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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

人イヌにあう

2013-02-24 | 図書室

朝、診療所へ行ったら昨夜からの繁殖雌馬の疝痛を開腹中だった。P2183775

(右写真は今月の別な繁殖雌馬の小腸捻転症例)

私は休日だったのだが、1日調べ物と書き物。

なかなか進まず。

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Photo 寝る前の時間に読んでいた「人イヌにあう」は読み終えた。

動物行動学でノーベル賞を受賞したコンラート・ローレンツ博士のイヌにまつわるエッセイ。

初版が1949年に出た本なのでかなり内容は古い。

あとになってローレンツ博士自身が説を変えたらしいが、

この本ではローレンツ博士はイヌの起源をオオカミ系とジャッカル系に分けて考えている。

それもかなり確信を持っていたようで、何度も説明に出てくる。

しかし、まさに古典であって、スタンレーコレン先生や、最近ベストセラーになった「犬から見た世界」などの本にも、このローレンツ博士の著書は踏襲されていると思われる。

そして、面白おかしく書かれた本ではないのに、ローレンツ博士が動物好きのかなりヘンな人であることが垣間見えて面白い。

残念ながら翻訳はひどい。

原書はドイツ語で、それを翻訳した英語版を翻訳したらしいが、訳者は動物学者だそうで読み物の文章としては読みにくすぎる文が多い。

絶版になっていないのだからいまだに売れ続けているんだろうに・・・・・


ハラスのいた日々

2013-02-05 | 図書室

Photo ハラスのいた日々。

バブル期の最中に「清貧の思想」が注目されたドイツ文学者の中野孝次さんが、愛犬ハラスとの13年間をつづった本。

この本もたいへん評判がよく、高く評価され、新田次郎文学賞を受賞している。

TVドラマや映画にもなったらしい。

内容はさしたることもない。

新居を構えた子供のいない夫婦が、愛らしい柴犬を初めて飼い、静かな生活を送り、やがて死別したあとに、その13年間を振り返ってつづられている。

ハラスという名前の由来や、犬の性質や行動への驚きや、犬をはさんだ人とのふれあいとか、

そして、ちょっとした騒動も起こる。

最後はハラスの死と、その後の著者の落胆のようすが描かれと、そして、この本にまつわる話が付け加えられている。

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文学が言葉により人の姿を映し出そうとするもので、

かつてない姿や描き方で真実を描くほど評価されるものなら、

このエッセイは一愛犬家の駄文ではなく、

犬を飼うことで掘り起こされる、人の新たな一面を表現した文学にちがいない。

ちょうど高度成長期の終わりの年代の新興住宅地での物語であり、

多くの人が犬を番犬ではなくペットして扱い始めた時代で、この本に同調する読者も多かったのだろう。

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すべてはハラスが死んだあと書かれたようだ。

そのことが行間から伝わってくるようで、この本を包んでいる何かしみじみとしたなんとも言えない雰囲気がかもし出されている。


暇つぶしに

2013-01-03 | 図書室

出先でひとりで食事をするのは味気ないものだ。

テーブル席に座っても、カウンターに座らされても、手持ち無沙汰だったりする。

その暇つぶしのために、先に本屋に入って本を買った。

少し読んでみたら・・・ヤバイ

涙が出て、とても恥ずかしくて食事をするどころではない。

結局、食事もせず本を読むハメになった。P1033543

                         -

私のお気に入りは「おじいさんの犬」かな・・

(右)

読んでみようかという方は、左のHig's book からどうぞ。

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娘に勧めて読ませてみたら、

感想は、「別に」。

私が子育ての仕方を間違えたのか、

はたまた読書力の問題か、

あるいは私が生まれつき動物好きなのか、あるいは突然変異のように臨床獣医師に生まれついたのかもしれない。

(涙腺がゆるいのは歳のせいという説もあるが;笑)

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正月三賀日もたぶん終わった。

夜中起こされる心配があって安心できないのは職業柄だ。

よく勉強した。

したくない勉強をさせてもらえるのは幸せだと前向きにとらえよう。

本当の日常業務開始まであと3日もある。

私は幸せだ、幸せだ、幸せだ・・・・・・以下数百回・・・自己暗示・・・・・

スキーしたかったな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


熊嵐

2012-12-26 | 図書室

Pc263533 量はそれほどでもないのだが、

風が強くて風下では吹き溜まりのようになってしまった。

日中も陽も照らず、気温も低いのでまったく融けなかった。

パウダースノーで、スキーするには良いのだけれど・・・

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1歳馬の大腿骨内顆の軟骨下骨嚢胞のステロイド注入治療。

続いて、2歳競走馬の腕節剥離骨折の関節鏡手術。

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ぼちぼち今年も仕事納めが見えてきた。

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Photo 二晩に分けてこの本を読んだ。

たぶん高校生のときに初めて読んでなかなか衝撃的だった。

読み返してみたいと思っていて、やっと実現した。

描かれているのは、ヒグマの恐ろしさもだが、

開拓農民の生活の厳しさ。

そこで生きていけるかどうか、ぎりぎりの暮らしをしているがゆえの緊迫感。

今の時代の日本人が失くしてしてまっている懸命さ、必死さ、それが餓えた凶暴なヒグマの襲撃で一気にまさに嵐のように吹き荒れる。

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ヒグマに襲われた事件としてはとても特異的な事件だった。

何人もが襲われて殺された事件は、これ以外には日高山脈で登山中の大学生が殺された事件だけだろうと思う。

苫前の事件では殺された女性の死体を回収したことになっている。

日高の大学生はクマに奪われたザックを取り返している。

一度クマのものになったものを、クマを殺さず取り返してはいけないんだろうな・・・・・


岩波写真文庫「馬」

2012-11-25 | 図書室

Pb133274 なんとも懐かしさと興味をそそられる本を貸していただいた。

私も学生時代どこかの出版社の、写真でいろいろなものを紹介したシリーズの「馬」と題された1冊を買った。

その本の中でもセリの風景などは紹介されていたが、

この本はさらに古く、馬がまだ農作業や使役に使われていた時代が写真に収められている。

Pb133275 この農作業に使われている馬などはけっこう大きな馬だ。

ドサンコやその他の和種と呼ばれる馬ではなさそうだ。

トラクターが無かった時代、馬無しでは農作業の効率が上がらなかったのがよくわかる。

そして、馬を完全にてなづけていないと農作業はうまくいかなっただろう。

Pb133276 蒸気機関車がそばを走り抜けて行く牧場風景も興味深い。

それでも厩舎の屋根の形は今も使われている形をしている。

Pb133277 右は、もっと古い伝統的な馬飼養の形態と言って良いのだろう。

曲がり屋での生活の様子。

南部曲がり屋は岩手県遠野を訪れたとき見せてもらった。

馬房と人の居住スペースが土間をはさんで一つ屋根の下に収まった建築。

もう保存しないと消えて亡くなってしまうらしい。

Pb133278 馬と人との光景も興味深い。

馬は家族のように大事にされ、

働き手として扱われ、

財産でもあったのだろう。

Pb133279         -

馬の病院の光景も収められている。

これは競馬会か、あるいは大学の家畜病院だろう。

X線撮影装置はろくに写らなかっただろうな。と思うような代物だし、

吸入麻酔器は、たぶんカエルにクロロホルムを嗅がせるのと変わらないしくみなのだろうけど、

「原点」として見ると興味深い。

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Pb133280 馬を倒す機械の写真も載っている。

私が大学受験した頃、大学の紹介に、家畜病院には「バンソー倒馬機」が備えられている。と書かれていた。

結局、入学してもどれがそれなのか見ずに終わった。

こういう物だったのかもしれない。

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馬は農作業や使役にも使われていたが、写真の下にあるように血清療法に使う抗血清を作らせる動物としても使われていた。

馬の血清も人にとっては異種蛋白なのだけれど、多くの血清量が採れる動物の中ではアナフィラキシーショックが起こる率が少なかったのだろう。

                       -Pb133283

なにも農村だけでなく、都会には荷運び用の馬が多く飼われていたようだ。

日本通運の厩舎は2階建てだったそうだから驚きだ。

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そして、この頃まで、獣医学とは馬の医学だったのだ。

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もう手に入らない本なのだろうと思ったら復刻版も出ているらしい。