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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

ニューヨーク獣医物語

2019-12-05 | 図書室

図書館の不要本配布のテーブルに置かれていたので、もらってきて読んだ。

ニューヨーク獣医物語―シティ・ベットの冒険
相原 真理子
平凡社

USAの大都会の獣医事情がわかるかなと思って。

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馬について書かれた章があったので、最初に読んだ;笑

ニューヨークの観光馬車の馬の扱いがひどいことを糾弾する内容になっている。

ニューヨークの観光馬車は廃止されてしまったはずだ。

結局そうやって馬はまた職場を失い、馬は人のまわりからいなくなる。

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シティヴェットの冒険、という原題はどうかなと思う。

全然Adventureではない。

地元の小動物病院で手伝いをしていた日々。

素敵な年上の女性獣医師に憧れ、獣医師になろうと決めた。

友との別れ。

ニューヨークの大病院の夜間診療。

ウサギ、ヘビ、ハトなども含めた診療。

貧しい人から、イランの王族まで、さまざまな飼い主たち。

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交通事故やガンショットで運び込まれる犬や、

高層ビルから飛び降りたネコの救命救急など、ニューヨークならではの診療内容を知ることもできる。

ただ、年代がかなり前なので、世界最高峰と言われるNewYork Animal Medical Center も最先端獣医療、という感じではない。

一般向けに読み物として書かれたためでもあるだろう。

診療技術の説明は私には物足りなかった。

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一人の若い獣医師の成長譚としては面白い。

ときどき職場を変りながら、生活の場を整えながら、恋をしながら、将来を考えながら、夢をもって生きている。

楽しく読めた。

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私は、大阪駅から一駅というところで育った。

大学時代をすごした帯広は人口15万だった。

大都市には住みたくなかった。

今は東京へ行ったりすると早く帰りたい。

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あちこちの若い獣医さんに職場を選んだ理由を訊くと、

「東京を離れたくなかったんで・・」とか、

「札幌で働きたかったので・・」とか聞くことがある。

私は、仕事は選んだが、住む場所については深く考えてはなかったな。

馬が居るなら、「好い場所」だ;笑

風は少し止んだか・・・

 

 

 

         


バッタを倒しにアフリカへ

2019-12-01 | 図書室

この本は面白い!

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)
前野 ウルド 浩太郎
光文社

著者の行動が面白い。

サバクトビバッタの研究のためにアフリカ西部モーリタニアへ。

そして語り口が軽妙。

ふざけてもいるのだが、内容の奇抜さと著者の純粋さと真剣さで話はどんどん進んでいく。

博物学的な興味でサバクトビバッタを研究テーマに選んでいるのではなく、

サバクトビバッタは大量発生して大群を造り、すべての作物を食い尽くし、アフリカの飢饉の原因になる。

かつては北海道十勝地方などでもバッタの大量発生が開拓農民にダメージを与えたことがある。

著者以外の登場人物が面白い。

ババ所長には泣かされる。

人々に貢献するために生涯を送ると誓い、異国から来た若い研究者に思いやりを持って接している。

助手のティジャニとの交流も楽しい。

ところ変れば、善悪も、価値観も、法律も規則も変る。

モーリタニアは一夫多妻制。

しかし、人同士は片言の外国語でもコミュニケーションできるし、お互いを尊重しあえば理解もしあえる。

             ー

研究室内で行う研究ではなく、フィールドワークこそ重要だ。という著者の研究者としての考えと行動もたのもしい。

われわれ馬医者が研究報告するのも、症例報告であり、野外調査成績である。

そして、実験研究の結果がそのまま臨床には使えないことを身にしみて知っている。

さらに、研究を論文にしなければならない。

論文を書かなければ収入も研究のポジションも得られない、という厳しさの中で生きていこうという意欲は、

われわれ馬医者も見習うべき点がある。

この本はいくつも賞をもらい、「中高生に読ませたい本」にも選ばれているらしい。

若い獣医さんにも読んでもらいたい。

フランス語ができないのにフランス語圏やフランスそのものへ研究に行くとか、

無給になってもアフリカに残って研究を続けようと決意するとか、

若さゆえの無謀さの素敵さ、夢と使命感の素晴らしさを見せてもらえる。

あっ、それからハリネズミを飼ってる人も読んでみるといい;笑

野生のハリネズミとそのペット化のようすを読める。

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今日は4歳競走馬の中手骨外顆骨折のscrew固定。

その前に、繁殖雌馬の疝痛の依頼が来ていた。

骨折手術が終わってすぐ開腹。

小腸閉塞だった。

5m切除して吻合。

知は、現場にこそなければいけないのさ。

 


ブラックジャックによろしく

2019-11-29 | 図書室

病院のロビーで1巻を読んで、これは読んでみようと思って、

近隣の図書館になかったので、大人買いしてしまった。

ブラックジャックによろしく 全13巻完結(モーニングKC ) [マーケットプレイス コミックセット]
佐藤 秀峰
講談社

研修医がローテで回る各科で、大学病院や現代医療のあり方に納得できず、さまざまなトラブルを起こしていく。

夜間救急のバイト。

心臓外科。

新生児科。

消化器外科(腫瘍科)。

精神科。

まあ、その主人公の研修医クンのまっすぐで青臭いこと。

こういうヤツがいたら面倒くさくてイヤだろうなとつくづく思うが、

どこかでこういうヤツに居て欲しいと思うからストーリーが成り立つのだろう。

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朝、急患で蹄球部の外傷。

内外の蹄球がザックリ切れていて、裂蹄もあり、深屈腱も見えていてひどい。

しっかり洗浄して、縫合して、裂蹄はワイヤーでとめて、ハーフリムキャストを巻いた。

その1歳馬があっちで寝ていて、こっちで臍が化膿している黒毛和種雄の麻酔開始。

膀胱はもう臍から遠くなっていて、しかし膀胱近くで大きな膿瘍になっていて、大網と癒着していて、

癒着を剥がしていたら膿瘍が破れて、たいへんだった。

夜は静内で講習会。

後肢の跛行。と題してだった。

生産者対象ということだったので、講師の先生もわかりやすく一般的な内容にしてくれたようだ。

獣医師としてはもっと専門的な話も聴きたかった。

 

 


医龍

2019-11-16 | 図書室

インフルエンザのワクチンをうってもらいに行った。

会計を待つ間、ロビーにおいてあった「ブラックジャックによろしく」を読んだ。

絵の力と、医療をテーマにした内容に驚いた。

読んでみようと思って図書館で探したが、地元の図書館にはなかった。

代わりに医療物のコミックスであったので借りてみた。

医龍 全25巻完結セット (ビッグコミックス)
乃木坂 太郎
小学館

何回かにわけて全巻読んだ。

バチスタ手術など取り上げられている手技に新鮮さを感じるのは最初だけで、

後半ほとんどは医学部教授選の政争が主軸になっていく。

医師、とくに外科医の育成についてがサブテーマとなっている部分は興味を惹かれた。

登場人物たちが、あまりに悪人面で、悪いセリフを吐くところはコミックなので仕方がないかもしれない。

それに比べると主人公朝田龍太郎の容姿はあまりにもさわやかで個性がなさすぎる。

最初の部分でヒゲ面なことくらい;笑

そして・・・・優秀な人たちはもっと忙しいよ。

心臓外科や救命救急の分野だと、さらにだ。

まあ、コミックとしてはたいへん楽しめました。

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今日は、種子骨骨折screw固定。

昼に舌の裂傷。

下顎神経でブロックすると立位で縫える。

舌を縛るのは布包帯が滑らないで好い。

午後、腕節骨折の関節鏡手術。

 

 


颶風の王

2018-12-27 | 図書室

文庫本になって本屋に並んでいたので・・・

颶風の王 (角川文庫)
河崎 秋子
KADOKAWA

颶風とは強く激しい風のことだそうだ。

雪崩に馬と埋められて、互いの血をすすり毛をかじり、肉をくらって生き延びた母。

気のふれた母を置いて、北海道に渡った息子。

祖父に馬の扱いを教えられたその孫娘。

孫娘は、孤島に置き去りになった馬を気にする老女となり、その孫娘は・・・

なんと”十勝”畜産大学の学生になっている。

                 -

東北から北海道へ続く、人と馬との生活の歴史。

かつてはいくつもあちこちにあったのだろうと思う。

馬という人ともっとも密接に生きてきた動物への思いと歴史を感じさせてくれる小説。

                 -

最後のパートは、ユルリ島の馬がモデルになっているのだろう。

オヨバヌトコロ に居る馬達も、維持されるようだ

                 ーーー

ひどく風が強い。

これから年末年始にかけて冷え込んで荒れるらしい。

ふるさとへ家族連れで帰るひとも多いだろう。

ひどいことになりませんように。祈ってる。

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先日、肩甲骨骨折を内固定したLCPを抜きに来た当歳馬。

四肢の蹄の蹄冠近くはへこんで段差がついていた。

折れた肢だけではなく、対側肢も、後肢もなので、運動しなくなったこと、痛みのストレスによるものなのだろう。

吸入麻酔中、眼が開いているので、角膜は乾燥してでこぼこ。

しかし、凹むのではなく膨らんでる。

上瞼が動かなくなると、こうして乾燥性角膜炎が起こるのだ。

THO(舌骨側頭骨関節症)の馬を診たときには注意しなければならない。

(麻酔中は、ひどくならないように点眼している)

この馬、涙を流している。

身動きできない深さで吸入麻酔されている。

痛くて、あるいはおびえて泣いているわけではない。

下瞼は涙を溜める作用をしている。

涙を鼻涙管へ汲み出す作用についても馬眼科学の成書に記載がある。

麻酔と横臥させていることで、涙を鼻涙管へ流す機能が働かず涙があふれているのだ。

通常は、この鼻側の鼻涙管開口部へ涙は抜ける。

この当歳馬はもう300kg弱ある。

前回内固定手術の後は覚醒起立に苦労したこともあって、今度は前躯に吊起帯を着けた。

この吊起帯の着け方は、私が以前からさんざん考えた方法。

先日来日されたMadigan先生たちがLoopになったロープを使う方法を紹介してくれたことが背中を押してくれた。