正月休業中に尺骨骨折をLCP固定した繁殖雌馬。
そのあとも痛みが続いた。
術後約1ヶ月でX線撮影してもらったら、LCPが曲がり、肘突起が割れて変位していた。
Dr.Richardsonに相談したら、
「肘関節に関節鏡を入れれば、骨片は見えるだろうが摘出するのは難しいだろう。
繁殖雌馬ならこのまま跛行は良くなっていく可能性もある。」
とのことだった。
しかし、術後2ヶ月経ってもまともに歩けるようにはならず、廃用にすることになり、ついには起立不能になって安楽殺された。
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運ばれてきた遺骸をX線撮影した。
もっとひどく内固定が崩壊したのか、と考えていたが、術後1ヶ月と大きくは変っていない。
anconeal process は肘関節の中で剥がれてしまっている。
LCPは遠位から4つ目の孔で折れている。
一番遠位の孔の付近で尺骨はあらたに折れているように見える。
尺骨のこの部分は肘関節の尾側を創っているので、関節液が漏れていたのだろう。
尺骨頭部の粉砕部も骨片も尺骨の大きな骨折部も、手術して2ヶ月近いというのに完全には骨癒合していなかった。
可動性があるし、尺骨頭部は全体に内より頭よりに潰れたように変形している。
そのためにLCPは尾側の頂部に乗っておらず、内側へ落ちてしまったように見えた。
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この症例の尺骨は、骨折線が複雑に見え、粉砕しているとは判断していたが、変位はひどくなかったので、治せるだろうと考えていた。
lesson from this pitty mare
・anconeal process は非常に大事。これが失われると、尺骨頭は支点を失い、強大な上腕三頭筋の牽引力にプレートは抵抗できない。
・成馬の尺骨骨折は甘く見てはいけない。上腕三頭筋の牽引力は強大で、ナロープレートはそれに耐える強度はない。しかし、薄い尺骨にブロードプレートを乗せるのは無理。
二枚重ねをした症例がfarm animal surgery に乗っているが、それはamusing method 。
・外側から短いLCPで補強するのが唯一現実的な方法。(しかし、粉砕していた今回の症例でそれが有効だったかはわからない)
・anconeal processを固定できるなら固定すべき。(今回の症例では不可能)
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尺骨を折ってしまうのは当歳馬が多く、変位する症例ではプレート固定で多くを治してきた。
しかし、成馬は別だ。
とくに粉砕していると、非常に厳しく難しい。
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このように今年最初の大手術はダメになった。
種子骨骨折の子馬もあきらめた。
先日のひどい難産で帝王切開した馬も失血死した。
それでも助かる馬や牛は治っているし生き延びている。
悪戦苦闘が続いても、厳しい闘いを続けていく。
出産まで持ちこたえてくれたら、というのもあったのでは?かなりの苦痛が長く続いたようで、痛ましいです。
かかとの粉砕骨折のときみたいな手術と共通する要素はないのでしょか?
せめて分娩まで、と考えましたが、それもかないませんでした。
かかと、踵骨の骨折も難しいです。
オオワシですね。鷲が舞う姿に慰められました。
個々の患者の持つ運命を信じる外科医が多いそうです。