真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「三十路妻の誘惑 たらし込む!」(1992『団地妻 不倫つまみ喰ひ』の2000年旧作改題版/企画:セメントマッチ/製作:BREAK IN/提供:Xces Film/監督:池島ゆたか・烏丸杏樹/脚本:五代響子/撮影:下元哲/照明:小田求/編集:酒井正次/ヘアメイク:中込由花/スチール:津田一郎/助監督:高田宝重/監督助手:橋本闘志・山下大知/撮影助手:小山田勝治/照明助手:広瀬寛巳/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:草原すみれ・如月しいな・大滝加代・しのざきさとみ・伊藤清美・杉本まこと・大門恭司・神戸顕一・山本竜二・山ノ手ぐり子・切通理作・池島ゆたか)。出演者中、大滝加代がポスターには杉原みさお。仮名遣ひとしては本来こつちが正しい、杉原みさを名義は何回か見覚えもあるが、フルモデルチェンジした大滝加代ver.は初めて観た。
 昨晩もお盛んであつたにも関らず、八木沢祥子(草原すみれ/a.k.a.西野奈々美)が夫・孝一(杉本まこと/a.k.a.なかみつせいじ)に、朝から台所で突かれる後背立位で敢然と開巻。結婚四年、未だ子作りを拒む祥子は、孝一の精を口で受ける。課長に昇進しての転勤も見据ゑた、二週間の大阪出張―杉本まことの台詞では一週間、ちやんとして欲しい―に孝一を送り出した祥子の心なしか悄然とした背中から、街のロングに繋いでタイトル・イン。俳優部のクレジットのみ先行しつつの、スポーツ紙でトッ散らかつた竹宮探偵事務所。別に仕事をする風でなく、虎キチでデーゲーム中継を眺める竹宮(池島)の、尺八を風鈴飯店の出前持ち・サッちやん(大滝加代=杉原みさお)が吹く、ツケすら溜めてゐるのに。その夜、その日も開店休業状態であつた竹探事務所を、人捜しを求めて祥子が訪ねる。対象は現在二十八歳の祥子が十四の時性の知識に欠き妊娠出産した、彼氏(不明、橋井友和かなあ)との間に出来た娘のナカジマユリ(如月)。ユリは子供のゐない姉夫婦の間に生まれた形で育てられてゐたものの、その姉夫婦が海外で交通事故死。帰国したユリは実家に寄こした葉書の、新宿の消印を唯一の手がかりに消息を絶つ。孝一に未だ言ひだせぬ過去含め、祥子はユリが風俗に身を落としでもしてはゐまいかと豊満な胸を、もとい気を揉んでゐた。昭和のオッサンか、昭和生まれのオッサンなんだがな。兎も角、起動した竹宮はジュクを絨毯爆撃的に当たり始める。
 配役残り、伊藤清美は竹宮が初対面の祥子をそのまゝ連れて行く、馴染の店のママ。祥子が用意してゐた前金から、矢張りツケで四万をその場で抜く。スッキリして来たのか、雑居ビルから往来に出たところで、竹宮から話を訊かれる髭デブは高田宝重。神戸顕一は、祥子が淫悪夢を見るハレンチ産婦人科医。イジリー岡田みたいな見た目で、村西とおるみたいな造形。山ノ手ぐり子(=五代響子/現:尭子)の一役目と山本竜二は、嘘情報に振り回された竹宮が誤爆する全く別人のナカジマユリと、そのヒモか風俗店のバイオレントな男衆。しのざきさとみは山竜にノサれた竹宮がノンアポで転がり込む、二年前に別れた元嫁のナオミ。ともに電話越しの声しか聞かせない孝一大阪妻と、先に触れた竹宮にガセネタを吹き込んだ、風俗記者の後輩・遠藤も不明。竹宮が話を訊く、ママチャリの女は山ぐりの二役目。橋井友和アテレコの切通理作は、竹宮が続けて話を訊く新聞配達員。そして大門恭司が、独立採算でユリとマンションに二人暮らしする恋人のテツヤ、職業不詳の単車乗り。
 未配信作が地元駅前ロマンに飛び込んで来た、池島ゆたか1992年第四作、通算第五作。共同監督の烏丸杏樹といふのは橋口卓明の変名で、監督と主演の兼務など罷りならんとエクセス側から難癖をつけられたゆゑ、現場監督を立てた体。池島ゆたかと橋口卓明といふと、実は監督デビューだけだと橋口卓明の方が二年先輩なのだけれど。
 物憂げな女の秘められた来し方に絡んだ依頼を受けた、普段は昼行燈な探偵が繁華街を駈けずり回る。如何にも探偵物語的なストーリーではあれ、なかなか相談がさうはすんなりと通り難い。肥え始め通り越し明確に肥えてゐるルーズな体躯に連動するかの如く、池島ゆたかが演出にもキレを欠き、ある意味リアルでなくもないとはいへ、清々しく垢抜けない二番手はビリングに開いた大穴。大門恭司に関しては男優部にそこまで多くを望まないにせよ、ユリとテツヤの婚前交渉を、全身丸見えの竹宮がガラス戸にへばりついてガン見する、壮絶に無防備なカットには引つ繰り返つた。一見情感豊かに中盤を支配する割に、しのざきさとみは冷静に検討すると本筋に掠りもしない純然たる濡れ場要員。竹宮の相変らずな日常を担保する分サッちやんはまだしもな、杉原みさおに劣るとも勝らない扱ひは案外あんまり。双方向に火種を抱へ、一旦は離婚届を準備した祥子が竹宮と寝てゐながら、孝一と最終的にはケロッとヨリを戻してのける調子のいいハッピー・エンドも、些か理解にも感情移入にも遠い。ゴッリゴリ押して来る絡みの訴求力は、面子的にAV臭さが否めない如月しいなのものを除けば概ね高く、裸映画的な不足は特にない、ものの。ユリ捜しが順調に難航、一旦途方に暮れた竹宮は夜のブランコに志村喬ばりに揺られながら、「この街は、人一人隠すのなんて訳ないもんな」。一件落着したのちには、窓の外に向かつて紫煙なんぞ燻らせての、祥子を指して「一陣の風のやうに、俺の前を過ぎて行つた女だつたな」。何が“一陣の風”なら百貫、いや流石に375kgはねえよ。下手に気取るなり悦に入つた風情が白々しい、総じては漫然とした一作と難じるほかない。

 とこ、ろで。ユリとテツヤは、ユリが結婚最低年齢に達する、二年後には結婚する予定である旨語られる。ググッてみると昭和42年生まれとする記述も見当たる、大門恭司は今作劇中時点で既に未成年には見えない―如月しいなも如月しいなで十四歳に見えない点に関してはさて措く―が、何れにしても未成年の結婚に際しては、民法737条により両親の同意が必要とされてゐる。とこ、ろが。前述した通り、戸籍上ユリの両親は故人。その場合に於ける後見人その他代替者を民法は規定してをらず、テツヤ成人済みの前提で話を進めると、二人の婚姻は受理され得る届さへ出せば、当人同士の合意のみでひとまづ成立する。とことこ、ろでろで。来年度から一昨々年に成立した民法改正で成人年齢が十八歳に引き下げられ、逆に、あるいは併せて、現行二歳差の設けられてゐる結婚最低年齢は、男女とも十八歳で統一される。即ち、未成年の結婚といふ概念自体が消滅する格好となり、畢竟、意義を完全に失ふ737条は削除される。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )