飼育のレズ部屋 ～熟れすぎた恭子～/DMM戦

　「飼育のレズ部屋　～熟れすぎた恭子～」（2004/製作：サカエ企画/提供：Xces Film/監督：新田栄/脚本：岡輝男/企画：稲山悌二《Xces Film》/撮影：千葉幸男/照明：高原賢一/編集：酒井正次/スチール：佐藤初太郎/助監督：小川隆史/音楽：レインボーサウンド/監督助手：北村隆/撮影助手：池宮直弘/選曲効果：梅沢身知子/録音：シネキャビン/製作進行：阿佐ヶ谷兄弟舎/現像：東映ラボ・テック/出演：華沢レモン・なかみつせいじ・丘尚輝・林由美香）。
　三郷駅前のバス停、「恭子」、数歩歩いて振り返り「ぢやあな」。OLの川口恭子（華沢）が、不倫相手の伊藤信作（丘）に別れを告げられる。恭子のモノローグ「終りは、突然やつて来る」、「そして」、「始まりも、突然やつて来た」。引いた画で恭子の背後から、徐行する銀色のハッチバックが忍び寄る。道を尋ねる風を装ひ声をかけた町田志門（なかみつ）が、後部座席に縄や首輪を見付けた恭子が警戒心を露にするや、襲ひかゝり拉致したところでボイーンとタイトル・イン。山荘に監禁した恭子に、町田は「今日からお前は俺のお人形さんだ、何でもいふことを聞いて貰ふぞ」とポップに厳命、手錠と首輪で拘束する。在りし日の伊藤との情事の回想を長々と挿みつつ、比較的淡々と囚はれの日々が描かれる中、ある日恭子は、耳に飛び込んで来た他の女の悲鳴に驚く。声のする方向に恭子が身を寄せると、何と壁には軽く隠されただけの直径十センチ大の穴が。隣室では森美也子（林）が、美也子も町田に陵辱されてゐた。穴を通して自己紹介を交した美也子の為にも一旦は脱出を摸索しながら、何時しか何故か自分に対するよりも過剰に苛烈に責められる美也子に欲情するやうになつた恭子は、不安定極まりない状況に安定する。
　「熟女・発情　タマしやぶり」（2004/監督・脚本：いまおかしんじ/主演：林由美香）から「親友の妻　密会の黒下着」（2008/監督：池島ゆたか/脚本：五代暁子/主演：友田真希）まで、短いのかそこそこなのか議論は気分で分かれる五年間の実働期間を、コッテコテの裸映画から完全に鍍金の剥れた国映系まで、フィールドの多彩さだけでなく相当な出演本数も含め、文字通り縦横無尽に濃密な活躍を遂げた小さな大女優・華沢レモン。最終的には、後世に残り得る傑出した主演作に恵まれることは決してなかつたものの、同世代の中では特に群を抜いた、起承転結全体の支配力にも達する高い演技力は今でも印象深く、早々に足を洗はれたことが、客席側の勝手な感覚としては今でも激越に惜しい。急逝後、跡目を継ぐのはこの人しか居ないと秘かにでもなく目してゐた華沢レモンと、ピンク映画史上最強の五番打者・林由美香とが三番手をも排し正しく真つ向から激突する、新田栄2004年第五作。話の基本線としては、女が男にトッ捕まつて犯される、いいはゆる監禁飼育もの。そこから、第二の俘囚登場。微妙に間抜けで絶妙に扇情的な、穴越しに咲く百合。虐げられた者が更に虐げられる者の姿に性的満足を覚える、邪な悦楽。展開は順当に膨らむものの、これがたとへば国沢実辺りであれば面白いことになつてゐたやうな気もしないではないが、良きにつけ悪しきにつけ、新田栄の映画が歪むことはない。最終盤、卓袱台を全部引つ繰り返す豪快な力技も確かに鮮やかではある反面、その時点では華沢レモンは退場済み。所々の爆発的な無造作さに関しては兎も角とすると、新田栄にしてはそこそこ以上に良心的にしても、華沢レモンと林由美香が竜虎相搏つ迫力なり緊張感には、矢張り清々しく欠いた一作。翌年天使は里帰りしてしまふ故、銀幕の中で林由美香と華沢レモンが相見えるのは、結局「たまもの」と今作の僅か二本に止（とど）まる。