真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「コスプレ挑発 おしやぶりエッチ」(2010/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・新居あゆみ/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:新居あゆみ/スチール:小櫃亘弘/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/撮影助手:浅倉茉里子/照明助手:江尻大/監督助手:川島創平/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映ラボ・テック/出演:鈴木ミント・真咲南朋・佐々木麻由子・牧村耕次・なかみつせいじ・天川真澄・平賀勘一)。タイトル画面と劇中登場する詐欺指南書の表紙を飾る、イラストの主はクレジットされないため不明。
 桃崎ミント(鈴木)と、どう転んでも不自然に歳の離れた彼氏・加納一行(なかみつ)の濡れ場で順当に開巻。加納との海外旅行も控へ無防備に満ち足りた眠りに就いたミントは、翌朝目覚めたところで愕然とする。部屋に加納の姿はなく、持ち金も見当たらない。挙句に、大家の高橋(新居あゆみ)に家賃未納をやんはりと怒鳴り込まれたミントが預金通帳を確認してみると、口座の中の金まで失はれてゐた。要は、ミントは加納に騙されたのだ。僅か三箇月の滞納で住居を追ひ出された―この辺りの無造作なアバウトさが、如何にも関根和美的ではある―ミントは、転がり込む友達の当てもないのか、自然落下のやうな勢ひで宿無しに。ポップにといふか逆にアヴァンギャルドといふか、昼間から公園で寝込むミントに、邪気のない下心も軽やかに本職ホームレスの徳さん(平賀)が接触する。ところで、新版公開畑では依然、俄然高い出演率を誇るゆゑ忘れがちにもなりかねないが、平賀勘一の新作出演は、加藤義一のお好みピンク「浪花ノーパン娘 -我慢でけへん-」(2007)以来。単に落としたのかも知れないが、この時には顕著であつた平賀勘一の体重増加は、体の線のまるで見えない扮装であるのもあり、今回特には感じさせない。ミントから憐れなあるいは浅墓な顛末を聞いた徳さんは、加納が桃サギであると即座に看破する。徳さんいはく、金を騙し取るのが白サギ、結婚詐欺の如く体と心を騙し取るのが赤サギ、そして加納のやうに、両者の中間点に位置するのが桃サギであるのだといふ。そこで立ち止まると以降の一切が滞つてしまふので、気にせず通り過ぎても別に構はないのだが、経済的損失を一切伴なはない曲芸にも似た奇跡的状況が仮に成立し得るとして、その場合の、純然たるスケコマシあるいは魔性の女を、詐欺師と称するのは適当なのであらうか。兎も角、だから兎も角、兎にも角にも兎も角。加納への復讐を誓ふミントは、勢ひにも任せ徳さんに弟子入りするやうな形で、桃サギ修行に取り組むことになる。悪く受け取ればグダグダなのだが、全篇を通して、始終の推移だけは実にスムーズである。
 そんなこんなで、開巻のプロローグに続いて「episode1 桃サギへの道」。とりあへず思ひつきで富裕層の老人に的を絞つてみたミントは、徳さんの偽造した看護師免許を手に、一つ上の姉で現に師長であるナリス(真咲)を訪ねる。ナースだからナリスかよ、再びいふが、この辺りの大雑把なポップ・センスも、実に関根和美らしい。ザックリした判り易さが、敷居も低めの娯楽映画として案外完璧だ。戯画的にいやらしく撫でつけた髪型から厄介な、元カレで白衣フェチの製薬会社営業マン・宮田(天川)とナリスの回想絡みも手際よく盛り込みつつ、仔細は簡潔に割愛した上で、ミントは姉の口利きで老人介護施設「ふれあひホーム」に首尾よく潜り込む。牧村耕次が、ここでのミントの標的・吉田。吉田が少なくとも、会社役員クラス以上の大人物である旨を観客に示すギミックに、サカエ商事に関してお伺ひを立てる初老の部下は関根和美。最短距離の更に内側を抉り吉田を誑し込むのに成功したミントではあつたが、土壇場で改悛し、頭を垂れ自らの素性を明かす。手ぶらで立ち去る覚悟のミントに吉田が強ひて持たせた和菓子には、百万円の札束が隠されてゐた。吉田も吉田で、一々そのやうな小さいのか大きいのかよく判らない小道具を、枕元に常備してゐるのであらうか。
 こんなそんなで以降ミントは、「episode2 桃サギの試練」にてナリスを犯罪的に煩はせる宮田を、コスチューム・プレイのバリエーションも披露しながら懲らしめる。「episode3 桃サギ最終決戦!」では、亡夫(遺影すら登場せず)の遺した料亭「ふじ川」を一人で守る長姉・藤川ミナミ(佐々木)に三千万の借金を負はせた、加納に二重の復讐戦を挑む。ミナミがミントの姉と加納が知らない、器用な世間の狭さに関してはさて措くべきであるのは、最早いふまでもなからう。
 基本、もしくはほぼ終始湿り気味の不発ギャグに彩られるのか彩られはしないのか、見習ひ詐欺師の桃色奮戦記。展開の悉くに清々しいまでに工夫と新味を欠き、一見一欠片の見るべき部分も見当たらない、シンプルなルーチンワークにも思はれかねない。にも関らず、不思議と微睡むでもなくそれなりに満足して楽しく観通せてもしまふのは、これでトレーニング系のバディものとしての構成は、あはよくば続篇の製作も不可能ではない二人の別れ際まで含め意外と完成度が高い。実は頼りになる指南役・徳さんこと伝説の詐欺師・岩神徳三を演ずる平賀勘一の、少々の無理でも軽快な断定口調でスパッと通してのける、地味に侮れない突破力が効果的に機能する。悪くいへば頭も尻も軽いが、よくいへば素直なミントこと鈴木ミントを、平賀勘一が絶妙な愉快と親身のブレンド具合で導く構図の強度は、よくよく観てみると不思議なほどに磐石。困窮するミナミが、騙した当人である加納を頼る豪快な不可解を回収する一手間も、関根和美にしては珍しく怠らない。episode3に於いてミントと徳さんが使用する戦法が、ダイレクトな物理攻撃と子供じみたテレコ・トリックだけであるなどといふ、桃サギが全く関係ない腰も砕けるドッチラケ感は、この際微笑ましい愛嬌と慈しむのが吉だ。わざわざ三姉妹設定を採用してゐながら、日程と同義の拘束上の問題からか、終に女優三本柱が勢揃ひするショットが設けらずじまひの点は大団円を求めるならば一段落ちるが、平板に見えて定番な、慎ましやかな娯楽映画の佳作である。

 一箇所だけ素面で大笑したのは、ルーズなコメディを無理矢理に加速する、なかみつせいじのオーバーも苛烈に通り越したエクストリーム・アクト、一箇所だけなのかよ。加納がミントらから、切るやう迫られる小切手の所在を初めは惚けてゐたものが、差迫る妻―声のみ、亜希いずみにも聞こえるが、佐々木麻由子のやうな気がしないでもない―の気配に観念するや、まるで咆哮するかのやうに「あれえ、あつた!何でだらう!?」。殆どヤケクソにすら思へるフルスイングには、激しく笑かされた。


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