真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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成熟尼寺 夜這ひレイプ
新田栄
/
2012年12月23日
「
成熟尼寺 夜這ひレイプ
」(2003『尼寺の性 袈裟さぐり』の2012年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《Xces Film》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:今村昌平/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/効果:中村半次郎/製作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/出演:鈴木まひろ・酒井あずさ・山口玲子・竹本泰志・兵頭未来洋・柳東史・丘尚輝)。
大成山、新田栄の尼寺映画といふと御馴染み愛徳院、ではなく、今作で
三作続けて満光寺
。読経する庵主の浄安(鈴木)は、嘘臭い鳥の鳴き声に気付くと外の様子をテロッと窺つた上で、自室にこもり自慰に耽る。ここで、開巻時の超速を誇る新田栄にしては甚だらしくなく、いきなり浄安の一人遊びが激しくマッタリしてしまふのはどうしたものか。単なる初見に止(とど)まらず、適当に調べてみる分には殆ど何も出て来ない、謎の主演女優の鈴木まひろ。新田栄映画に連れて来られたエクセスライクな新人女優―未満―にしては、尼頭巾が清々しく似合はない致命傷さへさて措けば、ルックスも普通に可愛くスタイルも十二分に及第点。とはいへ、お芝居の方はといふと驚異的画期的非感動的にたどたどしい。濡れ場も満足はおろかほぼ全く動けないところを見るに、一体何処で拾つて来た逸材なのか。無論、ここでの逸材の“逸”は秀逸の“逸”ではなく、逸脱の“逸”である。兎も角、浄安が達するまで暫し待つてタイトル・イン、待たされるのかよ。
所変つて居酒屋、自称五十嵐(丘)が年男の大野翼(兵頭)に、町に伝はる満光寺の奇祭・卍祭について講釈を垂れる。卍祭とは、満光寺の尼僧が年に一度町に降り年男に夜這ひを敢行、見事極楽浄土の境地に尼僧を導くことの出来た者は、その年一年の無病息災どころか、ありとあらゆる運を授かるといふもの。確かに奇祭中の奇祭だ、といふか毎回毎回新田栄―と岡輝男―は、何事か尋常ならざる深い恨みでも仏教に対し持つてゐるのか。底の抜けた与太を常識的に信用しない翼に、昨年年男で浄安と相見え見事攻略したと称する五十嵐なのかが披露する、自慢話もしくは武勇伝の名を借りた濡れ場を消化したタイミングで、酒井あずさが華麗に登場。後述するが、この辺りの組み立ては地味に磐石。年男である旦那の卍祭勝利を期し、大将に頼んでおいた特製蝮酒を受け取りに、石井鈴子(酒井)が居酒屋に現れる。ここで鈴子と数語遣り取りも交す大将は、勿論完璧ならしさで新田栄が自ら出撃。
竹本泰志が、鈴子の夫・伸彦。尼僧であれ何であれ、鈴子が要は他の女と旦那が寝ることも厭はず卍祭を狙ふ目的は、なかなか授かれずにゐる子宝。自信がないらしく煮え切らない伸彦に、予行演習よと鈴子が夜の営みを切り出す一夜明け、今度は山口玲子がスムーズに飛び込んで来る。母の代りに護符を受け取りに、篠塚あずみ(山口)が満光寺を訪れる。幼馴染である翼に想ひを寄せるあずみは、翼が郷里を捨て、上京を予定してゐることに胸を痛める。あずみの健気な気持ちを知つた浄安は、一計を案じる。柳東史は、浄安があずみに語る卍祭の由来の中に登場する、村の地主の息子。昭和初期、当時の満光寺庵主・浄然(自動的に鈴木まひろの二役)と柳東史が、正しく道ならぬ恋に落ちる。ところが禁忌が村人に発覚、二人は引き離され浄然は獄門死する。その後町が疫病の猛威に襲はれた際、柳東史だけが感染を免れる。そのことに際して、浄然の魂が救つたのだと讃へられたのが卍祭の発祥である。といふのだが、そこ、普通に考へると流行り病自体が浄然の祟りだといふ話にはならないのか?といふ疑問が鎌首をもたげるのは、小生の臍あるいは人間性が激しく捻じ曲がつてゐる所以。
新田栄2003年全七作中第五作は、終盤振り回される“還俗”といふ用語を、“解禁日”か何かと履き違へてゐるかのやうな破戒的な一作。尤も、ピンク映画的には破壊的では決してないことも超え、案外以上に満更でもない。改めて整理すると、開巻の浄安模擬戦を経て、翼と五十嵐風イン。浄安V.S.五十嵐かも戦を経て、鈴子イン。鈴子V.S.伸彦の卍祭予行演習戦を経て、あずみイン。実は更にもう一度繰り返されるのだが、濡れ場を一頻り見せておいた上で、カット明けると新しい登場人物と、当然それに伴ふ新しい展開を適宜繋ぐ。女の裸でリズミカルに物語を紡いで行く構成は、何気にピンク映画として極めて秀逸。ヒロインが大根どころか、喰へもしない馬の骨であるにも関らず、よしんば中身は無いにせよ六十分をサクサク観させる、量産型娯楽映画の偉ぶらないスマートな良作である。卍祭とあずみの一途な恋心とのクロスは中盤のストレートな盛り上がり処であること、最終幕の導入が、冒頭をさりげなく回収してゐることも、忘れずに特筆しておきたい。一点惜しいのが、気の利いたオチ、のつもりの卍祭の真相が明かされる着地点自体が、疑問手といふ訳では必ずしもない。たださうなると、鈴子が来店した隙に乗じて、五十嵐ではない人が翼の前から文字通り姿を消してみせるのは、明らかに遣り過ぎであらう。
ところで今作、三本柱それぞれの絡み(非オナニー)の回数が、鈴木まひろが三回、酒井あずさが二回(何れも劇中夫婦生活)に、山口玲子は一回(対兵頭未来洋)と、形だけ見ると綺麗に定石通りではある。但し、鈴木まひろ三回の内実を冷静に検討してみたところ、柳東史との逸話挿んで残りの相手が二度とも丘尚輝(=岡輝男)であることに関しては、拭ひ難いこの野郎感が漂ふやうに思へて仕方がないのは気の所為か。
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