真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「鍵穴 和服妻飼育覗き」(1999/製作:国映/配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:福俵満/企画:朝倉大介/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:森角威之/撮影助手:岡部雄二・岡宮裕/協力:劇団 星座・セメントマッチ/出演:葉月螢・里見瑤子・水原かなえ・杉本まこと・熊谷孝文・かわさきひろゆき)。協力の劇団星座は、かわさきひろゆき主宰。セメントマッチは、池島ゆたかの制作プロダクション。
 昭和二十六年秋、猟奇的な作風で人気を博した探偵作家・奥出周平邸―無論、御馴染み水上荘である―を、親交のあつた矢張り流行作家の三國(かわさき)が訪ねる。尤も、奥出は二年前より行方不明で、妻の民江(葉月)が三國を迎へる。奥出は隠遁癖のある人物であつたが、三國と交した書簡の中では、互ひの日常生活のことまで包み隠さず報告し合つてゐた。三國は何某か含むもののある風情で、奥出と民江との馴れ初めからを振り返り、民江も適宜それに答へる。森の中で首を吊らうとしてゐる民江を、散策する奥出が引き止めたのが、そもそもの出会ひであつた。以前は新橋のカフェーで女給をしてゐた、といふ他は民江の素性はまるで知れないままに、惚れ込んだ奥出が求婚する形で、二人は結婚する。ところが奥出は不能で、倒錯的に民江を責める日々が続く。そんな夫妻と、女中の忍(里見)三人きりの奥出家にある日、特攻くずれの小幡仁志(オバタの漢字は、非大絶賛推定といふ名の適当/熊谷孝文)が、弟子入りを志願して現れる。住み込みの書生となることを認められた仁志は、実は元々、東京で民江と深い仲にあり、良家の子息である仁志との家柄の違ひに悩んだ末に、民江は自死を図つたものだつた。そして、文芸雑誌のグラビアで民江が奥出の妻となつたことを知つた仁志の、目的は最初から民江であつた。危ふい均衡は、やがて崩れる。一人で取材旅行に出た奥出が家を空けた隙に、遂に民江は仁志に抱かれる。ところがところが、グッドなのかバッドなのかよく判らない抜群のタイミングで、忘れ物を取りに戻つた奥出に目撃されてしまふ。綺麗に激昂した奥出は、日本刀を抜くと二人を、心を病んだ父親を晩年幽閉した蔵の中に監禁、人畜として飼育する。餌として与へられる食物の中に強精剤を混ぜられ、人間性を喪失した民江と仁志は正しく獣のやうに交はる。ここに至つて、三國は、告発でも金銭でもなく三國も民江を目的に、大胆な推理を披露する。奥出は行方不明になつたのではなく、機を見て逆襲に転じた民江に、殺害されたものではないのかと。
 水原かなえは、奥出家に潜り込んだものの、なかなか民江と想ひを遂げられず荒れる仁志に、買はれる女郎。純然たる三番手裸要員ながら、デビュー翌年であることも改めて想起すると、驚かされるほどの安定感をさりげなく披露する。水原かなえの相手役を熊谷孝文が務める、といふことは、絶好の雰囲気になりかけるやその都度忍から横槍を入れられる、かわさきひろゆきは今作終に濡れ場の恩恵には与れず。
 前年に先行した二作、「痴漢覗き魔 和服妻いぢり泣き」(1998/脚本:岡輝男/主演:葉月螢)と「好色長襦袢 若妻の悶え」(脚本:武田浩介/主演:葉月螢)とが、それぞれ「鍵穴 和服妻痴漢覗き」・「鍵穴 長襦袢欲情覗き」と改題されVHSリリースされた際のヒットを受け、初めて初めから鍵穴ブランドを冠して製作された、事実上の“鍵穴3”である。今回は旧題ママによる2011年二度目の新版公開で、因みに2003年最初の旧作改題時新題が、「鍵穴3 若妻監禁飼育」。即ち、ここでは白状した格好となる。シリーズの代表作とも目され、概ね世評の高い一作ではあるが、改めて数度どころではなく再見してみたところ、三國が開陳する奥出からの便りの中身と、民江の証言。所々で、三國の下心に絶妙に水を差す忍の合の手を挿みつつも、二手きりの遣り取りを順繰りに繰り返し通り一遍等を素直にトレースする始終には、一本調子のきらひも禁じ得なかつた。とはいへ、既に何度も観てゐる以上当然既知にも関らず、衝撃かつ圧巻のラストに至つての、猛然と映画を畳み込む一気呵成の求心力に対しては流石の貫禄の一言に尽きる。例によつて出鱈目をいふやうだが、開巻付近に於ける新田栄の電光石火と同様かそれ以上に、幕引き際に深町章が発揮する、正しく画竜点睛は成程侮れぬと、この期に及んで今更ながらに再認識させられた。


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