馬の麻酔のもっとも危険な局面は覚醒して起立するときだとされている。乱暴な立ち方をしようとして失敗し、自分の体重で肢を骨折してしまう。
これらの写真は、馬の麻酔学の本や、急性腹症の本の中の、麻酔覚醒を介助する方法の記述だ。
頭と尻尾をロープで引っ張って起立を介助する。
起立介助は、麻酔に伴う事故を劇的に減らす。と書いてある本もある。
文献によれば、馬の麻酔事故率は0.9%などと報告されている。その文献では24%が起立時の事故で、9%は筋損傷であったとされている。
左は以前の覚醒室でのロープのかけ方。基本的には今と変わっていない。
右は今の覚醒室で介助して起立した様子。
この方法だと人が覚醒室の外から馬の頭と尻尾を引っ張ることができる。
人にも馬にも安全な方法だと思っている。
尻尾のロープは、動滑車の原理でホイストにかけられており、引っ張る力が倍になる。
大人二人がぶら下がれば100kgくらいにはなるから、その倍だと200kg程で引き上げることになる。それ以上の力で尻尾を引っ張れば、尻尾が切れるか、仙椎が折れかねない。
昨年AAEPでも起立介助のロープのかけ方の発表があった。馬の病院にとっては非常に大事な獣医学的技術なのだ。滑車を使う方法だったが、その分、長くロープを引かねばならず、人が覚醒室の中に入っているため安全ではなく、私達の方法のほうが優れている気がした。
今は、まったく立てないか、立つのが非常に危ない馬のために、馬を完全に吊り下げられる吊起帯も用意してあるが、それはまた今度紹介しよう。
馬、とくにサラブレッドは馬房の中で自分で骨折してしまっていることがある動物だ。放牧地での骨折も実に多い。そんな動物を麻酔から100%安全に起立させる方法はない。
しかし、工夫して数百頭に1頭の事故でも減らしたいと思っている。
-
使っているのは、ケービング(洞窟探検)用のロープ。登山用のザイルは、衝撃を吸収するように伸びるようにできている。それでは段々伸びてしまうので、伸びないケービング用防水ロープを使っている。
カラビナはロッククライミング用。アルミ製で軽いが、2000kg以上の重さに耐える。
結び目は8の字結び。登山や軍隊で使われる結び方だ。
馬の臨床に役立つと思って学生時代ロッククライミングをやっていたわけではないんだけど・・・・・・・・