真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「タイム・アバンチュール 絶頂5秒前」(昭和61/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:滝田洋二郎/脚本:高木功/プロデューサー:沖野晴久/企画:作田貴志・吉田格/音楽:藤野浩一/撮影:志賀葉一/照明:田島武志/録音:佐藤富士男/美術:川船夏夫/編集:山田真司/選曲:細井正次/効果:東洋音響/助監督:石田和彦/監督助手:後藤大輔・北川篤也/撮影助手:小川洋一・猪本雅三・中川克也/移動効果:南好哲/照明助手:高柳清一・額田賢一・本橋義一・松島五也・重田全史/録音助手:岩倉雅之/編集助手:渡瀬泰英・土井由美子/装飾:小泉武久・土屋栄次・工藤聡代《日本映像装飾》/衣裳:山田有美《東京衣裳》/結髪:山根末美《山田かつら》/記録:坂本希代子/スチール:野上哲夫/刺青:霞涼二/現像:IMAGICA/製作担当:田中亨/製作進行:近藤伸一/プロデューサー補:両沢和幸/出演:田中こずえ・杉田かおり・若菜忍《86'コンテスト1位》・木築沙絵子・野上祐二・佐藤恒治・荒木太郎・ジミー土田・渡辺一平・池島ゆたか・上田耕一・螢雪次朗)。
 女の左手薬指に、男が指輪を通す。何処ぞの商事会社人事課に勤務する田中悦子(田中)に、課長の小宮真一(野上)が求婚。悦子は脊髄で折り返して受諾、見詰め合ふ二人にサクッとタイトル・イン。本篇突入は婚前交渉、画面のルックが正直ピンクとは違ふのと、たをやかな主演女優の肢体に穏やかなエモーションが爆裂する。完遂したのち、枕元のラジオが臨時ニュースを喋りだす、声の主には辿り着けず。内容がまさかのジャストその時間に起こる悦子の失恋で、お相手も小宮。豆鉄砲を被弾した当事者二人がぺちぺちラジオを叩いてゐると、目覚ましが鳴る豪ッ快な夢オチ。チェルノブイリ型のロシア風邪―あんまりだろ、昭和―をひいた悦子がやんぼり出社してゐると、経理課の仲良し・田島直子(杉田)が悦子から借りてゐた『タイムマシン』(まあウェルズだろ)を返す。片思ひの小宮を見つけた悦子は、偶さか元気に。池島ゆたかが先に帰り、お目当ての小宮と二人きりの残業に漕ぎついたと悦子が小躍りしかけたのも束の間、小宮も矢継ぎ早に帰る。肩を落とし退社しようとした悦子は、物音に覗いてみた人事課で、あらうことか小宮と直子がキスしてゐるのを目撃する。
 さてここで、轟然と火を噴く弟弟子・渡邊元嗣―当時は渡辺元嗣名義―ばりの超風呂敷。傷心のワンマンショーに狂ふ悦子と、2001kHzに合はせられたラジオが共振。悦子は全裸のまゝ愛猫のマイケルも一緒に、第二次関東大震災で荒廃した2001年の東京にタイムスリップする。配役残り螢雪次朗は、刑事あがりの私立探偵・岡野。謎のマッドマックス的なオフ車の鎧武者に追はれた悦子が、エンコした岡野のビートルに逃げ込む形でミーツする。佐藤恒治が幼少期父親に彫つて貰つた刺青男・ヨウイチで、木築沙絵子が箍の外れたカチューシャがトレードマークのヨウイチ彼女。ヨウイチとヨウイチ彼女にもう若干名、昭和61年時の子役部も登場する。川奈忍のアナグラムみたいな若菜忍は、岡野の息子でタイムマシンを研究するタケル(荒木)の彼女・さやか。上田耕一は、仕事と称して探偵事務所に泊り込み、助手として雇つた悦子との生活を始めた岡野を訝しんだ、細君(田中こずえの二役)に雇はれた興信所の逆探偵。大問題が、競泳選手が邪魔で手も足も出ない渡辺一平はこの際さて措くにせよ、あのジミー土田が何処に出てゐるのかが全く以てサッパリ一欠片たりとて判らない。あんなに特徴しかないやうな人であるにも関らず、臭さうな箇所を再度見直してみても矢張り見当たらない。声を発すれば勿論、少々のロングでも、足の短さでその人と知れさうなものなのに。
 杉田かおりのオッパイに惹かれて喰ひついた滝田洋二郎昭和61年第五作―第一作が「コミック雑誌なんかいらない!」―は、買取系六本を経ての初本隊ロマポにして、滝田洋二郎にとつて最後の量産型裸映画。ところがこれが、直截にいふと弾け損なつたナベ並の惨憺たる出来。昭和61年パートこそロマポらしい厚みのある画を見せるものの、俳優部にトンチキな扮装をさせるのが関の山で、2001年近未来の描写に関しては根本的なセンスの有無を疑ひたくなるほどの大も通り越したクッソ惨敗。岡野が悦子と普通に出会ひを果たす、双方向にそもそもな不自然。ここで双方向といふのは、心身ともすつかり別人の嫁役を、女優部で別立てしないでは展開が画的にどうにもかうにも成立しない。それ以前に2001年が、だから成り立つてゐないのだけれど。悦子を1986に帰さなくてはならない必然性も兎も角、藪蛇な悦子の懐妊兆候。そしてヨウイチも悦子ともに昭和61年に戻すに至つては、何の意味があるのか皆目見当もつかないのに加へ、ついでに悦子とヨウイチの周波数が同じとなると、タケルがユリイカした時間転位理論自体も前提が怪しくなる始末。土台タケル自体が、大概な機械仕掛けの神様。面白くない詰まらないどころか、ツッコミ処か疑問点ばかりで、満足に物語が頭に入つてすら来ない。つい、でに。くさめがタケルが悦子のタイムトラベルを認識する契機としてはまだしも、悦子と髭岡野の小屋に於ける思はぬリユニオンは、あれそんなにロマンチックか?挙句精々上田耕一が戯画的な顔面の濃さで気を吐く程度で、本隊作の割に、コミタマ×サブ×影英―小見山玉樹と庄司三郎に影山英俊―らロマポが誇る曲者揃ひの芳醇な脇役部さへ不発。
 寧ろこの際、素の劇映画なんぞ捨ててしまへ。形大きさともに超絶の絶対巨乳でエターナルを撃ち抜く杉田かおりに、田中こずえが勝るとも劣らない。オッパイ以外は全体的にシュッと締まつた杉田かおりに対し、より女性的な柔らかみに溢れなほかつタッパにも恵まれたプロポーションに、素晴らしいと美しいといふ以外の言葉は要るまい。絶頂の弾みで2001年に飛んだ悦子が意識を取り戻すのは、「桃色身体検査」(昭和60/主演:滝川真子)でも見覚えのある多分環状通路を走る、ブルペンカーみたいな遺体ストレッチャー、に載せられた仏の上。シーツをヒッ掴んだ悦子が小脇にマイケルを抱いて、ストレッチャーからひらりと飛び降りるムーブは琴線を激弾きする神々しいまでに麗しい奇跡の名カット。さうも、いへ。ビリング頭二人がもたらす至極の眼福にたゆたふだけならば、枝葉の繁雑な七十六分は如何せん長過ぎる。截然と開き直つた、女の裸しかない六十分の方がまだマシだ。逆から、あるいは雑にいへば。斯様に漫然としたファンタ、ナベでも滝田洋二郎を超える目は決してなくはない。滝田滝田と有難がる御仁に、改めて冷静に見て欲しい一作。といふか、まゝよハッキリいふたろか。あのな、今作をナベの映画ぢやいふて見せたら、こんなら普通に腐すぢやろ。

 オーラスは公園的なロケーション、飯の食ひ方で他愛なく喧嘩する悦子と岡野から、グーッと引いたカメラが軽く回り込むとそれを遠目に見守る老いた悦子と岡野が現れ、接吻するのがラスト・ショット。締めは洒落てゐるといふのと、一見時空を歪めるカメラワークについては劇中スチールを差し挿むタイミングで、実はどうとでもなる。


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