真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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どスケベ検査 ナース爆乳責め
加藤義一
/
2012年12月27日
「
どスケベ検査 ナース爆乳責め
」(2012/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/音楽:與語一平/助監督:小山悟/監督助手:田口敬太/撮影助手:酒村多緒・高橋可奈/音響効果:山田案山子/協力:エキストラのみなさん/出演:あずみ恋・倖田李梨・しじみ・津田篤・なかみつせいじ・久保田泰也・竹本泰志・柳東史・荒木太郎・Hitomi/友情出演:小川真実・酒井あずさ・山口真里・佐々木基子・川瀬陽太・広瀬寛巳・石川雄也)。実際のビリングは荒木太郎から友情出演枠を挿んで、トメにHitomi。それと、八巻祥一や與語一平らによる「Y・O・Y」が、劇中バンド演奏曲としてクレジットされる。ものの、何処でそれらしきトラックが流れてゐたのか、耳は目よりはマシな筈なのだが迂闊にも気付かなかつた。
「俺は映画を、映画を観に来ただけなのに、何でこんなことになるんだ!?」と困惑する俳優の安藤広(竹本)が、後々元気に二足歩行する割には何故か乗せられた車椅子を、後に日比恵都と命名される看護婦(あずみ)が何者かから逃げてゐる風情で押す。所変り、ロケーション的には上野オークラ劇場旧館ではありつつ、設定上は関西某地のピンク映画専門館、のロビー。翌日の舞台挨拶前の映写チェックを控へ、当地出身である監督の加藤琢也(津田)以下、俳優部の黒井かれん(倖田)と的場龍(なかみつ)に加藤とは旧知の劇場支配人(柳)、もう一人助監督の戸増龍(久保田)が、遅れる安藤の到着を待つ。恵都が手を離してしまつた車椅子が、下り坂を滑落、坂のふもとでは、もう一人のナース・ジェイミー・リー(Hitomi)が、最早文字通りどころでは済まない爆乳の装甲を解除し待ち受ける。憐れといふべきか寧ろ羨ましいのか、安藤が乳の海に沈んだところでタイトル・イン。
ひとまづ安藤を待たずに上映開始、自作を観るのが恥づかしい加藤は煙草を吸ひ、そこに支配人と、的場の劇場型痴漢を撃退したかれんが加はつたロビーに、恵都が大慌てで飛び込んで来る。恵都は、二十年前車に撥ねられ入院した加藤が世話になつた、思ひ出の看護婦と瓜二つであつた。当時、思ひ出の看護婦(当然あずみ恋の二役)と加藤は結構イイ雰囲気になりかけるも、加藤に意気地がなくそれゆゑ現実ではない濡れ場を消化したタイミングで、今度は軽いゾンビメイクの安藤が飛び込んで来る。見境のないセックス・アニマルと化した安藤を、黒井の姐御が木刀で一撃昏倒。うつ伏せに倒れた安藤は、何と倒れたままなほカクカクと腰を振り続ける。ゴチャゴチャしかしない語り口を整理すると、恵都いはく、ジェイミーに襲はれた者は皆、安藤同様人間性を喪失した性欲の塊となる。そして、恵都に促された加藤は思ひ出す。昨日、加藤は河原で謎の浮浪老人・黒伏(荒木)が鋏で切り刻まうとしてゐたアニメ顔のダッチワイフを、腕時計との交換で譲り受ける。但しその際、黒伏は三つの禁止事項を厳命する。①太陽の光に当てないこと、②人の名前をつけないこと、③深夜十二時以降翌朝までは、生出ししないこと。②と③を加藤が破つてしまつた為、ジェイミーは出現したといふのだ。すは街は発情した女で一杯だと明後日に色めき立つ、実は童貞の的場と、実は実はインポなので自分は大丈夫だといふ支配人が事態を報せる為に外に出る一方、加藤と恵都、かれんと戸増は映画館に立て篭もる。
配役残りしじみは、ジェイミーに搾り取られるエクソシスト?神父(川瀬)の傍ら、恐れ戦く―だけの―山本・マイケル・マイヤース・久美子。闇雲な名前といひ目の周りを黒く塗る―だけの―中途半端なゴスメイクといひ、何しに出て来たのか清々しく判らない以前に、そもそも神父と久美子の一幕はジェイミーの出自を語る重要なものであるにも関らず、不完全無欠に説明不足。なので黒伏含めて、正体は最後まで最終的には判然とせず。残る友情出演勢は、ジェイミーのもたらす淫蕩な混沌の中で繰り広げられる、リビング・デッドなテイストの乱交要員。佐々木基子のみ役名は、多分相葉和子、論拠は701。石川雄也には、チープな悲鳴を上げながら大勢から裸に剥かれる、プチ見せ場も用意される。処女作からの付き合ひとなる小川真実と佐々木基子、数作出演作のある酒井あずさと山口真里、近年加藤組準レギュラーといつても過言ではなからう広瀬寛巳に、「
女復縁屋 美脚濡ればさみ
」(2008/主演:村上里沙)に於ける名台詞、「俺を誰だと思つてるんだ、復縁屋だぜ」が今も印象に鮮やかな石川雄也。までは兎も角、加藤義一と川瀬陽太の繋がりは、小屋で映画を観るに止(とど)まる分にはよく見えて来ない。それと、ピンク映画出演は「
祇園エロ慕情 うぶ肌がくねる夜
」(2009/脚本:岡輝男/主演:椎名りく)以来となる小川真実が、「
奴隷船
」(2010/監督:金田敬/脚本:福原彰《=福俵満》・金田敬/主演:愛染恭子)で塾長の裸仕事とともに引退してゐたことは、寡聞にして今の今まで知らなかつた。
加藤義一の2012第一作は日活芸術学院同期の盟友・小松公典を―初めて近藤力名義ではなく―脚本に迎へた、監督デビュー十年の周年記念作。使用者が禁則に触れたばかりに愛玩物が巻き起こす大騒動、といふといはずと知れた「グレムリン」の直線的な翻案で、そのことは小松公典も随所で公言してゐる。加へてホラーとセクシー外人女優を中心に、オタク的な映画愛も全篇に鏤められるが、それらを一々吟味するには造詣に欠く上に面倒臭いので、ほぼ一切さて措く。ただ一箇所、加藤と思ひ出の看護婦との、妄想内の一戦。「フライングキラーみたいに飛び出して!」といふ求めに応じた加藤が、「殺人魚!」と果てる件。小ネタのワン・オブ・ゼンといふよりは、浜岡賢次の『浦安鉄筋家族』のやうなセンスに笑かされた。春巻が「ヘップバーン!」といふ悲鳴を上げるコマを見た時の衝撃は、今でも忘れられない。話を今作に戻すと、カメオ込みで膨大な出演陣にも豪華に飾られた、賑々しい娯楽大作。と、理想としてはなつたであらうところが、尺と比すとただでさへ過積載気味な脚本と大所帯を前に、現場が過密になればなるほど池島ゆたかならば時に発揮する超人的な冴えを、残念ながら今回加藤義一に望むべくもなく、全般的には料理しきれずに持て余した感は色濃い。ピンク映画が大好きであつた青年がやがて監督となり、かつて常連であつた小屋に凱旋する。思はず胸が熱くなるサブ・プロットを、舞台のイントロダクションとして取り扱ふのみで概ね素通りしてしまつたことは、激越に惜しい。さうなると本格女囚映画に挑んだ結果、単に粒を小さくした教科書通りのフォーマット描写に終始した、デビュー作「
牝監房 汚された人妻
」(2002/脚本:岡輝男/主演:岩下由里香)と近いといふ印象も、個人的には強い。尤も、加藤が青春時代の忘れ物を取り戻し、終始覚束ない始終を力技で成長物語の鉄板展開に捻じ込む最終盤は、案外綺麗に映画を締め括る。その辺りも、ヒロインの抑圧との闘争の勝利で見事畳んでみせた、「牝監房 汚された人妻」との近似を再び覚えるものである。となると要は、この十年加藤義一は殆ど進歩してはゐないのか?といふ根本的な疑問が湧いて来かねない野暮に関しては、折角の目出度い一作ぢやねえか、一旦忘れろ。
ところでひとつ猛烈に気になるのが、2009年第三作―「祇園エロ慕情」が第一作―「
誘惑教師 《秘》巨乳レッスン
」(主演:@YOU)を最後に、それまで加藤組を支へ続けて来た、岡輝男も丘尚輝の名前も実に丸二年以上見当たらない点。まさか喧嘩別れでもした訳ではあるまいな、この人の常に余力を残してゐさうな雰囲気は、量産作家的には意外と嫌ひでもないんだけれど。オーラスにもうひとつ、的場と対峙したジェイミーは、右左上段の前蹴り+右上段後ろ回し蹴りのコンビネーションで圧倒する。亜紗美ばりの切れには到底程遠いにせよ、李三脚ならぬリー三脚には予想外の飛び道具に驚かされた。
コッソリ備忘録< 加藤が高校時代所属してゐたバスケチームのチーム名は、「ドロッパーズ」。
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