真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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新・実録をんな鑑別所 -恋獄-
あ行
/
2017年10月06日
「
新・実録をんな鑑別所 -恋獄-
」(昭和51/製作:日活株式会社/監督:小原宏裕/脚本:神波史男・松下幹夫/プロデューサー:海野義幸/撮影:安藤庄平/照明:新川真/録音:神保小四郎/美術:菊川芳江/編集:鈴木晄/助監督:鴨田好史/色彩計測:関寿之/製作担当者:天野勝正/現像:東洋現像所/音楽:ダウンタウン ブギウギ・バンド/主題歌:『煉獄ブルース』作詞:清水哲男・作曲:宇崎竜童・唄:宇崎竜童/出演:梢ひとみ・山科ゆり・丘奈保美・南ゆき・佐原京子・南黎・宮崎あすか・長弘・谷本一・川村久志・溝口拳・しば早苗・橘田良江・結城マミ・榊原あい・森京子・小川奈津子・小見山玉樹・菅原義男/刺青:河野光揚)。出演者中、佐原京子としば早苗以降は本篇クレジットのみ。逆にポスターにのみ牧れいかの名前が載るのだが、これは即ち、牧れいかは役者名でなく役名をクレジットしてしまつた、ある意味量産型娯楽映画らしいといつていへなくもない豪快なお茶目さん。各種資料に見られる企画の奥村幸士が、例によつて本篇クレジットには見当たらず。クレジットはスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
ジングルベル流れる雑踏に、コートの前で腕を組み歩く主演女優、クレジットが先行する。険しい顔マンションの表に立ち止まる、懐には物騒なドス。北条真弓(梢)が子をも宿した恋人の元木登(谷本)には、闇雲に腹に般若、背には菩薩を彫つた佐原京子(牧)といふ女が、どうやら真弓よりも先に既にゐた。京子を抱く元木の部屋に侵入した真弓は、ドスを抜き京子を背腹それぞれ一閃の二太刀で斥け、元木の脇腹を深々と貫いてタイトル・イン。タイトルに僅かに先行して起動、何故か“煉獄の”の“の”抜きでクレジットされる主題歌は、元々は後述する第一作のために書き下ろされたもの。
護送中拘束された両手で自ら腹を乱打し流産した真弓は、担ぎ込まれるやうな形で武蔵野鑑別所に入る。正真正銘の刃傷沙汰を仕出かして来たにしては、真弓は優等生を集めた31号房に入れられる。といつて31号房の女学校的空気に真弓が馴染む素振りをサラッサラ見せない中、31号房と、逆に札つきを集めた13号房とが衝突、13号房のボス・大野芳江(丘)だけが懲罰房にブチ込まれる。芳江の無事を祈りに礼拝堂に忍び込んだ、妹分で黒人ハーフの浜田ルミ(宮崎)は、電極を仕込んだ張形で杉本(溝口)が芳江を責めるのを、マジックミラー越しの隠し部屋にて楽しみながら、教官の二宮和子(南ゆき)が所長の滝岡(長)と乳繰り合ふ現場を目撃する。
配役残り我等がコミタマこと小見山玉樹は、武蔵野鑑別所その他職員、菅原義男も同じくか。山科ゆりが31号房房長の草壁文子で、南黎が、文子とは百合香らせる仲にもある副長格の加川かおる。川村久志は、和子が文子を籠絡する出汁に使はれる、詰襟の色男・美崎次郎。しば早苗から小川奈津子までは、その他鑑別対象者と鑑別所職員要員か。幾分台詞も与へられるオバハン職員が、しば早苗なのか橘田良江なのか未だ見極められない壁は、何れ越えてみせる。更に、ここからがある意味一番重要。タイトル直後の護送車に、庄司三郎がクレジットレスで飛び込んで来る。
小原宏裕昭和51年第一作は、三作前の前年第一作「実録をんな鑑別所 性地獄」(桃井章との共同脚本)と、その次作「続実録をんな鑑別所」(脚本:桃井章)から一作空けての、「実録をんな鑑別所」シリーズ最終第三作。主演は全て北条真弓役の梢ひとみ、なのだが。ザッと調べてみるに真弓が臭い飯を食ふに至る顛末が各々違ふゆゑ、パラレル的なシリーズ展開なのかも。
要は鑑別所の鑑別対象者といつて、描写上一欠片の差異が考慮されるでなく、看板の毛色を少しだけ変へた女囚映画であるのは改めていふまでもあるまい。現にといふか因みにといふか、どワイルドな昭和ヒャッハー造形の溝口拳の役名が、杉本看守。いはゆる看守といふのは厳密には日本では―国家公務員である―刑務官の階級で、よしんばパッと見看守にしか見えなくとも、鑑別所で勤務するのは法務教官―か技官―である。些末はさて措き、全裸身体検査に、懲罰と称した性的拷問。少女同士の私闘大乱闘と、昼夜問はず塀の中で咲く百合。女囚映画のフォーマットを馬鹿正直に踏襲しつつ、今作がユニークなのは、良くも悪くも主人公の主体性の欠如。誰かにハメられたでなく、元木にキッチリ落とし前をつけて来た真弓にとつて、娑婆に残した未練は劇中殆ど窺へない。武蔵野鑑別所に入つてからの真弓といへば、完全に吹つ切れたかのやうに燻るばかりで、別にすることも特にやりたいことも見当たらない。始終の動因は専ら和子の愛憎と権謀術数が担ひ、動機が希薄なヒロインは精々何か事が起きてから後を追ふか、振りかゝつて来た火の粉を払ふ程度。といつた点は気づいてみると物珍しく映らぬでもないが、決して面白いといつてゐる訳ではない。なし崩し的な一斉蜂起からの、まさかの一網打尽エンドには「エーッ!」と確かに驚かされはしたものの、二撃鮮烈な印象を残す「
ルナの告白 私に群がつた男たち
」(脚本:佐治乾/主演:高村ルナ)の前作といふので、期待して観たほどでは全くなかつた。
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