真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「OLハンター 女泣かせの指」(昭和61/製作:ローリング21/配給:株式会社にっかつ/監督:北沢幸雄/脚本:田辺満/プロデューサー:千葉好二《にっかつ》・北条康《ローリング21》/撮影:仲田善哉/照明:石部肇/音楽:エディみしば/編集:北沢幸雄/助監督:荒木太郎・上野俊哉/撮影助手:佐藤和人/照明助手:佐藤才輔/効果:東京スクリーンサービス/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/ネガ編:金子編集室/車輌主任:田島政明/スチール:田中欣一/出演:瀬川智美《新人》・岡田きよみ・望月まゆみ・野上正義・大山潤次・尾崎祐介《子役》・ヒロ田島・谷津正行・長州刀・除福健・斎藤之寿・今福平節・上野俊也・吉沢浩美・田辺満・劇団 火の鳥・武藤樹一郎)。ネガ編だなんて端折るクレジット初めて見た、一文字だけぢやないか。
 開巻に飛び込んで来るのが、まさかの荒木太郎。ゴミを漁るレス・ザン・ホームな荒木太郎の画に、クレジット起動。jmdbでは昭和58年俳優部の記載が最初―演出部だと60年―だが、dgojのプロフィールによると昭和56年に俳優部、58年に演出部としての活動をスタートさせたとある。閑話休題、三時の方向からフレームに入つた白いヒールの女の足が歩を止め、再び歩き始める。女を尾ける、男の黒い革靴の足元。踏切に軽く追ひ詰められた女の、悩ましい透けブラを完璧に押さへた上で、小走りで逃げる背中にタイトル・イン。
 高橋直子(瀬川)をストークしたのち帰宅する松岡稔(武藤)を、窓から「お帰りなさい」と迎へる女の声。配役残り、何気にジャスティスな美乳を誇る岡田きよみは、松岡のアパートに来てゐた交際五年の婚約者・ヨーコ。望月まゆみと恐らく大山潤次は、松岡の同僚、男の方の固有名詞はキクチ。望月まゆみの派手めな化粧と時代の波に沈んだパーマ頭が、如何にもこの頃の三番手スメルを爆裂させる。野上正義は、デパガである直子の上司、兼不倫相手の尾崎。勤務中直子に江川―卓―の話を振るのが、逢瀬の符牒なのか何なのかよく判然としないのは、直截に枝葉に映る。尾崎祐介は、尾崎の小学校低学年程度の息子。流石に齢が合はず、世界観―なら当時一才―ではない。その他潤沢な頭数は主に直子・松岡双方の職場部と、直子がよく使ふコンビニ部、田辺満や上野俊哉は視認不能。アバンとラストを任される重用ぶりを見るに名前は並んでゐるにさうゐない、荒木太郎の変名も不明。
 北沢幸雄昭和61年第七作は、買取系ロマポ第二作。第三作がex.DMMの隠れた得意技で、何故か脚本家・斉藤猛の名前でタグづけされてゐたりもしつつ、四本全部見られる僥倖は、有り難く享受する。にっかつ公式のプレスシートに於いて、北沢幸雄が“ピンク映画の西村昭五郎”とか評されてゐたといふのが激しく琴線に触れる。いひたいことも判らなくはないにしても、全く以て似て非なるにもほどがある。表面的な硬質さは兎も角、コアな部分では、西村昭五郎と比べると北沢幸雄は余程柔らかいか、ウェットであると思ふ。
 そもそもの顛末もスッ飛ばし、直子に松岡が無防備に付き纏ふにほぼほぼ終始する始終は、暫し満足な物語の起動も凡そ窺はせない。松岡の偏執の源に、所謂マリッジ・ブルー的な解釈も成り立つにせよ、結婚して所帯づいたキクチを望月まゆみが気軽に揶揄する程度で、外堀は殆ど全く埋められない。直子に対する姿を隠しもしない松岡の尾行に、フルスイングで広げる―勿論エロい―イマジンの大風呂敷をカットバックさせる一頻りは、グルッと一周して無邪気なほどの馬鹿馬鹿しさが、映画を壊してしまふ寸前のツッコミ処。とこ、ろが。配偶者に怯えた尾崎が、関係の清算を無体に切り出して以降の終盤が猛加速。親爺と花火をしようとしてゐた倅に接触した直美は、血相を変へた尾崎の手を掴み観音様に触らせると「最後のプレゼント」、「火遊びの仕方教へて呉れて有難う」。空前絶後に粋な、別れの名台詞には痺れた。その後何時ものコンビニにて適当に買物した直子が、世間は夏祭りに浮き足立つ中、東京音頭を口遊みながら泣くありがちなシークエンスがなほのこと一撃必殺。要は元から底抜けに低い知能が刻一刻と経年劣化を加速させてゐるからなのだけれど、エモーションなんて、寧ろベタならベタなほどいいのではなからうか。本来クライマックスたる、直子と松岡による雨中の一戦は、拭ひ難い特機感も否めないものの、再度飛び込んで来た荒木太郎を、トレンチの下は全裸な直子が、路地裏の行き止まりに誘ふラスト。今風に壊れたといふよりも、一線を越えフッ切れた直子が毒々しい色彩の照明にも飾られ艶やか且つ華やかに、吹き溜まりに大輪の妖花を咲き誇らせるショットは、下手に寄らない距離感も功を奏し、ルンペンに痴女もとい美女が微笑みかける、慈悲に満ちたロマンティックを力強く撃ち抜く。


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