真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「人妻一番! 二人きりトゥナイト」(2021/制作:ラブパンク/提供:オーピー映画/監督・編集:髙原秀和/脚本:宍戸英紀・髙原秀和/音楽:野島健太郎/撮影:下山天/照明:田宮健彦/録音:田中仁志/助監督:森山茂雄・福島隆弘/協力:末永賢・能登谷健二/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:希島あいり・七菜原ココ・長谷川千紗・東野良平・重松隆志・小田飛鳥・酒井健太郎・安藤ヒロキオ・直樹フェスティバル・山岡竜生・森川凛子・加藤絵莉・三森麻美・西坂伊央里)。
 トロリーバッグを引き引き、希島あいりが土手を画面奥に進む。振り返り、左手の指輪を抜き放り捨てかけ、思ひ直してタイトル・イン。先走ると当然、アバンを引つ繰り返し手前に歩いて来るのがラスト。そこだけ掻い摘むと、まあ綺麗な構成を採つてはゐる、そこだけ掻い摘むと。
 劇中明示はされないものの、まづ間違ひなく新宿のロックバー「VELVET OVERHIGH'M d.m.x」、屋号の闇雲さが何か象徴的。映画監督で雇はれ店長の和田黎明(重松)が、育成中の若手脚本家・奥野一平(東野)に書かせたホンをVer.Ka,Ver.Ka、もといバーカバーカ木端微塵に酷評するプチ修羅場に、上京して和田を訪ねて来た人妻・相澤か相沢真夏(希島)が闖入。映画を十年発表してゐない和田にとつて、目下の監督らしい仕事は精々地方で開催される映画祭の審査員くらゐ。その出先、戯れに和田からスマホを向けられ女優に口説かれた真夏が、何と家を出て来たものだつた。さうは、いへ。その場の軽口を真に受けた間抜けを、ただでさへ尊大な和田が相手する訳もなく。ぞんざいにあしらはれ激昂した真夏は、珍グダムのジャリタレ主人公なんぞより余程腹から出る見事な発声で、バカッ!と叩きつけ「d.m.x」を飛び出す。後述する一旦中略、橋の上にて一平と再会した真夏が、福本桃彦(酒井)が大将の居酒屋を経て、完全に酔ひ潰れた状態から目覚めるとそこは一平のアパートで、しかも―お乳首をチラ見せする―下着姿。フィクションの嘘を煌めかせそのまゝ居ついた真夏は、二人で和田の鼻を明かさんと一平の尻を叩く。
 「d.m.x」を飛び出したガチのマジで次のカットで、バットマンみたいなラバーマスクで「ワン」と鳴く奴隷男に真夏が引く。凄まじく唐突な木に接いだ竹には面喰ふのも通り越し、普通に度肝を抜かれた。上映素材がフィルムのプリントといふならまだしも、円盤なのによもやまさか飛んでゐるのではあるまいなとか本気で不安になつたぞ。気を取り直して配役残り、山岡竜生のゼロ役目が犬以下の犬もとい豚で、髪をアップにすると令和の早乙女宏美ぽく映らなくもない、七菜原ココが女王様の斎藤華香。マキシワンピとスクエアがエモい小田飛鳥は、一平が橋で待ち受ける中学からの同級生・新山由佳、実は杉原みさおと同じメソッド。小田飛鳥が裸仕事も辞さない御様子につき、ピンク本格参戦して呉れないものか。インティライミに肖つたのか直樹フェスティバルは、一平のバイト仲間・田辺謙司。カウンター下で和田に尺八を吹いてゐる、元カノ・井原未来(長谷川)の露を払ふ背中しか拝ませないロン毛男は、多分能登谷健二。この御仁が一番最初に組んでゐたか入つてゐた、バンドに辿り着けない。過剰気味の前髪が絶妙にオタクみ漂はせる安藤ヒロキオが、真夏捜しに奔走する夫・高志。高志が最初に「d.m.x」の敷居を跨ぐ折、カウンターにもう一人ゐるのは末永賢。改名したのか何となく併用してゐるのか、凜子と名義が二つあるのが紛らはしい森川凛子以下四名は、SMクラブに劣るとも勝らない壮絶なノーモーションで真夏が参加する、スピリチュアルに片足突つ込んだ劇団「キズナアヤトリ」のワークショップ要員。但し、七菜原ココ込みでもなほ頭数の方が一人多い。逆からいふと名前が一人分足らないのは、この際解けなくとて別に困らないミステリー。あと山岡竜生が、キズナアヤトリ主宰。
 驚愕の電車痴漢トリプルクロスを構築した、当サイト選城定秀夫最高傑作「痴漢電車 マン淫夢ごこち」(2016)。工藤雅典の大蔵第三作にして、実に十二年ぶりともなる久々の白星「人妻の湿地帯 舌先に乱されて」(2020/橘満八と共同脚本)。ピンク三戦目の希島あいりを主演に据ゑた、髙原秀和大蔵第五作。しかし最早ヤケクソなのか、とかく昨今、キマッた公開題が散見されるやうに思へて仕方ないのは気の所為か。二人きりトゥナイト、グルッと一周したカッコよさはあるけどさ。
 魔法使ひ昇格を目前に控へた童貞男の部屋に、スレンダーでクッソ美人な人妻が転がり込んで来る。ナベならば脇目もふらず全身全霊を注ぎ込み、好調時の加藤義一でも猛然と突つ込んで来るであらうエクストリームなファンタジー。に、潔く全てを賭ける賢慮を、髙原秀和に望むべくもなく。不用意に色目を使つた各々のドラマに尺を割く、以前に男主役たる筈の東野良平が―無駄に鈍重な割に―甚だ突進力に欠き、本丸の―筈の―エモーションは逆の意味で力強く心許ない。こゝの変貌ぶりは確かに素晴らしい、姿形を変へ要は二番手が二度飛び込んで来る、件の舞台がSMクラブと演劇ワークショップ。何れも結構突飛なシチュエーションであるにも関らず、殊に最初の女王様パートの導入、といふか突入は本当に衝撃的であつた。その、都合二回火を噴く暴力的に無造作な繋ぎを除くと、在り来りな焦燥に端を発する、気紛れな自分探しのアバンチュールに繰り出した人妻が、適当に羽目を外したのち臆面もなく家に戻る。屁より薄く他愛ない、もしくは女優と童貞を強迫的に連呼する痛々しい物語は石川欣が復活した怪我の功名―怪我なのか―で、腹は立たない程度に途方もなく面白くはない。東野良平と重松隆志に、忘れてならない山岡竜生。安藤ヒロキオ以外根本的に場数不足の絡み素人が介錯役に居並ぶ、大根男優部に後ろから撃たれる裸映画も、如何ともし難い女優部の持ち腐れ。といふか誰を連れて来るのも髙原秀和の勝手にせよ、最も肝要なシークエンスである以上演技―ないし艶技―指導くらゐ満足に施して欲しい、仕事しろよ。反面、明後日か一昨日で爆裂するインパクトがex.マギー直樹(マギー一門九番弟子/但しのちに一門系図から削除)といふ、異色の経歴を誇る逸材・直樹フェスティバル、の面構へ。出て来た瞬間目を疑つたのが、フェスティバル齢が若い―のと髪型がマッシュルームな―のを差ッ引くと荒木太郎とほぼ全く同じ顔。と、なると。逆に直樹フェスティバルが出演してゐる体で、荒木太郎を紛れ込ませる復権か復縁の奇策も十二分に画策可能。何なら直フェスの父子二役を騙り、父親役はシレッと荒木太郎。関係の拗れたサラブレッドでなく、あくまで直樹フェスティバルですといふ形にしておけば、ある意味大蔵の体面も保たれる。そもそも、梯子を外した方が悪いにさうゐないのだが。兎も角当然ゆくゆくは、直樹フェスティバル第一回監督作品。本物フェスティバルに対しては、今上御大経由で兄弟子の青木和彦を連れて来て説得して貰はう。

 頑なに中途で端折り続ける中、締めの濡れ場をも遂に挿入、しこそすれ。筆下しの一平が、終に射精には至れず仕舞ひに終るギッリギリの未遂は、真夏の犯した不貞を薄皮一枚軽くする、それはそれとしてそれなりの論理性、あるいは自堕落な免罪符と解したい。に、してもだな。肥大した体躯でモッソモソ不格好に蠢くしか能のない、東野良平の絡みがどうしやうもなく酷くて見てゐられない。つ、いでに。和田黎明の、傲岸不遜な造形が鼻につくばかりでてんでサマにならない重松隆志も、そこは大人しくなかみつせいじの役なやうな気は否めず。


コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )


« 女体サーカス... 盗撮!!逆ナ... »
 
コメント
 
 
 
小田飛鳥が脱がないの(・A・)イクナイ! (通りすがり)
2022-08-27 19:11:14
ワークショップの「やりがい搾取」を描いたのと、
ヒロインの女優志望の動機が実にナメた感じなのはいいんですが(^^;
 
 
 
魂の叫び (ドロップアウト@管理人)
2022-08-28 01:32:47
>小田飛鳥

 いやー、ホント改めてきちんとした形で観たいスねー!
 
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。