弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

東電発表「1号機の非常用復水器動作状況評価」

2011-11-23 20:25:40 | サイエンス・パソコン
11月22日、東電は「福島第一原子力発電所1号機非常用復水器の動作状況の評価について(pdf)」という資料を記者会見配付資料として公表しました。

津波来襲らか1号機水素爆発に至る初期段階において、1号機の非常用復水器がどのように作動していたのかについては、今までも、5月23日東電報告書(pdf)、6月18日東電報告書(pdf)、NHKニュース 8月17日(冷却装置停止 所長ら把握せず)で公表された事実に基づいて解析を行い、「5月23日東電報告書(2)1号機)」、「6月18日東電報告書(2)1号機」に記事にしました。
そしてそれらをまとめ、「非常用復水器の動作メカニズム」、8月18日の「1号機の非常用復水器稼働状況」の記事を書きました。
さらに先日、1号機非常用復水器の潜在的可能性において、非常用復水器がきちんと動作する環境が整えられれば、全交流電源喪失時にも原子炉を有効に冷却できるのではないかとの推計を記事にしました。

今回、11月22日に公表された資料では、今までに知られていた事実にさらにどのような新規判明事実が加わり、その結果、発生事象の推測がどこまで進展したのでしょうか。

従来は、以下のような推定がなされていました。
[3月11日]
14:52 非常用復水器(IC)自動起動
15:03頃~ ICによる原子炉圧力の急激低下を防止するため、ICのオン・オフを手動で行う。IC2系統(A系、B系)のうち、B系は停止し、A系のみでオン・オフを行っていた。
15:37 全交流電源喪失
  津波来襲時、「非常用復水器の配管破断」有無を検出するための計器の直流電源が失われ、フェールセーフ動作として「非常用復水器の配管が破断した」という信号が発信され、これによって非常用復水器の隔離弁が自動的に閉操作した可能性がある。
18:18 一時的に操作盤のランプがともり、A系のバルブが「閉」であることがわかったので、A系の戻り配管隔離弁(MO-3A)、供給配管隔離弁(MO-2A)の開操作実施、蒸気発生を確認。
18:25 ICの戻り配管隔離弁(MO-3A)閉操作。
  「復水器が起動していれば発生するはずの蒸気が確認できなかったため、1号機の運転員が復水器の中の水がなくなっていわゆる『空だき』になっていると疑い、装置が壊れるのを防ごうと運転を停止した」と証言しています。
21:30 ICの戻り配管隔離弁(MO-3A)開操作実施、蒸気発生を確認。

それでは今回公表された報告書を読み解きます。
『10 月18 日に実施した現場調査で、格納容器外側の機器、配管に冷却材の流出に至るような損傷は確認されなかった。また、現場で確認したICの冷却水量を示す胴側水位レベルについてもA系が65%、B系が85%であることを確認した。』
これが新たな判明事項ですね。地震発生直後の冷却水量は80%弱とのことです。

『ICの冷却水温度のチャート(平成23 年5月16 日公表済:図2に示す)を確認したところ、蒸気と冷却水の熱交換により、A系、B系ともに冷却水温度が上昇していることが確認できる。A系は自動起動した後、一旦停止するまでに約70℃まで上昇するが、その後も津波が到達する15 時30 分頃まで継続して上昇し約100℃に到達している。一方、B系は一旦停止する15 時以降、約70℃で一定となっている。』
今まで気づきませんでした。5月23日東電報告書に掲載されていなかったので目に留まらなかったのです。
A系の冷却水温度は、津波が来襲したときにちょうど100℃に到達しました。冷却水が蒸発して容量が減少するとしたらそれ以降です。そして、10月に確認したところA系の冷却水量が65%ということで、津波来襲後に冷却水量が80%から65%まで減少したということは、津波来襲後もA系が作動していたことを示します。
圧力容器とA系との循環ループには4つの弁(1A、2A、3A、4A)があり、1Aと4Aは格納容器の中なので状況確認できません。津波来襲時のフェールセーフ動作で閉指令が自動的に出されたものの、全閉とはならなかったのだろうと推定しています。津波来襲後もA系が作動していたことが分かったからです。

11日の21:30にA系の「開」操作を行ったにもかかわらず、A系の冷却水量は65%までしか減っておらず、ICによる冷却効果はきわめて限定的であったことがわかります。なぜ圧力容器をもっと冷やすことができなかったのか。今回の報告書に推定が記載されています。
『燃料の過熱に伴って、水-ジルコニウム反応により発生した水素がICの冷却管の中に滞留し、除熱性能が低下した可能性が考えられる。
時期は不明だが、遅くとも 12 日3時頃には原子炉圧力が低下していることから、この圧力の低下により原子炉で発生した蒸気のICへの流れ込む量が低下し、結果としてIC性能が低下した。』

以上のように、最近の調査結果を踏まえた今回の報告により、1号機非常用復水器がどのような状況にあったのかの推定が一歩前進しました。

長くなったので以下次号。
コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 南スーダンでのJCCP活動 | トップ | イニシャルDと碓氷峠めがね橋 »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
インターロックは働いていない (虹屋のヒゲ親父)
2011-11-25 20:37:10
東京電力は非常用復水器(IC)のB系の4つある弁のうち2B弁を現場調査(10/18)から全閉状態としている。しかし、10/21の東電記者会見では2Bは開状態としており、東電から19日に報告を受けた原子力・保安院は2B弁は開状態と公表している。11/24の地震被害情報(第302報)でも変更されていない。

11/22の東電のIC作動状況評価は、保安院の公表の現地調査結果「2B弁は開状態」とちがう、いわば虚構の上になされている。
返信する

コメントを投稿

サイエンス・パソコン」カテゴリの最新記事