真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「繁縛花 美肉の森」(昭和60/製作:雄プロダクション/配給:株式会社にっかつ/監督:石垣章/脚本:矢沢恵美子/企画:栗原いそみ/製作:広木隆一・石川均/撮影:遠藤政史/照明:隅田浩行/編集:J・K・S/音楽:遠藤ミチロウ「オデッセイ・1985・SEX」Michiro, Get The Help!より キングレコード フォノジェニックス 津田治彦・花本彰・辻信夫/助監督:富岡忠文/撮影助手:宮本良博・林誠/照明助手:大屋武・河野義明/監督助手:長田浩一/美術:たぬき工房 檜原秀太・鈴木亜矢子/衣裳:富士衣裳 松井律子/ヘアー&メイク:長井ひろみ/スチール:浜田一喜/縄師:春川かおり/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学工業/協力:三門・にっかつ荘/出演:高原香都子《新人》・青木祐子・杉田広志・山川三太)。
 木洩れ日のキマッた深い森の中、結構高々と吊られた青木祐子が、しかも広角に揺れる。識別不能な遠さで近づいた男が、青木祐子を下す。下された青木祐子の「お父さん・・・・」といふ呟きに続いて、揚羽蝶が捕らへられた蜘蛛の巣にタイトル・イン。日活創業者の一人・梅屋庄吉の別荘―房総鉄道(現:JR外房線)創業者・大野丈助旧邸―で、当時福利厚生施設として使はれてゐた三門・にっかつ荘の塀を、高原香都子と杉田広志が回り込む。「暑い夏でした、気の遠くなるやうな暑い夏でした」と杉田広志のモノローグが、今泉浩一みたいな軽さで起動。銀行家一族の令嬢・タチバナ小夜子(高原)が、書生修行中の納谷泰右(読みはダイスケ/杉田広志)を伴ひ病気療養に外房の別荘を訪ねる。元々は上京し銀行を興した小夜子祖父の本宅であつた別荘は、代々タチバナ家に仕へる泰右にとつては実家で、今は泰右の父・計三(山川)と姉の鏡子(青木)が守つてゐた。ところで徒に健康的な高原香都子が、病弱なタマにはてんで見えない点に関しては生温かく気にするな。キャスティングに際して余程針の穴に糸を通しでもしない限り、誰しもが嵌る罠である。
 一昨々年に発表した美少女緊縛幻夢写真集『奇妙な果実』が話題となり国内外で名を馳せ、遠藤ミチロウとの近しい関係でも知られた写真家・石垣章(2011年没)の、どういふ伝(つて)でだか中村幻児率ゐる雄プロダクション経由の“第1回監督作品”。といふのは、エンドロールに於いて明記される、第二回以降はアダルトビデオ。深町章の昭和末期痴漢電車で激しく琴線に触れた、悩ましい裸身をもつと拝みたくて辿り着いた高原香都子のデビュー作である、ビバサブスク。
 ステレオタイプに高慢ちきなお嬢さまと、お嬢さまに―ダッチハズバンドとしても―付き従ふ、結局終始蚊帳の外に置かれた頼りない語り部。実の娘と夫婦のやうにサドマゾ生活を送る、粗野な別荘番。果敢か豪快にスッ飛ばした行間の果て、お嬢さまは別荘番の手により縄の味を覚える。特にも何も旨味も新味もない、自動出力したが如きありがちな物語が他愛なく展開するのに加へ、諏訪太朗と菅田俊を足して二で割つたやうな山川三太(a.k.a.鈴木明=鈴木あきら)まで含め、俳優部の口跡は全員覚束ない。キメに来たショットの強度は比類ない反面、基本ロングかフルに傾倒し、踏み込んで寄る意識の不足したカメラ距離。の以前に繋ぎから結構雑な、決して得手とはいひ難い演出のみならず艶出。そして、アンドロギュヌス的に捜し求める火の欠片、とかいふ木に竹を接ぐ方便を小夜子に持ち出させ漫然と尺を空費した結果、消え失せる締めの濡れ場。全篇隈なく鏤められた粗の種々には事欠かないまゝに、それでも超絶美麗の二本柱を擁し、最早映画といふよりも、よしんば動く写真集であつたとて連べ撃たれ続ける強い画の数々は、一時間すら刈り込む短尺にも動画感を加速されそれなり以上に見応へがある。強ひて難点を論ふならば青木祐子の吊り下げられた尻は入念に愉しませる反面、折角絞り込んだ高原香都子のオッパイを、粘着質に嬲る即物性を発揮して欲しかつた、品性下劣な心は残る。尤もそれは、石垣章の志向なり嗜好とは、端から合致せぬお門違ひな卑しい望みであつたのかも知れない。


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