真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「監獄のエロス 囚はれた肉体」(2002『牝監房 汚された人妻』の2005年旧作改題版/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影:小山田勝治/照明:ガッツ/編集:フィルムクラフト/助監督:城定秀夫/監督助手:伊藤一平/撮影助手:大江泰介・赤池登貴/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/音楽:レインボーサウンド/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/協力:田中康文・サカエ企画・阿佐ヶ谷兄弟舎/製作協力:《株》旦々舎/出演:岩下由里香・小川真実・佐々木基子・林由美香・風間今日子・佐々木共輔・丘尚輝・なかみつせいじ/友情出演:竹本泰志・柳東史・佐倉萌・鈴木敦子)。正確なビリングは、丘尚輝(=岡輝男)となかみつせいじの間にカメオ隊を挿む。撮影助手の志が抜けた赤池登貴は、本篇ママ。
 期間にして十年、本数約九十本を数へる助監督時代を経ての加藤義一、満を持しての監督デビュー作である。加藤義一といふ人の恐ろしいところは、質的にも量的にも大蔵のエース格を担ふやうになつた現在に至つてなほ、未だに小川欽也や新田栄の助監督を普通に務めてゐるところである。偉い、といへば偉いのであらうか。
 舞台は刑務所が民営化された近未来、万引きの常習犯・松本木綿子(岩下)が収監された亜成女子刑務所―読みは推して知るべし―は、法務省の矯正局長・乾周一郎(なかみつ)と癒着した所長の二宮翔子(小川)が牛耳る、汚職と性暴力の温床であつた。
 刑務所に入所した主人公の、同じ囚人同士で芽生へた友情、一方牢名主に受ける理不尽なリンチ。時に看守の性暴力の餌食になりながらも、終には刑務所の不正を訴へるべく一致団結して暴動を起こし、自由の身となる。一言で片付けてしまふまでもない、紛ふことなき女囚映画である。予算は―基本―三百万、何はともあれそこから全てが始まり、撮影は三日間、女優と男優は三人づつ。さういふ初期的な制約が存するピンク映画といふカテゴリーの中にあつては、手を出さうにもなかなか生半可には手を出せないジャンルではある。小川真実以外の女優部はクレジットに名前の載らない更に数名まで含めて全員女囚役、といふ分厚い布陣を何とか揃へて、加藤義一は果敢にも真正面から女囚ピンクに挑戦してみせた。十年の苦節を経ての監督デビューに際しての、並々ならぬ意気込みがひとまづは感じられる。尤も、封切り、もしくは旧題公開当時はそれなりに満足して観てゐたやうな記憶もあるが、現在の眼で観てみると、その後のすつかり大蔵エース格にまで成長した、そして目下更に大成の可能性すら秘めつつある加藤義一の姿を見てゐるからかも知れないが、幾分ならず物足りなさも覚えた。バジェットの如何以前に、六十分といふ尺の制約もあるのかも知れないが、教科書通りの女囚映画を、それこそ教科書通りにひとつひとつ手順を踏まへながら撮つてみた、だけなのでもあるまいか、さういつた物足りなさも覚える。それこそ現在の加藤義一を知るから生まれる感想にせよ、身の丈に合はぬジャンルになんぞ無理して手を出さなくとも、普通のホーム・ドラマでもつと幾らでもいい映画を撮れるやうな気がしてしまふのである。
 主演は、工藤雅典の傑作「美人おしやぶり教官 肉体《秘》教習」(2001)でピンク映画デビュー、いきなり今でいふ“ツンデレ”を極めてしまつた岩下由里香。ガッシリとした長身や、気性の強さと情の深さとを感じさせるハスキー・ボイスが大変魅力的な、個人的にも大好きな女優さんである。とはいへこの後ピンクでは二本仕事をした後、どうやらピンク以外でもプッツリと姿を消す、残念無念。もうひとつ勿体ないのは、ピンク映画といふのは香港映画やスーパー戦隊シリーズと同様、台詞は後からアフレコしてゐる―無論その方が、安く上がるから―のだが、今作では、声を別の女優がアテてをり、スカーレット・ヨハンスンにも似た―あまりアテにはなさらぬやう―ハスキー・ボイスは堪能出来ない。因みに、アテレコの主は佐倉萌。
 配役残り佐々木基子は牢名主の相葉和子、風間今日子は和子の子分で、レズビアンの相手も務める桜井ミーナ。この二人はネコとかタチではなく、和子が母親でミーナがその娘、といふ関係にある。林由美香は、木綿子が檻の中で仲良くなる大野麻子。乾が開発を進める洗脳マシーンの実験台にされ、命を落とす。ミーナも後に洗脳マシーンの餌食となり、半死半生のところを看守の長谷川純(佐々木共輔)に陵辱される。丘尚輝も、看守の風間恭介。最期ミーナに木刀を肛門に捻り込まれ絶命する、長谷川の清々しく情けない死に様は必見。特別出演の佐倉萌と鈴木敦子はともに女囚要員の筈なのだが、佐倉萌は兎も角、鈴木敦子は何度観ても何処に映つてゐるのだか確認出来ない。同じく竹本泰志と柳東史はともに看守要員。とはいへ、今回のプリントはかなりあちこち無造作に飛んでのけるプリントで、竹本泰志は兎も角柳東史の顔は拝めなかつた。

 最終的にはミーナ救出とシリアナ、もとい亜成刑務所の不正告発のため、手と手を取る木綿子と和子であつたが、遺恨は残つてゐたのか、翌月に公開されるロマンティックが暴走する山﨑邦紀版「地球に落ちてきた男」こと「愛人秘書 美尻蜜まみれ」(2002/脚本・監督:山﨑邦紀)では、岩下由里香と佐々木基子は壮絶なキャット・ファイト―多少以上誇張あり―を展開する、残るから“遺恨”か。

 以下再見時の付記< 以前の感想では、なかなかに屈折した不満を表してゐる。創造性に些か欠ける、教科書通りのジャンル映画の出来上がりではないか、といふものである。とはいへそこには矢張り、後の、そして現在も続く加藤義一の快進撃を支へる商業作家としての手堅さといつたやうなものが、初陣にして萌芽ではなく既に一応の結実を見せてもゐる。その時々の機嫌と体調とにコロコロ左右されてゐては我ながら始末に終へぬが、今回は今回でそのやうに感じた。
 別人によるアテレコの岩下由里香は、個人的嗜好としては矢張り片翼もがれてゐるものでもあるが、汚職官僚を演ずるなかみつせいじの、目を合はせなくとも見られただけで女は妊娠してしまひさうな、ハチャメチャな流し目は実に素晴らしい。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 人妻 濃密な... いんらん夫人... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。