真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「美女濡れ酒場」(2002/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/脚本・監督:樫原辰郎/撮影:長谷川卓也/照明:ガッツ/制作:国沢☆実/助監督:城定秀夫/監督助手:大滝由有子/撮影助手:清水康宏/編集:フィルムクラフト/スチール:佐藤初太郎/音楽:黒澤祐一郎/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/協力:ゴジラや・劇団星座・千浦僚/挿入歌:『三丁目の青いバラ』・『月の使者』作詞・作曲:夢野歌子とサビレタボーイズ 編曲:黒澤祐一郎/出演:若宮弥咲・山咲小春・間宮結・竹本泰志・大出勉・野上正義/特別出演:ガイラ・木澤雅博・吉行由実・佐倉萌・北千住ひろし・武田浩介・かわさきひろゆき・木の実葉・岡田智宏・井淵俊輔・ギー藤田・小寺学・新谷尚之・新里勝也・末森みきお・岡村一男・青島ともみ・小泉剛・末吉太平・三浦俊・鈴木厚・サ☆イ☆コ)。出演者中、カメオ勢は本篇クレジットのみ。
 男が夜の街を独り歩く、トランプが鏤められた無機質な部屋での、浮世離れした女と、初老の男の情交。独り歩く男はビルの非常階段を登り、暗い屋上から飛び降りる。「ドスン!」といふ音、「来たは」といふ女に対し、初老の男は「あゝ、救ひやうのない馬鹿がな」。バー「Memory Motel」の店先、仕方ないなといつた風情の初老の男と、倒れる飛び降りた、筈の男、タイトル・イン。
 「場所選べ」、と「Memory Motel」のマスター(野上)にたしなめられた飛び降りた筈の男・郁夫(竹本)は、女・かな子(間宮)の繰るトランプでの勝負を求められる。「賭けるもんないスよ」といふ郁夫に応へてマスターは、グイと郁夫を指差し「命」。郁夫は7のスリーカードにほくそ笑む、一方マスターのカードは、エースのスリーカード。勝負に負けた郁夫は、マスターとかな子が旅に出てゐる間、無理矢理店を任される破目になる。バーテンダーといふ郁夫の素性が、マスターには見抜かれてゐた。郁夫の水割りを飲み腕を認めたマスターは、カクテルを飲むのは次に会ふ際に期し、かな子と旅立つ。郁夫は不承不承ながら、「Memory Motel」を開店する。最初に店を訪れた女・歌子(山咲)は、金を持つてゐなかつた。出鼻を挫かれた郁夫が頭を抱へる一方、歌手だと称する歌子は、酒代の代りに歌を歌ひ始める。歌子の歌に吸ひ寄せられるやうに客は集まり、店は繁盛する。
 大出勉は、カウンターでボイラー・メーカーを注文すると、他の客を帰した郁夫がふと気づくと寝倒してゐた啓太。若宮弥咲は、そんな甲斐性なしの宿六を迎へに来る妻の美代子。サ☆イ☆コは、金も持たず歌を歌ひ出した歌子に郁夫が手を焼くところに現れた、歌子の歌に誘はれた最初の客。“☆”の使用から察しのいゝ方にはお察し頂けるやも知れないが、サイコとは国沢実の俳優部名義である。(国沢☆実ではなく)国沢星実といふ表記も、以前に北沢幸雄のVシネで見たことがある。酒の買出しに出た郁夫に、要らない自転車を三千円で売りつける男でささきまことが出て来るが、クレジットには見当たらない。木澤雅博はそのまんま、ゴジラや店主。ほかは繁盛する「Memory Motel」客要員に多数、尤も実際の画面からは、バー店内といふ次第で元々薄暗い画面、決して大きくはないスクリーン、甚だ残念ながらプロジェク太上映といふ負のトリプル・コンボに屈し、一人も拾ひ上げられなかつた。
 不意に任せられた店は、意外にも繁盛する。常連客との触れ合ひと、歌子との生活。穏やかな束の間の幸せは、やがて直面する残酷な真実に終りを告げられる。救ひやうのない馬鹿どもに捧げられた、静謐なレクイエム。第15回ピンク大賞に於いては、ベストテン一位、脚本賞(樫原辰郎)、女優賞(山咲小春)、男優賞(竹本泰志)、新人監督賞(樫原辰郎)、新人女優賞(若宮弥咲)、技術賞(長谷川卓也)の見事七冠を達成。成程偽りのない救ひのなさがせめてもの美しさに彩られた、珠玉のダーク・ファンタジーである。ステアしない水割りを勧められ水の上に漂ふ酒の美しさに歌子が漏らした、今作を象徴する名台詞、「揺らしたら消えちやふんだね、この幻が」。気配を察した郁夫がシェイカーを振るところに、再びマスターが現れる。何かを確かめるかのやうに郁夫のカクテルを飲むと、「いい腕だ、納得したか?」。酒に事寄せた物語の語り口は、実にスマートで鮮やか。御自身が相当にイケる口であるらしい樫原辰郎が、正しく撃ち抜いた感の強い必殺の一篇である。

 その上で敢ていふが、残りの全ての必殺は認めた上で、今作唯一にして致命的な弱点は、「Memory Motel」に客を集める歌子の歌唱シークエンス。♪君こそは三丁目の青いバラ、君だけは僕だけのパラダイス♪と歌ひ出される歌手:夢野歌子唯一のヒット曲「三丁目の青いバラ」は、昭和40年代歌謡をタラタラと驀進する。そのこと自体は作劇上のギミックを踏まへた上でさて措くにせよ、こゝは雰囲気としては、ベタでも小粋なシャンソンのひとつでもあつた方が、より劇中の空気には相応しかつたやうにも思へる。さて措けないのは、山咲小春の歌。これがもう、金をかけられぬ録音もあるのかも知れないが、素人のカラオケレベルでてんで頂けない。いつそのこと、劇伴で誤魔化し全て切つてしまへとすら思へる。残りの場面の強度は女優・山咲小春ならではであるのも認めるには吝かではないが、残念ながらこの人には、歌も踊りの才もまるでない。歌子が歌ひ始めた途端、映画がガタガタ瓦解し始めるのはどうにも痛い。「Memory Motel」店内に募られた有志らを、舐めるカメラにも散見される野暮つたさが映る。この辺りは、意欲的でない映画ほど事もなく回避し得てゐる風に思へるのは、当サイトの気の所為か。野上正義と竹本泰志、二人のマスターの配役に最強が震へるだけに尚更、以上二点に洗練を欠く惜しい一作ではあれ、そここそが今作のチャーミングであるといふ意見に対して、殊更に異論を唱へるつもりもない。


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コメント
 
 
 
あなどりがたし (右近)
2016-02-12 21:16:37
神戸にて鑑賞
こういう映画に出会えるのがピンク映画
面白かった。
 
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