引き続き、ウマ科学会シンポジウムの講演内容です。
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この20年、生産地に育成牧場が数多くでき、調教を積んでから競馬場へ行くようになった。
左上の写真は、2歳馬の喉鳴りでもっとも多いDDSP(軟口蓋背方変位)と呼ばれるのどの異常。
馬が調教を積んで、精神的にも肉体的にも強くなっていくと自然にDDSPをおこさなくなることが多いので、外科治療は積極的には勧めていない。
しかし、苦しくて調教を進められないとか、いつまでもレースに出られないという馬では手術することもある。
DDSPの手術は何種類も報告されていて、私も何種類かを組み合わせて行うことが多いが、もっとも新しい方法は Tie forward と呼ばれる喉頭の軟骨を前へ(舌骨)へ引っ張る手術(右上)。
今や、生産地は育成地でもある。
育成馬に特有の障害も、生産地の獣医師の治療の範疇になっている。
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左下の写真はDDSPより年齢が進んだ競走馬に多い喉鳴り、喘鳴症。左の披裂軟骨が麻痺して垂れ下がっている。
こうなると自然に治ることは期待できないどころか、徐々に悪化する。
競走で満足できる結果がだせないとなると、今のところは Tie back と呼ばれる手術をして、披裂軟骨を後へ引っ張って喉頭が開くようにする。
私は右下の Securos Tieback Kit を使って年に40頭ほど手術している。
生産地は純粋に生産地ではなく、競走馬の休養・リハビリ・治療の場所でもある。
競走馬は剥離骨折や喉鳴りの手術をしに生産地へ帰ってくる。
現役競走馬の治療も生産地の獣医師の重要な仕事になっている。
(つづく)
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私が就職した20数年前は、生産地にある育成牧場は限られていて、1歳馬は秋になると競馬場や本州の育成場へ出て行っていた。
生産地の獣医師は秋になるとすっかり暇で、秋になるとパチンコ屋にいるか、築港で釣りをしていた(笑)。
春の直腸検査と仔馬の診療で、1年分稼いだつもりになれた良い時代だったかもしれない。
生産地では、バブル崩壊後の生産頭数の減少による空洞化を補ってきたのが育成馬の増加だった。
最盛期の30%以上生産頭数は減少した。
あまり生産地としてだけ自分達の立場を考えていると、現状を把握しそこねると考えている。