真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「奴隷船」(2010/製作・配給:新東宝映画/監督:金田敬/脚本:福原彰・金田敬/原作:団鬼六『奴隷船』/企画:衣川仲人/プロデューサー:福原彰・佐藤吏/撮影監督:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大友洋二/録音:シネ・キャビン/緊縛師:奈加あきら/助監督:佐藤吏/スチール:中居挙子/ヘアメイク:中尾あい/監督助手:高杉考宏・國武俊文/撮影助手:海津真也・花村也寸志/編集助手:鷹野朋子/照明応援:広瀬寛巳/メイキング:長谷川卓也/現像:東映ラボテック/協力:船宿・縄定/出演:愛染恭子、那波隆史、吉岡睦雄、三枝実央《特別出演》、小川真実、真咲南朋、友田真希、川瀬陽太、内藤忠司、奈加あきら、なかみつせいじ、中村幸雄、周磨要、森田一人、坂口一直、中村勝則、マイケル・アーノルド、諏訪太朗)。出演者中、中村幸雄からマイケルアーノルドまでは本篇クレジットのみ。
 とりあへず、といふかひとまづは、“愛染恭子引退記念作品”のテロップで開巻。
 絶妙に微妙な節回しで愛染塾長の歌ふ童謡「通りやんせ」を、真咲南朋の悲鳴が遮りタイトル・イン。SM作家・鬼又貫(諏訪)が主幹するSMサークル「鬼面の会」の定例行事、「奴隷船」。借り切つた屋形船にて、会員が経済的事情から手放した愛奴を、他の会員が競り落とすといふイベントを度々開催してゐた。けふも鬼面の会員に対しひよつとこ面の調教師(奈加)が進行する中、内藤忠司が激しく未練を残す真咲南朋を、なかみつせいじが五十一万円で落札する。別に通り過ぎても構はないが、その金額で大の大人が包丁を振り回すほど狂乱するといふのには若干疑問も残る。
 おとなしくフィルムに着地して(後述)、鬼又の平素の執筆風景。秘書兼愛人の美幸(三枝)が一欠片も憚らず鬼又に纏はりつく傍ら、担当編集・石井(川瀬)は畏まつて待つ。愛人とはいへ二人の間に肉体関係は未だなかつたが、ゆくゆくは鬼又は美幸を、M女として調教する心積もりではあつた。普段から下着を着けないことの多い美幸はノートに向かひ清書すると称して、観音様を石井に開陳しフランクに誘惑する。ここで猛烈に立ち止まらざるを得ないのが、特別出演の三枝実央。個人的には特に見知つた名前でもないのだが、一般的に最低限そこそこはありさうなネーム・バリューは兎も角、強張つた相沢知美のやうな首から上もたどたどしいお芝居も如何せん少々キツい。容姿もさて措き一見抜群のプロポーションに見えなくもない肢体の方も、縄を掛けるには些か絞り過ぎでもあるまいか。話が配役に飛ぶが濡れ場要員の名に輝かしく相応しい、鬼又の回想中にのみ登場する隷女役の友田真希を観てゐると、ただ単に若いだけの小娘よりもこのくらゐの女の方が、麻縄はよく映えるやうにも思へる。絞り込まれた縄から正しく零れる乳が、実に素晴らしい。
 美幸を伴ひ、鬼又は伊豆の梅津温泉旅館へと向かふ。旅館の二代目支配人・梅津善三郎(那波)の随分年上の妻・菊江(愛染)と鬼又とは実は、かつて経営の傾いた大阪の建設会社社長(一切登場せず)から鬼又が菊江を奴隷船を通して譲り受け、二年の間愛人関係にあつた。その際鬼又は結婚を考へぬでもなかつたが、結局菊江は過去を知らない男との新しい人生を選んだ。一応責めてはみるが当時鬼又は菊江に、マゾヒストの資質はないものと判断してゐた。二人の間にただならぬ因縁のあらう節を察知した美幸は臍を曲げると、一人帰京する。後を追つた鬼又も戻ると、自らの主導で美幸は縛られた上、石井に抱かれてゐる最中であつた。一方、鬼又に善三郎から、菊江が鬱病で入院したとの連絡が入る。雨宿りに男の妻が経営するドライブインに駆け込んだことから、菊江が北川(吉岡)とかいふ奇矯な若い男に陵辱され、以来脅迫とともに肉体関係を強要されてゐたのだといふ。事態を収拾すべく、鬼又は再び伊豆へと乗り込む。全く脱ぎはしないまゝに、素の芝居だけで他の女優勢を完全に圧倒する貫禄を見せつける小川真実は、北川の妻で片足の不自由な久子。惚れたヤクザを庇ひ足を怪我するまではベトナム久子といふ名のストリッパーで、鬼又とも旧知であつた。鬼又から夫の犯罪的な不貞の事実を突きつけられた久子は、軽やかに一笑に付す。北川の味を覚えると、女ならば誰しもが病みつきになつてしまふさうだ。それにつけても、本妻が小川真実で浮気の相手が更に愛染恭子、一体北川はどれだけ筋金入りなのか。ところで徒な振り幅が尋常ではない北川のエキセントリック青年変態ぶりには、「乱姦調教 牝犬たちの肉宴」(2006/監督:竹洞哲也)時とほぼ同様のメソッドが流用される。残る主演者中村幸雄からは、奴隷船の鬼面要員。
 愛染恭子の、今作のプロモーションのため出演した福岡ローカルのAMラジオで自ら力説してゐたところによれば、あくまで裸仕事からのといふ限定付きでの引退記念作品は、同時に改めて振り返つておくと、「紅薔薇夫人」(2006/監督・脚本:藤原健一/主演:坂上香織)、「鬼の花宴」(2007/監督:羽生研司/ラインプロデューサー:寿原健二/主演:黄金咲ちひろ・松本亜璃沙)、「Mの呪縛」(2008/監督:新里猛/プロデューサー:寺西正己・藤原健一/主演:成田愛)と、これまでは律儀に年一本続いて来たペースから少し間を空けた、新東宝鬼六企画の第四弾も兼ねる。いの一番に引退記念作品を謳ひ、エンド・クレジットも流れ終つたいよいよのオーラスも、果たしてクランク・アップ時か花束を受け取る愛染塾長のスナップで締め括りながら、映画本体は意外といふかより直截には呆れるくらゐ、脱ぎ仕事を引退する大女優に奉仕などしてゐない。前半は概ね、無駄に張り切つた三枝実央が尺を喰ふ。中盤から終盤にかけては充実してゐなくもないとはいへ、こゝも菊江が後方から支援しつつ、前面に立つのはあくまで鬼又。最初の関係こそは手篭めにしたとはいへ、以降は菊江が望んだものだといふ釈明を当然呑み込めない鬼又に、北川は仔細を語る。最初の情交の事後、戯れに菊江の尻をベルトで打ちつけた北川は、その刹那菊江に秘めた被虐願望のあるのを看破したといふ説明に、鬼又は呆然とする。自分の見たところ、菊江にはマゾヒストの資質はないものではなかつたのか。だが然し、現に北川のいふ通りに関係は継続してゐる。熟練したプロフェッショナルであつたつもりの鬼又が、北川といふ天才の出現に動揺を覚えるカットは展開として作中初めて光るが、そこから先が壊滅的に頂けない。無論菊江が再度奴隷船に乗せられるクライマックスは設けられるものの、何がそこまで思ひ詰めるほど地獄なのだか画期的にピンと来ない選りにも選つて善三郎に、拡げた風呂敷が縮小されてしまふ。本篇ラスト・ショットも鬼又と同時に観客に対して別れの挨拶を告げる愛染恭子の画で畳みつつ、これでは所詮菊江は多少重きを置かれた濡れ場要員に止(とど)まり、物語上の形式的な出番といふ意味での活躍度は、寧ろ美幸の方が余程大きくもあるのではなからうか。なかみつせいじが真咲南朋を安い単車程度の値段で落札する、奴隷船のイントロダクションが何故キネコであるのかと同様、少なくともプロモーション的には“愛染恭子引退記念作品”を堂々と打ち出す反面、金田敬が何を考へてかういふ舵取りをしてみせたのだかが感動的に判らない。

 正直なところ、一連の新東宝70分バージョンアップ・ピンクシリーズ―たつた今適当に名づけた―が、どうにも打率が芳しくない。噂によると新東宝は新作ピンク映画の製作から手を引き、今後は間違つても量産はしないこの路線に特化して行くとかいふ話もあるが、最大限度に如何なものかと思はざるを得ない。折角本格娯楽作家としての萌芽を感じさせかけた、田中康文の新作など観たくて観たくて仕方がないのだけれど。尤も、当サイトは未見の旧作は未知の新作と何ら変りはないとする立場なので、新版公開だけは、何とか継続して頂きたい。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 喪服教師 の... 不倫団地 か... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。