真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「《生》盗聴リポート ‐痴話‐」(1993/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/監督:佐藤寿保/脚本:夢野史郎/企画:田中岩夫/撮影:瓜生敏彦/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:国分章弘/監督助手:原田兼一郎/撮影助手:松崎労・山下政治/照明助手:牧野千文/製作協力:林田義行/現像:東映化学/録音:銀座サウンド/出演:伊藤清美・摩子・浅野桃里・今泉浩一・紀野真人・伊藤猛)。
 今は亡き富士通TownsのPC画面と、軽くスノーノイズ。体に青い砂嵐が投影される絡み合ふ男女、車内にて盗聴器をチューニングする伊藤清美、頭部にまで包帯を巻きベッドに横たはる、馬鹿デカいゴーグルを装着した伊藤猛。ひとまづ思はせぶりにモチーフを蒔いた上で、ボガーンといふ爆発音とともにTowns画面にタイトル・イン。赤い液体を注入する太い注射器のイメージに乗せて、伊藤清美が地獄の蓋を開ける、もとい火蓋を切る「私の右の乳房には生まれた時から傷があつた」。“悩みを持たれた方に精神の安定、及び高揚をもたらすといふ効能を持つたビデオ”とされるどつちなのかよく判らないビデオドラッグ光輪「KORIN」―中身は牧歌的なCG万華鏡―を見る影山葉(伊藤清美)は、伊藤猛とのセックスの幻覚を見る。見るからに不安定な葉に、プログラマーの同僚である柴田(今泉)が接近。葉が盗聴でチームを組んでゐた、そして不倫の関係にもあつた犬丸(伊藤猛)は交通事故に遭ひ、目下植物人間の状態に。犬丸の子供を妊娠してゐる―とする―葉が犬丸の妻に告げに向かつたところ、犬丸夫人(摩子)はそのことを勘付いてゐた。
 配役残り浅野桃里は、葉がクライアントの委託を受け情事を盗聴する女・松永和子、相手役の男には潔く手も足も出ない。俳優部中殆ど唯一劇映画を満足に進行させる紀野真人は、葉に接触する犬丸の友人・神崎。紀野真人(ex.杉浦峰夫)に関してjmdbが坂本太デビュー作の撮影を担当としてゐるのは、紀野正人との混同
 突発的摩子特集第二弾は、佐藤寿保1993年第二作。これが相当厄介な代物かとも初めは思へたが、直に突き抜けた。佐藤寿保だ四天王だと映画を名前で観るなり見る悪弊に囚はれるならば現代人の孤独だ狂気だ、サイコ・サスペンスだサイバーパンクだと埒の開かぬ能書を捏ね繰り回す羽目になつてしまふのかも知れないが、量産型娯楽映画に徒な下駄を履かせるばかりが能ではあるまい。真綿色したシクラメンよりも清しい―ルーシー・リューの声色で―ヤッチマッタ映画の大迷作、一見ベクトルは真逆ながら、最終的には破戒上等の新田栄の尼寺映画と同等の破壊力。となるとここは、ツッコミ倒して楽しむのが吉といふもの。情報量の少な過ぎる開巻と、伊藤清美の陰鬱かつ頓珍漢なモノローグで順調に迷走する混沌は、神崎登場で物語としての体を回復するかに見せかけたのは束の間の早とちり。電気信号的な文字が頭の中に入り込んで来て囁くのを感じた葉が、メッセージに促され神崎が投げた名古屋に―会社をサボッて―出向き、出向いたもののそこには特に何もなく手ぶらで帰京する辺りで卓袱台は完全に引つ繰り返る。名古屋事件の凄惨な真相が辻褄を合はせ損なふのも焼け石に水、要はポップに電波な影山葉こと伊藤清美が支離滅裂に大暴れする五里霧中の気違ひ映画。圧倒的な三番手ぶりを爆裂させる浅野桃里の扱ひの軽さ、葉以外無人のオフィスで電話が全門着弾する出し抜けなホラー風演出。肝心要のアイテムの筈なのに、見せ方が至らなくて痛痒を増すだけのポラロイド写真。摩子が狂騒的に散布する殺虫剤よろしくバラ撒かれ続けるチャーミングの頂点だか底に燦然と、あるいは散々と輝くのはあの人とあの人の正しくドミノな死に様。あまりにも酷くて、寧ろ感動した。意地悪をいふと、流石にそのシークエンスは佐藤寿保も見返せば顔から火が出る思ひなのではなからうか。何人殺せば、何回殺せば気が済むのか文字通り暴走する葉が始終を綺麗に木端微塵に粉砕した末に、一体何がどう完了したのか全く要領を得ないオーラスに止めを刺される。摩子と紀野真人の濡れ場は辛うじて普通に見させるとはいへ、正直これは小屋で観てゐなくてよかつたかもとすら思へる一作。リミッターが働き寝落ちるか腹を立てるのでなければ、途方に暮れてゐたにさうゐない。


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