真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「セミドキュメント 《秘》女肉市場」(昭和51/製作:ワタナベ・プロダクション/監督:代々木忠/脚本:池田正一/製作:真湖道代/企画:渡辺忠/撮影:久我剛/照明:近藤兼太郎/編集:中島照雄/音楽:多摩住人/助監督:高橋松広/効果:秋山サウンド・プロ/美術:日本芸能美術/小道具:高津映画/記録:前田侑子/制作進行:大西良平/タイトル:ハセガワ・プロ/制作担当:一条英夫/録音:大久保スタジオ/現像:東洋現像所/弾語り:東小川万吉・GEN.BAND 瀨戸雄二・江野光治・人見重蔵・川内博隆/協力:レストランホテル 目黒エンペラー前橋 群馬県勢多郡大胡町 TEL 0272-83-3211㈹・ナイトレストラン じゅれびあん TEL 988-4646/出演:真湖道代、南ゆき、ティミ杉本、乱孝寿、山下まゆみ、岡田あや子、秋川瑞枝、ウィリアム・キャンディー、ミス・ボンボン、堺勝朗、市村譲二、深野達夫、森一男、滝沢秋弘、土羅吉良、坂本昭、三條敏夫、高宮俊介、佐々木清人、高瀬竜、岩田富夫、北野清二、小波兼/ナレーター:都健二)。出演者中、南ゆきとティミ杉本が、ポスターでは南ユキとティミー杉本、ウィリアム・キャンディーと滝沢秋弘以降は本篇クレジットのみ。企画の渡辺忠は、代々木忠の変名。
 ナベプロ作ロゴから、南ゆきが湯に浸かる掴み処を欠いたロングにサクッとタイトル・イン。人妻(南)とホストクラブ「ムゲン」(表記不明/現存する大阪のMUGEN Groupとは多分無関係)のナンバーワン・ハヤミジュンイチ(深野)の、同伴出勤を見据ゑた逢瀬。寧ろ誰か真に受ける者が存在してゐたのか、甚だ怪しいレベルの正しく形だけともいへ、“セミドキュメント”の御題目を遵守し素面の劇映画的には中途半端に離れた距離を保ちつつ、気が向くと普通に寄つてもみせる、とかく安定しないカメラ位置が視覚的に如実な特徴。挙句油断してゐると、乳でなく結合部付近の尻を狙つた、藪蛇か闇雲なズームも唐突に仕出かしてみたりする。久我剛の持ちメソッドとも思へないゆゑ、ヨヨチューから特別な指示でも受けたのであらうか。あるいは、限りなく乱心に近い、単なる偶さかな気紛れに過ぎないのかも。それと今回この期に学習したのが、正常位で挿したまゝ終に体位を移行しないと、俳優部が少々オーバーアクト気味に頑張つてみせたところで、動きを欠いた画が如何せん漫然としてしまふきらひは否めず。兎に角、オッパイが男の背中に隠れ見えないのが根本的な致命傷、本末転倒こゝに極まれり。兎も角、一直線に結婚を望んで来る―既婚者の―南ゆきに対し、親爺の遺した借金だ病気のおふくろだと、ハヤミは適当に話を濁す。
 配役残り、「ムゲン」店内で最初に飛び込んで来るのが、意表を突いて東小川万吉。要はキャバレットな生演奏担当といふ格好で、のちに登場するGEN.BAND共々、結構ふんだんに尺を割いて貰へる。東小川万吉を出発点に右から左へグルーッと一望する中、視認出来たのはやさぐれたトルコ嬢のヒロコ(ティミ杉)と、ベテランで三の線のカワナトシヤ(堺)。外国人旅行者(ウィリアム・キャンディーとミス・ボンボン)を、一対二で引き受けるマツキヨウジ(市村)。今回、着衣の状態でカワナにハモニカを吹くやう強ひるに止(とど)まるミス・ボンボンが、一ヶ月後の木俣堯喬昭和51年第一作「ポルノ・レポート 金髪パンマ」(Missボン・ボン名義)に於いては黒い肉襦袢ぶりを豪快に大披露、観るなり見た者の心に傷を残す。閑話、休題。アキちやんと呼ばれる大体ヒムセルフ(滝沢)に、新人なのか、受付的な業務を主に任される土羅吉良。この人がホストなのか、懐の深い店だ。その他、札片をバラ撒いてはカワナに食べられないものを食はせる、陽気は陽気な乱孝寿の狼藉噛ませて、「ムゲン」に初来店するナミキ夫人が真湖道代、女優部としてはラスト・イヤーにあたる。若手ホープ格のダイゴは、ビリング的に森一男かなあ。ハヤミが同伴出勤する信用組合の事務員は、一濡れ場こなす以上山下まゆみ、の筈。あと比較的大きめの役だと、ハヤミがナミキ夫人の身上調査を依頼する、興信所の探偵が判らない。
 マツキが強い胃薬に表情を歪める洗面所に、ハヤミも現れる。皮肉交じりに上辺だけ気遣ふ若きNo.1に対し、マツキが寄越した捨て台詞が「頂上に立つた人間は、あと下るだけだ」。かつてどころでなく刹那的に短いスパンで、マツキとハヤミが交した―のと見事に全く同じ―会話を、今はハヤミとダイゴが交す。何だかんだ生き残るのはプライドを捨て、おこぼれを預かるジャッカルに徹する、カワナで案外あつたりもする。 “女肉市場”とか煽情的に謳ひながら、要はホスト残酷物語なるどちらかといはずとも、男優部がよりフィーチャーされた量産型裸映画的には変化球作。ハヤミが別宅に使用してゐる、今でいふ映える高級ホテルの一室に結婚結婚煩はしい南ゆきを先に入らせた上で、自分は後から来る体でカワナを遣はせる。そのまゝ送りならぬ向かひ狼で堺勝朗が二番手を手籠めにした事後、頃合ひを見計らひやつて来たハヤミが、他のホストと寝た南ゆきを捨てる。実も蓋もない展開に面白味も特段見当たらないが、とりあへず腹を立てるほど破綻してゐる訳でもない。螺旋階段で戯れる、ティミ―杉本と堺勝朗の局部がこれで映り込まないのが不思議な、別に特殊な技巧を駆使してゐる風にも映らない超絶撮影と、真正面からど直球の告白を敢行するものの、マツキは結局ナミキ夫人をハヤミから略奪し損ねる。小雨の中、トレンチの背を丸め往来に文字通り敗れ去る、市村譲二(a.k.a.市村譲)の哀愁漂ふ長回しが数少ない見所。カワナが乱孝寿に魚の骨を食べさせられ、目を白黒させられるのがラストカット。芳醇な堺勝朗の顔芸が、何気に最後は綺麗に締め括る。


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