真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「妻の母 媚臭の甘い罠」(2007/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:水上晃太/撮影助手:浅倉茉里子・塚本宣威/監督助手:佐久間信隆/選曲:梅沢身知子/効果:東京スクリーンサービス/出演:大城真澄・中山りお・瀬名ゆうり・天川真澄・柳沼宏・牧村耕次)。撮影助手の浅倉茉里子に関しては、“朝倉”茉里子の誤字ではない。少なくともピンクのクレジットに際しては、“浅倉”で打たれてある。
 人事部長の木内貴志(牧村)は、24歳下の美沙(中山)と再婚する。一見幸せな新婚生活を送る貴志ではあつたが、朝刊に折り込みチラシと共に挟み込まれた、怪文書に悩まされる。度々貴志に宛てられた古典的な切り貼りの怪文書は、美沙の不倫と、そのことが公になつた場合妻一人管理出来ぬ貴志の、人事部長としての社会的地位が危ふくなることとを告発してゐた。思ひあぐねた貴志は、美沙の母親・大場智子(大城)を訪れる。美沙にはひた隠しにしてゐたが、貴志と智子とは実は大学時代の先輩後輩で、かつては結婚を考へぬでもない男女の仲にあつた。卒業後疎遠になり互ひに別の相手と結婚した後、貴志の美沙との再婚を期に、驚きの再会を果たしたものだつた。智子は、貴志の力になることを快諾する。
 後日智子は貴志に、美沙が貴志と結婚する以前に交際してゐた、一ノ瀬亮(柳沼)と依然会つてゐる事実を伝へる。衝撃を受けた貴志は、激情のままに今は義母でもある智子を抱いてしまふ。形だけの抵抗は見せつつ、智子も貴志に体を任せる。一方智子は怪文書の犯人に関して、貴志のプライベートに詳しい者に違ひないといふことから、不倫交際を父親に反対されて以来、家を出て別居中にある貴志の前妻との間の娘・杏里(瀬名)の存在を示唆する。
 怪文書が告発する、歳の離れた新妻の不倫疑惑に苦しむ男。男が頼つた妻の母親は、男と若き日には恋人同士にあつた。妻の不倫が事実であるかも知れないことに我を失つた男は、偶さか義母との一線を越えてしまふ。そして果たして、怪文書の犯人とは一体・・・・?といふ、桃色要素に関してもなかなかに凝つたプロットによるサスペンスである。前言即座撤回、サスペンスとしては、特に凝つてゐる訳では別にない。まづ躓いたのが主演の大城真澄、ポスター写真では蕩けさうないい女に見え、事前には大いに期待感を掻き立てられたものではあつたのだが。いざ実際に画面の中で動いてゐるところを前にすると、好みによる部分も小さくはないのかも知れないが、首から上がどうしてもニューハーフ然として見えてしまふ。首から下は矢張り、柔らかさうで堪らない体をしてもゐるのだが。俺は何を無防備に筆を滑らせてゐるのだ、直截にも程がある。怪文書の犯人探しに際しては、一応ミスリーディングの一手が施されてはゐるものの、濡れ場要員まで含めても、登場人物は総勢六名といふ所詮は安普請である。観客があれこれ迷はされるだけの、物理的環境がそもそも整はないことは矢張りいふまでもあるまい。犯人の動機、の説明については、十分意が尽くされてはゐるが。遂に貴志が真相に辿り着いたところで、唐突に挿み込まれる事件の発端となる一夜の回想に於いては、何時もの時制移動がへべれけな、関根和美の悪癖が相変らず披露される。濡れ場で締めはするとはいへ幕引きも展開上は宙ぶらりんなままで、正攻法のサスペンスに大きな破綻は無いといへば無いものの、詰めはあちこち甘く、最終的には派手に仕出かしてゐないだけに却つてツッコミ処にも欠く一作ではある。
 一箇所通り過ぎることが出来かつたのは。怪文書の犯人探しに際して、貴志のプライベートに詳しい者の筈といふ傍証として、貴志が再婚したことを会社には内緒にしてゐるといふ点。扶養家族も一人増えるといふのに、しかも貴志のポストはど真ん中にも人事である。そのやうな方便が通るものか。
 天川真澄は、杏里の不倫相手・飯島幸一。劇中妻とは離婚が成立したといふので、その限りに於いては既に不倫ではない、ともいへる。例によつて、清々しいまでの濡れ場要員である。

 それなりに努力の跡が窺へはするのだが、少なくとも貴志宅と智子宅とは、同じ一軒家にて撮影されてゐる。行つたり来たりされる二軒が実は同じ家だといふことで、舞台転換にも些かならずメリハリを欠いてしまふ感は禁じ得ない。関根映画でウルトラ頻出のこの一軒家は、要は関根和美の自宅といふことでFAなのか?
 智子に唆されるままに実の娘を疑つた貴志は、枯葉散る秋の公園に杏里を呼び出し、激昂した杏里にまんまと完全に訣別されてしまふ。枯葉に彩られた晩秋の公園のショットは、映画的に色彩も豊かで実に美しい。とはいへ、ところで今作の封切りが(07年)四月であることを鑑みると、撮影時期と公開時期とが、ピンクにしては空いてゐるといへば空いてもゐる。


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