真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「変態ざうさん 私の桃色指導」(2022/制作:ソフトボイルド/提供:オーピー映画/監督・脚本・編集:東盛直道/プロデューサー:澄田尚幸/音楽:荒川仁⦅東京 ClockWise⦆/撮影・照明:田中一光/録音:五十嵐猛/整音:阪口和/衣装:小栗はるひ/ヘアメイク:松森実衣/ヘアメイク応援:竹山樹蘭/衣装応援:梅川葉月/制作担当:鶴丸彩/助監督:古田七海・東海林怜水/撮影助手:大賀健護・松尾凌我・鈴木源也・梶谷裕治/音楽協力:神蔵守⦅東京 ClockWise⦆・三浦世名⦅東京 ClockWise⦆/小道具協力:小川春佳/製本協力:赤熊謙一/ロケ協力:株式会社プラネアール・HOTEL ATLAS・cafe COMADO/協力:Mine’S・アローズ・グンジ印刷株式会社/仕上げ:東映ラボ・テック⦅株⦆/出演:白桃はな・みやむ・辻芽愛里・鹿野裕介・伊神忠聡・竹本泰志・細井学・仙波恵理・成瀬義人・長沼真彦・髙橋一輝・淺田玲美)。出演者中、仙波恵理以降は本篇クレジットのみ。
 ざうさんのパンフレットで開巻、「エレファント保険」の営業職・伊藤ミナミ(白桃)の外回り。腐れ顧客・伊東(細井)の、手に触つて来るは夕食に誘ふは憚らうともしないセクハラぶりに、ミナミが溜息ひとつついてタイトル・イン。こゝとりあへず、ミナミが伊藤でクライアントも伊東、同じ音なのが不用意に紛らはしい、別にさうである理由もなからうに。
 エレファント保険営業部、今日も今日とて契約の取つて来れなかつた小森(鹿野)が、パター得物にパワハラ全開の鬼部長・権田に懲罰スクワットをさせられ、傍らではそこそこの成績らしい市原(伊神)が、その場を仕方なささうに見守つてゐる、といふか居合はせられてゐる。手ぶらで戻つたミナミがドン引きしてゐると、役職は不明ながら、市原目線でも上司らしい丸岡リョウコ(みやむ)も帰社する。権田との不倫の逢瀬後、ミナミと小森が偶さか鉢合はせたところに、飲み会帰りの丸岡と市原も上手いこと合流。四人はそのまゝ、高級ホテルばりに矢鱈ダダッ広くていゝ部屋の、丸岡宅で二次会に流れ込む。市原の粗いアルハラに潰された、ミナミが回復。怪しい気配に誘はれると四つん這ひにさせられた市原が、丸岡から菊穴を嬲られてゐた。
 配役残り辻芽愛里は、二人がかりの仕事を小森に押しつけ、「用事がある」と退社した市原が手配書を手に―刑事的にではなく―捕まへる、自転車窃盗犯・道明寺アヤコ。指名手配て、一人で何百台盗んだの。その他、本クレのみ隊は小森がミナミの桃色指導を受ける、過程に於いて随時投入される顧客要員。この中で、名義で検索して辿り着けるのは一人目ハット男の長沼真彦と、四組目夫婦の仙波恵理。消去法で、淺田玲美が二人目の仏頂面女子。問題が、三人目の劇中初めて小森が契約を取れた、若い男が実は赤熊謙一。成瀬義人と髙橋一輝の何れかは、徒な変名でも用ゐてたりするのかな、最後に残つた方が仙波恵理の配偶者役。余計な真似をと脊髄で折り返す雑なレイジを、あへて控へようとは思はない。
 予告は“『OP PICTURES』新人監督発掘プロジェクト2020審査員特別賞受賞”作である旨謳ふ、東盛直道デビュー作。みやむ以下鹿野裕介・伊神忠聡・竹本泰志続投の、第二作がフェス先行で既に封切られてゐる。ところでOPP+の2023フェスが、何気にスリリング。より正確にいふと、フェス作の本数が。全十六本中、ピンクで先に公開されてゐるのは三本、フェス先後、追ひ公開されたのが現時点で同じく三本。まだ、十本ある、十本も。乳とした、もとい遅々とした昨今の新作封切りペースで、全部消化するのに全体どれだけかゝるの、今年のフェスが始まつてまふぞ。
 閑話、休題。性感の開発によつて、女が男をコントロール。トッ散らかつた万事を、手練手管で平定する。実際出来上がつた映画を観た感じ、浜野佐知の如く頑強な思想に基づく一種の必然では必ずしもなく、事態を牽引する主体の性別に関しては所詮、最も大雑把に片づけると単なる二択、殊更喧伝する要は特にあるまい。小森の第二次資料作成残業、気づくと丸岡が其処にゐた。一番大事なカットでキレを欠くのが象徴的もしくは致命的な、劇映画としての面白味がいふほど見当たらない点―とベタな自己啓発臭―さへさて措くと、起承転結の推移を濡れ場で敷き詰めた、外様の初陣にしては下手な本隊作より余程、誠実な裸映画であるといふ印象が最も強い。とりわけ突出してゐるのが、チャリンコ専門の窃盗犯とか、木に竹を接ぐ突飛な造形としか思はせなかつた、アヤコで小森に科された咎を無効化。ミーツに際する繋ぎのぞんざいさは如何せん否めないにせよ、ピンクが構造的に強ひられる、三番手―の存在―を物語の進行に卒なく回収してみせる一見地味ながらなかなかの妙手には、さう来たか!と大いに唸らされた。表面的には力技のアクロバット且つ、案外頑丈な論理性が今作の白眉。小難しい芸術映画は知らんけど、娯楽映画といふ奴は基本理詰めで構築されるものと、当サイトは体感的に理解してゐる。反面、黙つて立つてゐるだけでどエロい妖艶な二番手に、傑出したサムシングに乏しい主演女優が喰はれ気味のビリング・キリングと、如何せん女優部三本柱と竹本泰志以外が―スタッフ含め―場数不足につき、概ね絡みが素材頼みのきらひは決して否めなくもない。逆の意味でのとりわけ、一欠片の魅力もない男主役がみやむの色香ですら隠し難い最大の難点。丸岡の下を飛び出した小森が、サクッと往来でミナミと邂逅を果たすへべれけな作劇―そこからの、インスタントな締めへの跨ぎ具合は、寧ろグルッと一周した清々しさ乃至らしさと言祝ぎたい―にも引つ繰り返つたが、それ以前に、小森が着てゐる部屋着以下のゴミみたいなボーダーは甚だ考へもの。苟も一本の商業映画の、ハイライトだぞ。衣装の小栗はるひは、誰に何を着せたといふのか。最終的に、フレームの中に入れず、何故か音効だけで事済ます自ら解除する丸岡が小森に施した限定と、タイトルバックでミナミと丸岡の手を往き来する小物、鍵?女の裸に忠実な分は大いに心強くもあれ、当然観客に対し顕示的に示しておいて然るべきものを、どういふ訳だか頑なに映さない謎の悪癖に足を引かれ、パッと見晴れやかなラストには反し、不用意な曇りも残す一作。最後に、市原とアヤコのミーツに関し再度細部をツッコんでおくと、SMT印サイモトの折り畳みミニベロなんて、いふたら何だけどプロが狙ふチャリンコでは全ッ然ない―個人的にはタダでも要らん―上、そもそもあんな公園の真中みたいな、馬鹿みたいに開けた場所でも作業しない気がする。


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