真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「密猟・成熟した母娘」(1998『不倫妻 密猟名器』の2007年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:大門通/脚本:有馬仟世/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:佐藤文男/照明:小野弘文/編集:金子尚樹/助監督:加藤義一/製作担当:真弓学/ヘアメイク:住吉美加子/監督助手:近藤信子/撮影助手:西村友宏/照明助手:平井元/出演:相川かおり・麻生みゅう・中村京子・久須美欽一・平賀勘一・杉本まこと)。
 主演女優の颯爽とした出社ショットを噛ませて、リンチ国際証券会社。高額契約を申し込む電話を受け取つた会沢美紀(相川)は、今月も自身がトップの成績グラフをこれ見よがしに書き足す。向かひの席―左隣には、加藤義一が見切れる―の上田夏子(中村)に秘訣を尋ねられた美紀は美貌と強要もとい教養を、アグレッシブな馬面で誇る。所変りラブホテル、美紀の娘で女子高生の有貴(麻生)と、住愛銀行融資部長の榎本則雄(平賀)との援交風景。残り二人がアレなので、初々しい麻生みゅうが異様に輝いて見える。事後、有貴は榎本の札入れから、名刺を失敬する。定吉ならぬ母子二人きりの夜の会沢家、帰宅した有貴から、榎本から得たその日の上がりと名刺を至極自然に受け取つた美紀は、都市銀行大手重職の肩書に目を輝かせる。全世界を震撼させ得る超巨大なツッコミ処に関しては、ここで躓いてゐると話が先に進まないので一旦通り過ぎる。美紀と有貴が夕食を摂つてゐると、井上春彦(久須美)からの電話がかかつて来る。井上は鎌田の町工場を潰した美紀の元夫有貴の父親で、抱へた債務から妻子を守る為に偽装離婚、目下非大絶賛逃亡中の身であつた。ところで、後々明らかとなる井上の債務額は三千万。母娘の二人住まひにしてはダダッ広い二階建ての戸建に暮らす会沢家の暮らしぶりから無責任に窺ふ分には、美紀の稼ぎで何とかなりさうにも思へるのだが。ともあれ翌日、榎本を急襲した美紀は脅迫がてら実際の台詞ママで“極上の親子丼”もちらつかせ、計二万ドルの証券契約を捥ぎ取る。首尾よく榎本を撃破し、今度は霞ヶ関の役人がいいだなどといふ明後日な話題に母娘で花を咲かせるところに、ヘタレ故飯場を逃げ出した、井上が転がり込んで来る。三人が再会を喜ぶ一方、債権取立てを専門とする弁護士の奥山金三(杉本)が、井上の気配を嗅ぎつけたのか暗躍する。杉本まこと(現:なかみつせいじ)の、黒いハンサムぶりが堪らない。奥山の接触を受けた夏子は、仕事上の妬みもあり俄然発奮、美紀の向かうを張る、枕営業を奥山に仕掛ける。未だ全盛期の中村京子の文字通りの爆乳が、全く眼福眼福。
 休日か、美紀と井上が呑気にワインを愉しむ―だから借りたものをまづ返せ―昼下がりの会沢家を宅配便の配達を偽り襲撃した奥山は、ベランダに姿を隠した井上を燻り出すべく、トランクに何故か常備する淫具も駆使し美紀を陵辱する。不法侵入に婦女強姦と実に無法な弁護士ではあるが、以降の元井上家が俄に結束を固める頓珍漢な家族リベンジ物語や、クライマックスの無造作極まりないハニー・トラップの前には、奥山の非道なんぞ可愛い瑣末に過ぎまい。借金未返済と児童虐待と売春、それぞれの脛の傷は棚に上げ、井上と美紀と有貴は井上の会社が倒産した結果失はれた、以前のマイ・ホームを取り戻すべく一致団結。それ、現在の住人はどう追ひ出すつもりなのか。兎も角今度は自ら奥山を自宅に誘き寄せた美紀は、夏子に遅れを取る肉体接待を展開、一笑に付されたところに、有貴帰宅。着替へも入浴も事実上公開した上で、まんまと喰ひついた奥山に、美紀は有貴を差し出す。どんな、あるいは何て遣り手婆だ。最終的には、一応抵抗してみせる有貴を手篭めにする奥山に、井上が証拠用のビデオを向ける。改めて開いた口の顎を外すと、娘の性を売る母親、斯様に犯罪的な悪女をヒロインに据ゑた、あれこれ苦労しながらもハッピー・エンドに辿り着く陽性の家族物語。一見他愛ないルーチンに偽装した、欧米市場への輸出は絶対に不可能なアナーキーな問題作。といふのは、為にする滑らせた筆であることは、この期にいふまでもなからう。とまれピンクの御旗の下に、如何に底の抜けた無茶といへど驚異的にすんなり通してみせる大門通の魔術。ある意味でも別の意味でも逆の意味だとて、名匠の名に値しよう。一点頂けないのが、所々で井上の口に上らせる中途半端な時代認識は、大門通のスマートな娯楽性にはそぐはなく映る。

 旧版を踏襲してポスターに踊る惹句が奮つてゐる、“証券レディーの下半身もビッグバン!”。今新版の公開翌年には、リーマン・ショックも起こる訳だが。


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