真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「人妻と大学生 密会アパート」(2004『人妻・OL・美少女系 悶絶アパート』の2007年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:かわさきりぼん/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/現像:東映ラボ・テック/出演:華沢レモン・谷川彩・林田ちなみ・なかみつせいじ・白戸勝功・高橋剛・かわさきひろゆき)。幾ら内容に即してゐるにせよ、また随分と杜撰さすら感じさせる旧題ではある。美少女ではなく“美少女系”といふのも、その“系”とは一体何なのだ。因みに実際の登場順としては、OL・人妻・美少女系。チケット売り場の売り子を、OLといふのは厳密には必ずしも正確でないやうな気もするが、オフィスではないからな。全篇中1/3に特化した新題も、最早清々しささへ感じさせる。
 黒テープで厳重に封印された開かずの間と、初めから部屋には一匹の文鳥。真田竜二(白戸)は開かずの間を決して開けないことと、文鳥を飼ふこととを条件に、大家(かわさきひろゆき/りぼんは配偶者)から破格の安さで部屋を借りてゐた。竜二の部屋に、付き合ひ始めて一週間の彼女・横田美樹(谷川)が遊びに来る。いきなりこの部屋での同棲を申し出る竜二を美樹は到底理解出来ないが、竜二は、チケット売り場で働く美樹の姿を長い間追ひ駆けてはゐた。さういふのは、当代ではストーカーといふ。原因は語られないまゝ、竜二は筋者に三百万の借金を抱へてゐた。ある日美樹が竜二に別れを告げるのと同時に、無造作に菓子缶に詰めた現金を届けに来る。その金は、抱き締めて呉れるなら誰でもよかつたと、竜二と出会ふまでの美樹が体を売つて得たものであつた。
 文鳥が見守つてゐた、竜二の前のこの部屋の住人。三十代の人妻・田中郁子(林田)は大学生・小島友哉(高橋)との交際に溺れ、家庭の全てを捨てこの部屋に流れて来た。ところがやがて友哉は歳の近い若い女と浮気するやうになると、年齢的にも後のない郁子は激しく詰め寄り、痴話喧嘩となる。友哉が吐き捨てた「オバサン」の一言に逆上した郁子は、自らも死ぬ覚悟で出刃を抜く。
 文鳥が来る前からの、この部屋の住人。碇三郎(なかみつ)は勤めてゐた会社が倒産し失業すると、妻娘には逃げられる。けふも日雇ひの仕事に憂き身をやつした三郎は、くたびれた帰り路、何があつたのか行き倒れた少女・遙(華沢)と出会ふ。三郎が連れ帰り手当てすると遙は三郎の部屋にゐつき、束の間で儚くも、二人だけの幸せな生活が始まる。文鳥も、遙が買つて来たものだつた。
 リアルタイムで既に答へは出されてもゐるが、遙と三郎のエピソード1が、竜二と美樹のエピソード3、と郁子と友哉のエピソード2に、文鳥がゐる同じ部屋での出来事といふ以外に、欠片たりとて関つて来ない辺りが最大の難点。加へて、今時のケータイ小説並に安くも、抱き締めて呉れるなら誰でもよかつたと、体を売る美樹の寂寥。在り来りとはいへ、若い男と全てを捨て家を出たまではいいものの、男は若い小娘に奪はれつつある。さういふ年増女である郁子の、正しく後のない焦燥。二人の女の孕んだ情念には、何れも血肉が通つてゐる。美樹の安アイドルのやうな―恐らくは谷川彩手持ちの―衣装には逆説的なリアリティが透けて見え、郁子の荒れた心と覚悟とを、文鳥に雨のやうに降り注がれる餌を以て描いたショットは映画的。対して、人の生き死にが関つて来るとはいへ、遙と三郎のエピソード1が如何せん弱い。菓子細工のやうなロマンティックは映画の題材としては決して悪くはないのだが、チャチからうともロマンティックをきちんと成立させるには、一本60分のピンクを三つのエピソードに割つてしまつてゐては、どうにも尺が足らない。遙と三郎が選んだ結末までが、矢張り些か遠い。エピソード3・2の両篇に於いても、借金だ心中沙汰だと話を揺り動かした割には、畳む段がまるで割愛されて済まされる点に関して穴は決して小さくはない。欲張り詰め込み過ぎた脚本の配分ミスから窺へなくもない、買へはしても成就は果たせなかつた意欲が惜しい一作。書き込まれてはゐたものを、撮影の段に深町章が尺を鑑みて削つたものやも知れないが、さうであつても結果としては変るまい。

 側面的な見所が安アパートの狭い風呂場での、遥と三郎の入浴シークエンス。体を洗つてあげる、と遙が湯船から出て来るカットで、かなり無防備な華沢レモンの陰毛ヌードにお目にかゝれる。無理矢理纏めてみるならば、林由美香の跡目を継ぐ“最強のピンク五番打者”華沢レモンの、代表作たり得ない主演作のワン・ノブ・ゼン、とでもいへようか。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )