真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「エロスの住人 ハメ快楽」(2001/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:小川隆史/撮影助手:小宮由紀夫/照明助手:石井拓也/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:黒田詩織・しのざきさとみ・間宮結・石川雄也・熊谷孝文・十日市秀悦)。
 速水万依作『愛の嵐』のワープロ原稿越しに、少女小説家志望の速水万依(黒田)当人と、『月刊少女小説』誌編集者・高坂(石川)の一戦で開巻。二人は平常の彼女彼氏ではなく、高坂と寝たら、万依をデビューさせてやる云々の関係。事後、約束を華麗に翻し『愛の嵐』に没を出した高坂は、『月刊少女小説』誌の販売不振による『桃色少女小説』への誌面刷新と、桃少巻頭小説を官能小説界の大御所・桑畑六剣郎ならぬ六十九郎(十日市)に依頼しようとしてゐる旨を告白。要は高坂の腹としては人身御供がてら桑畑六十九郎への弟子入りを勧められた万依は、コロッと快諾。「アタシ、官能小説家を目指すは☆」、と黒田詩織がレッツらゴーしてタイトル・イン、腰よりも軽いフットワークが清々しい。
 これといふほどの物語もないゆゑ配役残り、南酒々井の津田スタもとい桑畑六十九郎の自宅兼仕事場を訪ねた高坂と万依を出迎へる、一見書生とお手伝ひの熊谷孝文としのざきさとみは、家賃まで取られて桑畑家に逗留する、エロ書房編集者の岩下周平と、『レディースぬれぬれ』誌編集者・門倉希世子。その頃な桑畑先生の執筆部屋では白衣で尺八を吹いてゐた間宮結も、『週刊びんびんマガジン』誌の編集者・岸川沙月。オーラス万依が再開する形の編集者下宿で、シェーと仰け反る三馬鹿は、佐藤吏も含まれてはをらす不明、小川隆史がこの中にゐるのかな?
 主演女優といふよりも、不器用ながら三枚目のエモーションを撃ち抜く、ことも時にある十日市秀悦を目当てに選んでみた渡邊元嗣2001年第三作。実は桑畑六十九郎の処女作『お花畑で愛を追ひかけて』は、タイトルを偽らぬゴリッゴリのお花畑メルヘン。華々しく文壇に登場した桑畑であつたが、文学賞も受賞直前、恋愛感情を持つてゐたアシスタントに売名目的で巻き起こされたセクハラ騒動を被弾。その後失意の果てと生活のために、桑畑は官能小説に転向する。それなりの展開を辿るかに思はせた、にも関らず。公開当時m@stervision大哥に撮影部の不手際を中心に酷評され、それも全くその通りなのだが、それ以前に、単純に面白くないのには百歩譲るにせよ、そもそも物語の出来が頗る芳しくない。自身の立ち位置と重ならなくもない桑畑の過去に触れ、既定路線の筈の高坂とも寝たやうに桑原先生と男女の仲になることに関して、万依が俄かにジレンマに苛まされるかのやうに、一旦は見せかけて。カット跨ぐと大失恋後絶頂感を失つた万依と、桑原の俺が教へてやる的な濡れ場にサクッと突入してのけてゐるのには逆に吃驚した。ヒロインが思ひ惑ふ筈の葛藤をコマ単位で粉砕した日には、ドラマらしいドラマの成立しやうもない。万事目出度しの大団円といへば聞こえもいいものの、直截には御都合の嵐が吹き荒れるラストの落とし処も粗雑な印象が強い。桑畑が執筆に窮するや、寄宿する編集者が絡み込みでといふか絡みそのものの寸劇を披露する。となると迸る既視感、大門徹第三作「本番熟女 淫ら舞ひ」(1996/脚本:木村正/主演:さの朝香)と全く似たやうな話ながら、底の抜けた世界観を抜いたまゝ爽快に振り抜いた大門徹に対し、中途なお涙要素を盛り込みかけただけに、逆の意味で見事に仕損じたナベとのその限りに於いての優劣が、改めて際立つ一作ではある。

 ナベシネマ恒例楽屋オチ風のエンドロールにて、黒田詩織が手に持つカチンコには、“お世話になりました!”のメッセージが。黒田詩織は今作で一旦引退後、忘れた頃の2006年、黒田瑚蘭名義で電撃復帰。その後も国際魅力学会とかいふ、如何にも胡散臭げな団体で―少なくとも―つい最近まで活動してゐた痕跡が、You Tubeの中にゴロゴロ転がつてゐる。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )