真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ワイセツ隠し撮り 夫婦の寝室」(1993/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:瀬々敬久/製作:田中岩男/撮影:稲吉雅志/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/助監督:原田兼一郎/監督助手:榎本敏郎/撮影助手:片山浩/照明助手:斗桝佳之/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:岸加奈子・杉原みさお・伊藤舞・池島ゆたか・久須美欽一・久保新二)。
 タイトル開巻、「人の噂も七十五日といふが」と、往来で池島ゆたかのモノローグ起動。何放送協会なのかHHK局のディレクター、であつたカワシマ春雄(池島)はドキュメンタリー番組に於けるヤラセを巡り懲戒免職、また派手に詰め腹切らされたね。目下は元々共働きで雑誌編集者の妻・みゆき(岸)の稼ぎが家計を支へ、カワシマは専ら主夫業に納まつてゐた。そんなカワシマの悩みはみゆきの配偶者に対するヒモ扱ひ、ではなく、失職以来の性的不能。その旨を示す、初戦の夫婦生活。やをらカメラがスーッと―何もなければ誰もゐない―部屋の端にパンするのに、よもや稲吉雅志が柳田友貴ばりの“大先生”ムーブを繰り出すのかと引つ繰り返りかけたのは、当然当サイトの脊髄で折り返した早とちり。障子に隙間を開け夫婦の寝室を隠し撮りしてゐた、裏ビデオ界のクロサワを自任する兵頭六輔か六助か六介(久保)もカワシマがインポであるのを看て取り、「あかん、勃たへん」と落胆する。如何せん文字情報のみで伝へやうもないが、久保チンの聞くも無残な似非関西弁に関しては、下手な造形を潔く放棄する賢明は検討されなかつたのか。
 配役残り、みゆきとの不忍会談で飛び込んで来る久須美欽一は、カワシマの復職を願ふみゆきが頼らうとする、HHK局のプロデューサー・岡本、実はヤラセを命じた張本人。パチンコ屋の表とかいふ、風情があるのか単なる大雑把か無頓着の類なのか甚だ微妙なロケーションにて、普通に歩いてゐたところ兵頭に捕まりその場でビデオを一万で売りつけられる若い男が、結構遠いロングにつき断定はしかねつつ、多分セカンド助監督の柳蜂逸男。一方、当初ワンマンショーを盗撮されてゐるかに思はせた杉原みさおは、兵頭の情婦・ヒロミ。そして、声は石川恵美がアテる伊藤舞が、勿論津田スタのカワシマ家に呼んでの情事を、兵頭が撮るのでなく自身がヤルのを―無論カメラの扱へる―カワシマに撮らせようとした、出張風俗嬢・ヨーコ。エナニー?とか聞こえる、屋号を詰めきれず。
 改めて調べてみると、瀬々敬久が他人に脚本を提供するのは獅子プロの兄弟子たる片岡修二―や橋口卓明―のみならず、jmdbに記載のあるだけで深町章に案外八本も書いてゐる、1993年第三作。
 自慰で絶頂に達する女を撮りたい兵頭の思惑に反し、ヒロミが六ちやん六ちやんと情夫の名をいぢらしく呼ぶのに押し切られ、イケイカないの攻防戦の末、結局兵頭はビデオカメラを捨てヒロミを抱く格好に。即ち、裏ビデオを撮影中といふ体の窃視視点から、男女が本格的に致す濡れ場に移行するシークエンスは、実質的な意味合ひが特にある訳でなくあくまでさういふ進行に過ぎないともいへ、ある意味アダルトビデオがピンク映画に屈した風に曲解出来なくもなく、敗者なり精一杯のロマンティックかアクロバットであつたにせよ、瀬々よく考へたなと感心した。うつかり兵頭が当のカワシマに隠し撮りを買はせてしまひ―キャッチした時点で気づけよ―発生した接点が、職を探すカワシマに兵頭が組まないかと持ちかける形で発展。その過程で三番手を回収する輝かしく秀逸な妙手を何気に撃ち抜いた上で、ヒロミも岡本に喰ふだけ喰はれ騙されたことから、カワシマと兵頭の共同作業が、岡本といふ共通の敵に対する共闘へと変る。さういふ次第での大一番が、伏線的なサムシングも気配程度に撒いてはゐる、みゆきを弾に擁したハニートラップ。自らは決して撮らうとはしない小癪ささへさて措くと、何だよ瀬々思ひきり普通の、正調娯楽映画らしいコッテコテの物語も編まうと思へば編めるんぢやないか。なんて見直しかけたのも、今作に際し通算二度目の早とちり。結局、カワシマが回復あるいは回春するほかは、勧めるほどの善も別に存在しないゆゑ勧善は兎も角、懲悪も大団円も寸止めで回避。最終的には良くも悪くも平素の深町章、のんべんだらりとした絡みで駆け抜けるといふよりは振り逃げる、焦点を失したラストは逆の意味で見事に失速。照れ臭いのか馬鹿にしてゐるのか知らないが、ベタなものを、潔しとしない態度を基本的に当サイトは評価しない。ベタにはベタなりに、定番として熟成され得るに足る、積み重ねられた何某かが備はつてゐなければそもそもベタの名に値しないのではなからうか。これは定石が成立する過程にも重きを置く、ひとつの保守の態度である。


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