真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 感度は良好」(昭和61/製作・配給:新東宝映画/監督・脚本:深町章/製作:伊能竜/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:佐藤寿保/監督助手:末田健/撮影助手:片山浩・鍋島淳裕/照明助手:尾田久泉/録音:東音スタジオ/現像:東映化学/出演:田口あゆみ・橋本杏子・星野みゆき・高原香都子・池島ゆたか・ジミー土田・鈴木幸嗣・久保新二・港雄一)。照明助手の尾田久泉は、元々変名臭い小田求の更に変型か。といふか、時期考へると先行する尾田久泉の方が寧ろ原型だ。ついででどうでもよかないのが、フィルムからの翻刻を謳ひながら、nfaj―国立映画アーカイブ―の情報量がjmdbに劣つてゐるのは何たる体たらく。公金使ふのは構はんから、堅実に仕事して欲しい。伊能竜から佐藤寿保までの記載がnfajにない―東化は両方とも未記載―のは、よもや所蔵プリントが飛んでゐたゆゑなどといふまいな。
 開巻即のタイトル・イン、「やゝゝゝ、私民営分割で頭の痛い国鉄の回し者ぢやないが」とか気持ち軽い久保チンによるナレーション起動。曰く「痴漢したい人は、何といつても電車に乗ることをお勧めします」。のつけから切られる、アカン火蓋が清々しい。ともあれ昭和を令和の視点で裁断しても始まらない―昭和でもダメだろ―ので、先に進むと滔々と久保レーションが説くのは要は痴漢のハウツー。仕方ないぢやないか、さういふ映画なんだつてば。時間帯的な狙ひ目は朝のラッシュ時といふのに続き、路線選びのポイントを騙りもとい語り始めたところで、スペースまで全角なのが猛烈に気持ち悪い、ブルーならぬ赤バックで“Part Ⅰ”。電車痴漢実践のヒップ篇と称して、他愛なくクッ喋り続ける久保レーションに特段の意味は相変らずなく、大西商事勤務のOL・西山(田口)に、ヤマザキ食品営業課長のウシナダ?ユウイチ(池島)が電車痴漢。ウシナダは西山の定期入れを掏つた上、小型カメラで写真も撮影して再度の逢瀬を迫る。“Part Ⅱ”クレに続いては、「いやあ馬鹿だね、このサラリーマン氏」とぞんざいな第一声。セーラー服の女子高生(星野)に、髭なんて生やした鈴木幸嗣が電車痴漢。久保レーションの中身的には、車内痴漢実技の性器とその周辺篇。鈴木幸嗣が星野みゆきを愛人バンクにスカウトする、喫茶店に顔を出したアコ(橋本)はその足で三友商事部長(港)の下へと向かふ。“Part Ⅲ”は一応胸バスト篇、高原香都子に電車痴漢したジミー土田は、降車後津田スタの自宅―表札は松下―まで女を尾けて行く。ジミ土はそのまゝ庭に大絶賛不法侵入、ガラス戸も開け放つた松下夫人の豪快な自慰に誘はれるかの如く、家内に突入しての一戦を敢行。ところが目出度く完遂した事後、筋者の亭主(久保)が帰つて来る。
 “Part Ⅲ”を兎も角走り終へての、久保レーションが「いやいやこんな楽しい落とし前にありつけるのも、電車に乗ればこそ」、「さあ君も勇気を出して車内痴漢にチャレンジしてみよう!」。地に穴をも穿つ覚悟で底を踏み抜いてみせる、深町章昭和61年第三作。尤も当時的には、そもそも底が抜けてゐる意識すら、なかつたものにさうゐない。早々にオチを割つてからが一本調子で、限りなく薔薇族のPart Ⅰはビリング頭のオッパイが拝めるのが漸く十五分前―そして七分後にはPart Ⅱに移行―と、女の裸映画的には大概問題と難じられなくもないものの、序盤で斯くも飛ばして来た日には、以降は全体何処に転がつて行くのかといつた、明々後日なワクワク感がまだしもなくはなかつた。Part Ⅲもネタ的には他愛なく締めるに止(とど)まれ、高原香都子の超絶裸身が麗しく火を噴くワンマンショーは大いなる見所勃ち処。対して、そもそもハシキョンが電車に乗りすらしない、加へて三番手の扱ひも大概宙に浮くPart Ⅱが兎にも角にも箸にも棒にもかゝらない。ただでさへ中弛む火に油を注ぎ、久保レーションで何となく繋ぐ以外には、各Partが1mmたりとて連関するでもなく。オーラスの方便は、痴漢で通勤地獄を通勤天国に。結構どころか普通に豪華な面子にしては、今となつては最初の数行から脚本が通る訳がない、旧いだけで別に良くも何ともない時代を偲びたいのなら偲べば?といつた程度の生温いか自堕落なレガシーといふのが、精々関の山といつたところである。いや、高原香都子のワンマンショーは本当に燃えるぞ。


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