真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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美熟女の昼下がり ~もつと、みだらに~
荒木太郎
/
2012年12月21日
「
美熟女の昼下がり ~もつと、みだらに~
」(2012/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:宮川透/助監督:桑島岳大/タイミング:安斎公一/応援:田中康文/協力:上野オークラ劇場/出演:愛田奈々・文月・浅井舞香・那波隆史・津田篤・小林節彦・太田始・今泉浩一・池島ゆたか・牧村耕次/特別出演:佐々木基子・里見瑤子)。実際のビリングは、今泉浩一から特別出演の二人(里見瑤子は本篇クレジットのみ)挿んで池島ゆたかと牧村耕次。それは兎も角、クレジットの文字が小さ過ぎて見えねえよ!
何気に意欲的に長く回す開巻。舞台は足立の市場の複雑な界隈に紛れた、安さと早さと大盛りが売りの大衆食堂「大森食堂」。店を切り盛りするのはアメリカかぶれでコーラ好きの店主・阿部網郎(池島)と、娘の千香(文月)。それに千香の兄で、食堂併設の図書室で本を読んでばかりのでくの坊・四郎(那波)の三人。後に自己紹介するナレーションの主は、十年前に先立つた網郎の亡妻・幸子(里見)。今回里見瑤子は、声と写真―遺影ともいふ―のみの出演に止(とど)まる。ある日趣味のカメラを首からブラ提げ散歩に出た四郎は、強面(小林)がけばけばしい衣装の女を連れ去るのを目撃。陵辱される女を、カメラのフラッシュを目眩ましに救出する。女・春子(愛田)に当てはなく、ひとまづ大森食堂に身を置くことに。施設に預けた子供が居ること、近隣を占めるヤクザ・東の下で汚い仕事に手を染めてゐたこと。春子は素性を徐々に四郎に打ち明け、二人は距離を縮めて行く。とはいへ初心で女心を知らない四郎に、千香とその彼氏・浩(津田)は、呆れついでに気を揉む。さうかうしながらも何時しか春子と四郎は男女の仲に、春子目当ての客で、食堂も賑はふ。そんな最中、初登場時は張りのあるビロードの美声しか聞かせぬ東(牧村)が、春子に接触する。実は春子は、大森食堂の物件目当てに東から送り込まれた、正しくハニーな罠であつたのだ。因みに東が何時も口ずさむのも通り越し朗々と披露する曲は、河瀬純の「
恋情乙女
」。
太田始と今泉浩一、それに田中康文も、大森食堂の常連客要員、その他もう若干名見切れる。「
ハード・レイプ すすり泣く人妻
」(2003/脚本:渡辺護/主演:富士川真林)以来となる、まさかの電撃ピンク帰還を果たした今泉浩一は、久し振りに見ると一見平井堅のレプリカかと見紛つた。その他数度明示的に抜かれるギターを抱へた男が判らない、ドンキー宮川(=宮川透)ではなかつた。終盤飛び込んで来る浅井舞香は、東の情婦・エリナ。最早
映画館シリーズ
でも何でもない上野オークラ劇場(旧館)のロケーションは、東のアジトと、屋上が木に竹しか接がない池島ゆたか・オン・ステージの舞台。
いい塩梅にガッハッハな親爺と普通にチャキチャキな若い娘の妹とは対照的に、とつくに若造といふ歳でもないに関らず、何時まで経つても青二才の主人公。ある日青二才は、如何にも訳アリな商売女が町を牛耳るヤクザの子分に手篭めにされる現場に遭遇、物の弾みで助けて匿ふ破目に。女は一家で営む定食屋にも馴染み、青二才と心身を通はせる束の間の幸せな日々。ところがやがてヤクザが女を奪還、あるいは元鞘に。青二才は意を決し、蛮勇を振り絞りヤクザの根城にカチ込む。果たして青二才と、女の運命や如何に?荒木太郎の2012年第一作は、シンプル極まりない下町人情活劇を、荒木太郎は矢張り何処まで行つても荒木太郎なので素直に形にしない、もしくは出来ない。今回は出演しない自身を投影したかのやうな非力でナイーブな造形の、那波隆史のカチ込みがてんでサマにならない時点で完全にズッこけてしまふ以前に、序盤中盤を通しては展開上ではなく、テーマ的に順調に躓く。春子が折に触れ口にする、人間が生きて行くのに大切な“誇り”だの“誰も見向きもしない花”が好きだのと、悪し様に筆を滑らせてのけるが、この際ハッキリいふとピンク映画にしがみつく己の為に撮つてゐるかのやうな、しみつたれたセンチメンタリズムは女々しくて矮小で喰へたものではない。荒木太郎にお門違ひを望むやうな気が我ながらしないでもないが、アンチェンジドの気概を胸に、高楊枝でデス・マーチに赴く外連を、せめてプリテンドでも見せられないものか。貧相なんぞ、とうに鏡に見飽きたは。もう少し那波隆史に話を戻すと、この人に好い人を演らせたところで自堕落に弛緩するだけなので、経験則としてオフ・ビートな悪漢以外にハマリ役が無かつたことも踏まへると、今作の劇中世界の中では、東の組に草鞋を脱ぐほかはなかつたのではあるまいか。十年どころか四十年一日のプロテスト・フォーク「原発アウト」―この曲の歌手がギター男?―を捻じ込ませる辺りは御愛嬌の範疇にしても、ここも実に荒木太郎らしく、だからこそなほ一層始末に終へぬ点なのだが、適宜御丁寧に作劇のつつがないリズムを進んでチャカチャカ阻害する、池島ゆたかの空騒ぎは全く以て為にするものでしかなからう。津田篤も津田篤で絡みを除くと、適当に周辺をブラブラするに終始する。一方、覚束ない演出部と男優部に代り、女優部は総じて堅調。文月はヴィジュアル・佇まひの両面で、事と次第によつては小型二代目の風間今日子たり得る逸材、であるかも知れない。闇に染まつた女の毒々しい色香を振り撒く浅井舞香も、三番手濡れ場要員の枠内にガッチリ納まりながら妖しく気を吐く。そして本篇初陣にして主演といふと、オーピーなのにエクセスライクな愛田奈々は、恵まれたタッパとたははなオッパイ、加へて、あまり抜かれないのが残念な抜群に美しい背中も堪らないが、何よりも効果的に切り取られた薄幸顔が素晴らしい。貧者の物語に、情感豊かに映える。但しくどいやうだが那波隆史に話を戻すと、さうはいへ演技的には決して磐石ではない新人主演女優をサポートするには、同様に心許ない那波隆史では形になり難い。いはずもがなを憚りもせずにいふが、愛田奈々×那波隆史と、愛田奈々×牧村耕次。二つの両義的な絡みを比較した場合、その差は歴然。特別出演勢に話を進めると里見瑤子はイントロダクション役を明朗にこなし、十年前に死んだ息子の蔵書を、寄贈した大森食堂図書室にて懐かしむ女に扮する佐々木基子は、自主映画にプロの女優が出演したかの如き、出し抜けな本格を叩き込む。荒木太郎が如何にも荒木太郎的に撮つた結果、如何にも荒木太郎的に仕方ない。良くなくも悪くも作家主義的な一作ではあれ、愛田奈々に現時点で二作主演作―に、二番手がもう一作―が控へることを踏まへれば、今後に大いなる楽しみを残しもする。それらが全て矢張り荒木組であることに関しては、一旦気付かなかつた方向で。
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