内外両方が割れると、しばしば致命的な事故になる。
カリフォルニアで7月に起きたGlobal Hunterの球節の脱臼も、種子骨が割れたことで起こったもののようにx線画像から推察される(右)。
カリフォルニア州立大学デイヴィス校のStover先生のグループが、競走馬の種子骨体の骨折がどのようにして起こっているかを調査した成績が報告されている。
Dr.Stoverは、致命的な骨折を起こした競走馬の骨を綿密に調べて、新しくない疲労骨折の跡が認められることを10年以上前から報告している。
痛み止め(鎮痛消炎剤)を投与して調教を続けたり競走させることが、致命的な骨折や事故の要因になっているとの警告も出している。
しかし、他のグループがケンタッキーで同様に競走馬を調べたら、新しくない疲労骨折の跡はなかったと報告したりして、なかなかホットな研究になっている。
この論文も10ページにわたる大論文だ。
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Comparison of macrostructural and microstructural bone features in Thoroughbred racehorses with and without midbody fracture of the proximal sesamoid bone
近位種子骨の骨体を骨折したサラブレッド競走馬と骨折していないサラブレッド競走馬の肉眼的・顕微鏡的骨特性の比較
AJVR 2010; 71,7,755-765
目的
近位種子骨骨折の病因を洞察するために、近位種子骨を起こした馬と、起こしていない馬の近位種子骨の肉眼的・顕微鏡的構造を比較すること。
対象検体
16頭のサラブレッドの近位種子骨(8頭は骨体骨折、8頭は骨体骨折無し)。
方法
近位種子骨を骨折した馬の骨折した種子骨と、対側の骨折していない種子骨、そして年齢と性別が一致する種子骨骨折していない対照馬の種子骨を、傍矢状断して肉眼的に、x線画像で、組織学的に、組織形態計測、および病理学的に調べた。
成績
骨折した近位種子骨と対側の骨折していない種子骨は、対照とした種子骨より、より密集した梁状構造を持っていた。
病巣の修復・再構築は、多くの骨折した種子骨と対側の骨折していない種子骨の掌側面に認められた。
骨折は微細構造特性に一致し、屈腱側から関節面へ伝達されていた。
結論と臨床的関連
骨折した近位種子骨は強い荷重を受けており、馬が完全な骨折や致命的な損傷を起こしやすくなる過剰な再構築や有孔性も持っていた。
完全骨折に至る前に損傷病巣を調べることは、致命的な損傷を予防する機会となる。
近位種子骨の有孔性を画像診断する方法の開発は危険な状態にある馬を見つけるのに役立つかもしれないし、サラブレッド競走馬の近位種子骨の骨折の発生を減少させる調教・競走スケジュールの変更に繋がるかもしれない。
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この種子骨は中央で骨折している。
3mmの厚さにスライスして、微細構造がわかるようにx線撮影している。
近位種子骨は基本的に、さまざまな幅の厚い小柱とオステオンを形成する緻密に詰まった海綿骨でできている。
SC sclerotic crescent 半月状硬化部
NT compacted medually bone tissue trabecular spaces
緻密な髄質骨小柱
WT wide medually intertrabecular spaces 幅広い髄質小柱間腔
LT longitudinal compacted trabeculae 縦方向の緻密小柱
TO transversely oriented osteons 横方向に起始するオステオン
AF abaxisal fossa 軸外窩
病巣とまったく一致して割れてしまうとわかりにくいのだが(左)、
掌側の欠損部が骨折部の遠位にあった種子骨もあった。
(左から肉眼表面、
高解像度x線画像
微細x線画像
右は拡大)
(左・右)
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ではこの病変は何なのかということになるのだが、
A; Sharpey fibers(シャーペイ線維;貫通線維とも呼ばれ、骨の外環状層板を通る膠原線維の束)が並ぶ再構築像であったり、
B; 軟骨下の微細な割れ目であったり、
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C; より広い小柱間腔から芽を出す狭い小柱管であったり、
D; 再吸収様の腔であったりする。
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競走や調教を重ねて、種子骨に病理学的変化(過剰な再構築と有孔性)がおきていることが種子骨の骨体での骨折の要因になっている。ということだ。
完全な骨折が起こる前にそれに気づけば致命的な骨折を防ぐこともできるかもしれない。ということだが、
調教・競走を続けなければならないのが競走馬の宿命。
種子骨骨折事故の低減につなげるにはよほどの注意が必要だろう。
球節脱臼のレントゲンは悪夢のようですToTが、支持装置が壊れるとこうなってしまうのですね。。
種子骨骨折は競走馬によくあるのでしょうか、やはり走るスピードが影響するのでしょうか?
(繋靱帯炎はごくたまに・・・すでに固まった状態で^^;)
こちらの新聞に北海道の町中を熊が歩いている写真が載って驚きました、今年は多いそうですね、hig先生どうぞ熊にもご用心くださいませ…!
内外の種子骨がバッキリというのは、競走馬か、子馬しか見ませんね。すごい荷重がかからないと切れないのでしょう。しかし、突発事故ではなく、病理学的変化があって割れているというのが、この論文の主張です。
ツキノワグマが暴れていますね。どうなっちゃったんでしょ?山に食べ物がないか、日ごろからゴミを食べているか・・・・
それくらいは誰かやっていますかね(笑)
スクリーニングで片っ端から観ていくのは効率が悪いので何らかの症状が出てくればヒントになるのでしょうけれども、ご紹介の論文に基づくなら疲労骨折のような疼痛は存在しないのでしょうか。
超音波で種子骨の表面(繋靭帯付着部)を検査することは行われています。しかし、骨の内部は駄目です。x線撮影はかなりいけると思います。
症状が出るかどうか、気づけるかどうかは程度次第でしょうね。少し腫れる、少し痛い、少し熱感がある、などは日常茶飯事ですから。
下から2番目の図のBのように微細な損傷があっても(まあこれは軟骨面ですが)超音波は入っていくので何か特徴的な像が得られてたりするではと思った次第です。
鉄道の車両検査のように聴覚で確認できるような超音波装置があれば(笑)モニターで確認するより精度が出せそうな気がします。
骨密度を、骨をコーンと叩いておいて振動の伝わり方で判定する。という装置は人用ではあるようですね。