋靭帯は、膝に手を当てると親指が当たるのが内側膝蓋靭帯です、と実習などでは教えてきた。

ちがうやん。

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術野消毒したが、腹が膝に当たりそう。

片側ずつ手術することを勧めたが、もう一度にやってください、とのこと。

しかし、蹴らない。蹴られても命にかかわることはない。というのはこんなにリラックスして診療できるものか。

手術後はすっかり歩様もよくなってトコトコ歩いて帰って行った。

 


開腹手術がもっとも少ない季節に

2016-12-07 | 急性腹症

Dr.Ducharmeの講習・実習が終わってMy Surgical Center へ戻ったら疝痛の当歳馬が来ていた。

ひどい疝痛ではないが、痛みが続いている、とのこと。

着替えもしなければいけないし、少し様子を観て、痛みが続くようなら開腹しましょう、ということにしたら、やっぱり痛い。

開腹手術したら、結腸左背側変位で、結腸はすっかり胃と脾臓の向こうへ行ってしまい、脾臓と腎臓の間でくびれていた。

当歳馬の結腸は薄くてひどく弱い。

こういとき、結腸を引張ってはいけない。

塩酸フェニレフリンを投与して、脾臓が縮むのを待って、脾臓を体の中心へ押すことで引っかかっている結腸をはずす。

結腸は膨満していたし、少しむくんでもいたが、切開もしない方が良いと判断した。

当歳馬は癒着が起こりやすいからだ。

結腸切開すると多少なりとも汚染が起こるので、癒着の要因になる。   

それが金曜日。  

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月曜がもう火曜になった夜中、電話で起こされる。

繁殖雌馬が疝痛でひどい、とのこと。

開腹したら、小腸捻転だった。妊娠馬で、空腸がどこかをくぐったようになっていて、何をくぐっているのかわからない。

網嚢孔ヘルニア? 網嚢孔を探るが、抜けたあとでは確認できない。

腸間膜ヘルニア? 未経産だしちがうだろう。

くぐてくびれていた空腸はかなり肥厚していた。

その肥厚は回腸まで境目なく続いている。

腹腔へ戻してから再度引き出すと、色調はかなり回復し、指ではじくと少し収縮する。

Dr.Freemanのグレーディングで言うと、グレードⅠとⅡのあいだだろう。

回復してくれることを期待することにした。

馬を入院厩舎へ連れて行ったのは、朝4時半。

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寝不足で、今晩はさっさと寝ようと思っていた夕方、繁殖雌馬の疝痛。

来客との話を切り上げて手術開始。

ひどい結腸捻転だ。術前PCV60超。乳酸値9mmol/l超。

結腸は根元で雑巾のように絞れている。

どちら回転か触知するのは難しいが、いつも前回りさ。後回りさせてやれば、ほら解けた。

切開した結腸粘膜はアズキ色。

あと30分か1時間遅かったら、ダメだっただろう。

 

 

 

 


ロボティックCT

2016-12-03 | How to 馬医者修行

Ducharme先生のおられるCornell大学はすでにロボティックCTを導入して使われているそうだ。

5千万くらいとのこと。

馬用。だそうだ。

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日本語でもロボットCTはすでに記事になっていた。

ペンシルヴァニア大学New Bolton Centerで開発されたことになっている。

あれ?これ馬をおさえているのRichardson教授じゃない。

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運動器にも使えるし、頭や頚にも使える。

Ducharme先生によれば喉頭の軟骨や筋肉を調べるのにもCTが一番良い。

ただ、日本であちこちに導入されるとは思えない。

従来からのドーナツ型のCTに入れるには全身麻酔が必要だ。

(南アフリカで開発されたCTは縦にも横にもなって、床からせり上がるようにもできるので、立ったままの馬の肢も頭もCTできる。)

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使えるようになったらすごいな。

触診がどうとか、Ⅹ線撮影の角度がどうとか、超音波検査の手技がどうとかより、まずCT、となるかもしれない。

人の医療はすでにそうなっているからね。

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Ducharme先生たちは、喉頭片麻痺で萎縮する背側披裂輪状筋(CAD)を超音波で観るためには、心臓用の経食道プローブを使っている。

しかし、そのプローブも日本の馬診療所にひろく普及はしないだろう。

ならば、喉頭を超音波でしっかり検査するには、体表からの超音波検査が唯一の現実的な方法だ。

でもロボティックCTはすごいな・・・・・・

年末ジャンボ、買ってみるか・・・・・


Dr.Ducharme講習&実習 in Shizunai

2016-12-03 | 呼吸器外科

Ducharme教授に聞いたこと・・・

Cornell大学はHong-kongにも分校を創っていますが・・・・「Cornellはあちこちに広がろうとしている。Cancerのように。」

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夜の講演会の次の日は、獣医師向けの講習と実習。

講演内容は、予定を変更してEE(口喉蓋包埋)手術のcomplications(併発症)について。

生産地の獣医師のかなりが、Duchrame先生の東京での講演と、前夜の地元での講演を聞いているので、こちらで要望して内容を変えてもらった。

要望されて急遽内容を変更できるところがすごい。

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馬の喉の手術は、手技そのものが難しいというより、complicationsの率が高い。

それも、術前より悪くなることも多く、しかも対処方法がないcomplicationsも多い。

複雑で特殊な形状をした喉を扱わなければならず、そこは大きく切り開くことはできないし、

軟骨と神経と筋肉が、複雑に関係して、呼吸と嚥下を司っている。

「あ~EEだ。切ってもらえば治るよ。」

というのは安易すぎるし、無責任だ。

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次いで、日本でのTiebackの500例以上の成績を紹介してもらって、Ducharme先生のコメントをもらった。

Ducharme先生に、「年間どれくらいTieback手術をやりますか?」と尋ねたら、

「週に1頭から5頭」という回答だった。

年の頭数は数えてないのかね?

それでも、すごい数なのだろう。

Ducharme先生がやっても、「Tiebackの20-25%はうまく行かない」とのこと。

2回目のTiebackはさらに難しい。

うまく行かなかったからと言って、訴えられるようならとても取り組めるような手術ではない。

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午後は実習。

われわれの喉頭の超音波検査の手技を見てもらう。

Ducharme先生は、CAD(背側披裂輪状筋)を体表から観ることはあきらめていたようなのだが、テクニック次第でできなくはない。

しかし、Ducharme先生は、CAL(外側披裂輪状筋)周辺を含めて、実に正確な知識を持っておられた。驚くほど。

他の点でもそうなのだが、上部気道について、最新の文献も含め、実際の手技も含め、網羅的に正確に知っておられる。

研究者であり、教育者であり、外科医であり、それぞれにパーフェクトで権威なのだ。

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次いで、Tieback後に誤嚥する馬に用いる声帯を膨らませる手技。

輪状気管粘膜から18Gのスパイナル針を刺して、ルアーコック式のシリンジに入れた「物質(ボーンセメント、テフロン、など)」を声帯に注入する。

さらに、立位でのLaserによる声帯切除。

馬の頭を台に乗せる。充分に鎮静する。十二分に局所麻酔薬をかける。嚥下を完全に止める。しかし、局所麻酔薬を嚥下させたり、気管に入れてはいけない。

左の声帯の腹側を切って、喉頭鉗子でテンションをかけながら・・・・披裂軟骨小角突起の声帯突起は避けて・・・・

とやっているうちに高齢の実習馬が倒れてしまった。

実馬を使った実習は中止。

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解剖体で、Tiebackの手技を教えていただく。

実に細かい工夫がされていて感心した。

2012年に香港で教わった方法とかなり変わっている。

現在は、ほとんどのTiebackを立位でやっているとのこと。

輪状軟骨の尾側に糸をかけるのはArthrex社製の金属のボタンを使っている。

糸は、Fiber wire かFiber tapeあるいはTiger tape。

針は特注のテーパーポイント針。三稜針は軟骨を切ってしまいやすい。

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現在は甲状咽頭筋と輪状咽頭筋を分けて、披裂軟骨筋突起を露出させている。

筋突起に器具をかけると引張り出すことができる。

輪状軟骨に針をかけるときも、筋突起に針をかけるときも、食道や食道周囲の筋膜を拾わないことが大事。

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披裂軟骨の関節を開けて、やすりで関節軟骨を削る。

筋突起への糸のかけかたも、とても複雑で、よく考えられ工夫されていた。

テンションは、競走馬と乗馬で変えるそうだ。

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そのあと、披裂軟骨切除。

Ducharme先生は、粘膜を軟骨から剥がさない。

しかし、軟骨切除後、披裂口蓋ヒダを切除部分に縫い付ける。

引張りすぎて引きつらないように注意。

腹側は血が溜まらないように傷を開けておく

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webbing(左右両側の声帯切除をしたあと、腹側に膜が張ったように癒着すること)に治療法がありますか?

と尋ねたら、

「Dixon先生が考案している。」と、方法を教えてくださった。

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もうそのあたりで予定の4時を過ぎてしまった。

とてもハードな日程をこなしているのに、嫌な顔ひとつせず、尋ねたこと以上の回答とコメントをくださる。

すごいものだ。

しかし、colic surgeryはやらないそうだ;笑

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「すばらしい施設だ、器具もすばらしい、スタッフも優秀だ。」と実習会場をほめてくださった。

たぶん私をそこの所長だと勘違いなさっていた;笑

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講習の内容も、実習の内容も、どうしても馬外科医が聴きたいこと、聞きたいことになってしまう。

世界レベルの権威者を招いておいて、馬の喉頭内視鏡検査をしたことがない獣医師に一から教えてもらうということにはならない。

それは自分で勉強して、さらには地元で講習会や実習をすれば良い。

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もっと勉強しなきゃだめだな、と思わされた。

それだけでも大いなる価値がある。

講演や実習に呼んでもらったら、もっと頑張ろうと思った。

韓国や九州行きくらいでへばってちゃだめだな;笑

Ducharme先生はフロリダで行われるAAEPへ向かわれた。

そこで最も注目されるMilne Lecture をされるのだ。