真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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好色エロ坊主 未亡人 初七日の悶え/ex.DMM戦
さ行
/
2019年09月07日
「
好色エロ坊主 未亡人 初七日の悶え
」(1993/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/脚本・監督:瀬々敬久/企画:朝倉大介/撮影:斎藤幸一/照明:笹塚ライト兄弟/編集:酒井正次/助監督:原田兼一郎/監督助手:榎本敏郎/撮影助手:斉藤博/応援:広瀬寛巳・山崎光典/スチール:宮沢豪/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/協力:浅草 銀河舎・浅草 花やしき/出演:小川真実・摩子・蒲田市子・佐野和宏・下元史朗・外波山文明・小林節彦・いぐち武士・伊藤猛《友情出演》・宵待闇四郎・柳蜂逸男・丸沢直巳・広瀬寛巳・山田奈苗)。 頭に“好色エロ坊主”を冠するのは、後述するタイトル画面に従ふ。
木彫りの観音様とか古タイヤが漂ふドブドブした川辺から、ティルトアップすると悶える蒲田市子のロング。一見ワンマンショーかと思ひきや、赤襦袢の中から小林節彦も出現。何気に光る、絡みのテクニック。一方逃げる伊藤猛と、追手は―
何故か普通に疾走する
―下元史朗に、ビリング推定で宵待闇四郎と柳蜂逸男。追ひ詰められた伊藤猛が、下元史朗の一太刀を浴びる。事後対価を要求するトシ子(蒲田)に対し、ルンペンのアビル(小林)が悪びれもせず開き直るところに、瀕死の山岸貞雄(伊藤)が流れ着く。貞雄を知るにも関らず、アビルが助けようともせず脊髄で折り返して財布を奪ひつつ、貞雄はトシ子に何某か書類を託し事切れる。「福祉課職員殺される」、貞雄殺害事件の新聞記事をトシ子が読む、浅草の町。アビルはといへば、貞雄の金で暴飲暴食三昧。商店街にクレジット起動、完走したのち春画にタイトル・イン。通例、今作のタイトルは「未亡人 初七日の悶え」(原題:坊さんが屁をこいた)とされてゐるものの、実際のタイトル画面は木魚ベースにお鈴が鳴つたタイミングで、“好色エロ坊主”が止めに打たれる。ポスターがどうなつてゐたのかは、ググッてみても画像が出て来ないので知らん。
配役残り、三人纏めてファースト・カットの佐野和宏と小川真実に摩子は、生臭坊主の永俊と貞雄の妻・夕子に、弔問に訪れた貞雄の同僚・北村愛子。永俊が経を読む山岸家に押しかける外波山文明といぐち武士(a.k.a.いぐち武志)は、再開発中の一帯に存する、山岸家の物件を狙ふ「フロンティア開発」の社長・菅原聖蔵と、堅気に見せる気のない懐刀・六。永俊・夕子・貞雄とついでにアビルも、同じ土地で育つた顔馴染。永俊目線では、夕子を貞雄にカッ浚はれた仲。更にトシ子が、実は永俊の家出した妹。改めて下元史朗は、夕子が営む小料理屋「大門」の常連客・新右衛門。jmdbには新衛門とあるのは、脱字ではあるまいか。この人も正体は機動隊員上がりの、古風に先生呼ばはりされる菅原の用心棒。左足が不自由だが、腕は立つ。多分宵待闇四郎と柳蜂逸男が、「フロンティア開発」の手下部。不完全消去法で丸沢直巳と広瀬寛巳は、菅原一派に駆逐される浮浪者か労務者。少なくともノートの液晶サイズでは、ひろぽんも視認不能。山田奈苗は、心根を入れ換へ修行の旅に出る筈の永俊が、尻に手を伸ばす大根を齧り齧り歩いて来た女。
当初は素のDMMに大量に転がつてゐる、ex.DMMにも入つてゐない国映作を随時拾つて行く方向性であつた
国映大戦
。その後、バラ売り月額同時でex.DMMに新着させるインターフィルムの勃興と、前田有楽閉館に伴ふ遠征一時?休止で余暇が発生。大幅に方針転換した第十九戦は瀬々敬久1993年第一作、商業第八作。何処まで連続してゐるのかは見てみないと判らない、次作の「未亡人 喪服の悶え」(同/葉月螢デビュー作)も配信して呉れたならインターフィルムさんマジ神。ついでに佐野が矢張り生臭坊主に扮する、森山茂雄第六作「
後家・後妻 生しやぶ名器めぐり
」(2004)と、薔薇族含め第九作「
ワイセツ和尚 女体筆いぢり
」(2007/二本とも脚本・主演:佐野和宏)の二部作とは、永俊と鎮源といふ根本的な相違が示すやうに、一欠片の関係もない。
先に裸映画から片付けると、アバンに三番手が飛び込む奇襲は、味のある画の力も借り華麗に決まり、ちやんと話を通したのか、蒲田市子は矢張り小林節彦と花やしきでの観覧車戦も敢行する。常識的に考へて、通してゐる訳がないか。対照的に、小川真実には男優部三本柱との濡れ場を質量両面じつくりと攻めさせる、案外完璧なオーソドックス。時機を完全に失したかに思はせた摩子も、ギリッギリの妙手で展開に取り込むだか捻じ込む。雑な火蓋と愛子がアヒンアヒン適当に応じるルーズな艶出に関しては、色仕掛けといふ体裁に即したものと、ここは好意的に解する。
その上で総体的には、瀬々敬久といふより殆ど佐野和宏の映画。地上げベースのありがちな下町譚に、瀬々ぽいポリティカルなサスペンスを組み込んだ物語は、二年後の大震災を予測するかの如く、豪快に卓袱台を引つ繰り返す。さうはいへ、アビルと鯰、二段構への伏線を周到に張り巡らしながらも、ディザスターの如何ともし難い安普請ぶりには、尻子玉が抜かれる感も禁じ得ない。片や佐野はといふと絶好調に弾け倒し、駆け抜ける。葬儀が一段落ついた、寿司の席。早速権利書の件を切り出す菅原に、「仏の前でなあ、そんな辛気臭い話するんぢやねえよ」。鮮やかな第一声を放つや、「坊主酔つ払つてんぢやねえぞ」と凄む六にキメるクロスカウンターが、「仏の供養だバカタレ」。バカタレだ
オタンコナス
だ、佐野が吐き捨てる悪態は何でこんなにカッコいいのか。アビルとの再会に際しては、「おいアビル、お前まだ生きてたのか」。「お前等が生きてるやうぢや、日本の不景気もまだまだ大したことねえな」。いよいよ、大した破目になりさうなんだけど。下元史朗も負けてはをらず、永俊殺害を命ぜられ、坊主相手に逡巡してみせた新右衛門は今更信心もないだらうと難じられると、「ただ何となく生きて来ただけだからな」。佐野の粗くアグレッシブなのとはまた別種の、下元史朗の静かで硬質なビートが走る。さんざ人を殺めた末に極楽行けるかなと問ひかける、今際の間際の新右衛門に返す永俊最長不倒のエモーションが、「馬鹿野郎、極楽も地獄もあるもんか」、「生きて生きて生きまくりよ!」。斯くも力強い、生の肯定。文化施策といふよりは寧ろ厚生施策として、津々浦々常時上映してゐるべきではないのか、出来れば35mm主砲で。名台詞超台詞を乱打する、猥雑にして痛快な大ロマン。この期に掘り進める初期瀬々敬久の中では、今んとこ仏千切りで一番面白い。
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